【読書】令和・父・ニッポン |星新一
私の父はとてもおしゃれです。家のテレビの上の棚には父の集めた何百枚もの洋楽のCDが飾られているし、台所の棚にだって年代物?のお酒の瓶が並び、父はそれを晩酌の時にこれまたおしゃれなグラスやカップで嗜むのです。おしゃれゆえに私の好きなものを軽んじられたように感じて確執があったこともあるのですが...
かくいう私も父の趣味に少なからぬ影響を受けてきた一人です。まだお酒が飲める年ではないですがお酒のおつまみの生ハムやナッツ類が大好きで、将来は呑兵衛になると親戚からよく言われます。音楽に至っては父と、母も好きなジャズピアニストの上原ひろみさんにはまり彼女の曲「Place to Be」に挑戦したこともあります。(ちなみに難しすぎて弾けるようになるまで6ヶ月かかりました。)
そして本に関しても、小学生の頃に影響を受けて読み始めた作家がいます。ショートショート作家の星新一さんです。
幼少期から本が好きだった私は地元の図書館に通い詰めていました。児童書コーナーを何百遍も見て気になる本を読み尽くしたころと、児童向けの本では物足りなくなってくるころが同時だったように思います。そう母に言ったところ、母は私が児童書コーナーで今までスルーしていた理論社の『星新一ショートショートセレクション』を勧めてくれて、「気に入ったらお父さんが文庫本を持ってるから貸してもらいなよ。」と言ってくれました。
星新一を読んだことのある大抵の人には同意してもらえるように思いますが、星新一作品は一度知ると新発売の飴の味をしめたように、すごいスピードでそればかりを摂取するようになります。ハッピーエンドの御伽話や心温まる友達同士のお話しか知らなかった私が、彼の無機質でナンセンスで、何より最後にひやっとするオチにあっという間に虜になったのも当然でしょう。まずは例の『ショートショートセレクション』をあっという間に読み終わり、自分の部屋にいた父に文庫本を貸して欲しいと声をかけました。
父の部屋はなんとなく入ってはいけない聖域のような気がしてドアの外で待っていた私。壁に作り付けられた金属の棚に平積みしていた中から父が引っ張り出してくれたのは『さまざまな迷路』と 『ひとにぎりの未来』、そして『気まぐれ指数』でした。理論社の白がベースの和田誠さんイラストのポップでコミカルなハードカバーの装丁とは違い、古本の匂い漂う真鍋博さん、金森馨さんイラストの明らかに「大人の本」です。渡してくれた父はどことなく嬉しそうな気がしていたのを覚えています。
それからも星新一熱は冷めることなく、ブックオフで買ったり誕生日プレゼントでもらったりして集めた文庫本は40冊以上、今でも実家の私の本棚に詰まっています。でも父にもらった3冊は(気まぐれ指数は長編なのでまた違いますが)、その中でも一番面白いように思えます。最初の頃に読んだからでしょうか。
私は、父の部屋の扉の向こう、大人の本に触れる興奮を今でも思い出すからだと思っています。
大学生になった今でも時々、図書館で星新一を借りて読みます。図書館の本はどれもビニールで加工された綺麗な本で、読むのも4度目、5度目くらい。最初の時の中毒のような面白さはもう感じられないけれど、ビニールのじわじわした表面に触れながら、私は実家の本棚の古本たちの触感を思い浮かべています。
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