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『夢子ちゃん』の創作裏話 〜紙から電子へ転換期〜

「青野さん、Webでマンガを連載してみませんか?」
と、編集者Tさんから提案された。

2014年の話だ。

今のようにスマホやタブレット、パソコンでマンガを連載するというのは、まだまだ定着しておらず出版関係者も漫画家も懐疑的で嫌悪感さえ持っている人たちの方が圧倒的に多かったし、僕自身も抵抗感は正直あった。

マンガに限らず、小説や雑誌や専門書は当たり前に紙の本を読んで育ったので、Webならではの強い光で目がチカチカするし、紙のような質感は消えてしまい読みにくいと思ったし今もそう思っている。

ただ、ネット環境は目覚ましく進化する一方で出版業界や紙の本はあきらかに遅れをとり、マンガに限らず読書をする人たちが確実に減り続けているのは肌で感じていた。

結果、何人かの関係者からの反対の声を聞くことなくWebでのマンガ初連載を承諾した。

今(2020年)となってみればマンガアプリまで作られて、簡単にスマホやタブレットでマンガを読む方が主流になりつつあるし、その為の環境もずいぶん整ってきたように思う。

僕が『夢子ちゃん』を開始した時はアプリはまだなく出版社のホームページから読めるという形だったと記憶している。

前記したとおり、当時Webマンガは環境も全く確立されていないに等しく実験的な状態だったので、原稿料も無いに等しく(初めは原稿料なしで打診されたがマンガは仕事なので少額だけでもと条件を付けさせて頂いた)そもそも、Webマンガ自体が出版業界でも全く重要視されていなかったので予算も回ってこなかった背景もある。
なので、連載自体は無償に近いけど単行本の印税で帳尻を合わせると言うところに着地点を見出すしかなかった。

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『夢子ちゃん』のWeb連載が始まっても、皮肉や安売りを後悔する等の言葉は特に出版関係者から言われた。

それでも僕が、殆どお金にもならず都落ちをしたように言われてもWeb連載を承諾した理由は、あの頃は実際マンガ読者は減り続けていたし、マンガ雑誌を読まなくなった人たちが例えWebマンガきっかけでも、マンガを読むことで「マンガそのものに興味を持ってくれたら嬉しい」というデビュー当時から一貫した僕の気持ちがあったからの一言に尽きる。

とは言え、自分の描いたマンガは紙の本で読んでもらいページをめくる楽しさや、本を開いたときに視界に入る全体のコマ割り、そして絵や台詞のバランスを余すことなく堪能して楽しんでほしいとは今でも思っているし、その醍醐味を感じてもらえることを一番に意識して描いてはいる。

それは、どうしても僕自身が本の質感やページをめくる紙ならではの魅力を電子書籍では味わうことが出来ないことを実感しているからである。

さて、紙の本と電子書籍への僕個人の考えはこの辺にして『夢子ちゃん』の話へ戻りたいと思います。

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Webの連載依頼を承諾した僕が、まず担当編集Tさんに確認したのは根本的なことで、マンガの表示が縦スクロールなのか横スライドなのかでした。
まず、それだけで相当描き方を変えなくてはならないからです。
『夢子ちゃん』が横スライドの表示になることを確認した僕は早速内容を考えました。

Web連載、1ページづつの表示、画角が読む人によって変わるなど、まずはWebでも読みやすく描くことを意識しつつ、紙の単行本になってもしっかりと読めるマンガを描く。

マンガの内容に関しては任せて頂けたので、携帯で読めるマンガだから「電話」と「繋がり」を軸に話を作ることにした。

それと、僕は初連載『俺はまだ本気出してないだけ』の2巻を描いてるあたりから、いくつかの重度な精神病を患っていたのでこれもマンガに活用することにした。

“ 精神疾患を抱えながら14年間の引きこもり生活を経て、28歳になった女性が意を決して一人旅へ出るというロードムービー的な話とした”

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けれど、主人公の女性が薬を飲んだり不安定な雰囲気はマンガに描いたけれど、精神疾患による具体的で見ていて辛くなるような描写を一切省いてマンガにした。
それを描くことで病気の辛さや苦労を描いて共感を得るような手法よりも、何が彼女の中で起きているのかイマイチ分からないことが、このマンガには必要だと思った。

誰かの愛情や優しい気持ちで治る種類の病気ではないからです。

精神疾患の人物を扱った作品によっては共依存によって寄り添いあう場合や、共依存によって関係が破綻する場合の二つのパターンが用意されていることが多い印象がある。

そんな風にドラマチックな作品にはしたくなかった。
主人公の女性も読者もどうしたらいいのかわからないことが『夢子ちゃん』というマンガと読者の一番望まれる繋がりだと思っているから。

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わからないからいいこともある。

だからこその話。


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