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山岳カルマ【毎週ショートショートnote】

私は貪欲な海の底だった。
冷たく、暗く、濡れた場所にいて、上から幾度となく何かが降って、降りてきては私の上に積もっていく。
私はこの降りて来たものが羨ましくなった。
この冷たく、暗く、濡れた場所から抜け出して、
きっといつか上を目指したいと思った。
この舞い降りてくるカケラたちがどこから来るのか、その世界を見てみたいと思った。

何万年もかけて、私海の底から上を目指した。
周りの土地を巻き込んで、私は盛り上がった。
盛り上がった私は、水から顔を出し、空気に触れ、更に褶曲したりを繰り返し、人々は私を山と呼ぶようになった。

山となってから、私を氷河が流れて行った。
たくさんの雨が流れていき、私を削って行った。
削られた私は、欠片となり、谷を下り、川を流れ、やがて河口に出る。
そしてそのうちにと海へと辿り着く。

海へ辿り着いた私は下へ下へと沈んでいった。
明るく乾いた世界から、冷たく、暗く、濡れた世界へと還って行く。

ああ、舞い降りて来る欠片は私だった。
それでもまた私は上を目指す。
私は何万年を幾度となくかけ、このめぐりを繰り返す。


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