化学反応 【超短編】

私は浮遊する小さな小さな物体。
きっと、誰も私の存在に気付かない。
私は双子と共に、あちらこちらへと飛び回って、悠々自適に暮らしていた。

空が青い日も自由に飛び回り、風が吹けば吹き飛ばされたりしながら。
道端に咲く小さな花の葉から、街路樹のプラタナスの葉から、様々な植物の葉から仲間が生まれてきては、手を繋いで一緒に遊ぶの。
私たちはきっとずっと友達だよねなんて言って。
でも、急に人間に吸い込まれている仲間を見たりもして、センチメンタルになる。
私もそのうちどこかに吸収され、また出て来たりするのかな、なんて、
そうしたら私は私であって、でも私ではなくなっているかもしれない、そんなことは怖いなんて思いながら。

でも、ある日私はあの方が好きになってしまった。
ある日空から見つけた小さい庭に佇むブリキのおもちゃの車。
なんて素敵なんでしょう、ひっそりと佇むその姿、凛々しい。
渋い鈍色をしたクールな姿、素敵。
周りの鉢の植物たちに紛れて、一人そっと際立つその存在感、可愛い。
ああ、私は彼が気になって仕方がなくて、双子と生き別れても彼と一つになりたくて。


そして彼女の恋は叶う。
彼女は双子と別れて、彼と一緒になって、恥ずかしくて赤く染まる。
これが金属が錆びるということ。



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