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ATGってなんぞや?

映画が好きでずっと観ていると、カルチャーとしての映画史にぶつかる。
初めて体験したのはベトナム戦争においての”アメリカン・ニューシネマ”であった。
その後、ネオレアリズモヌーヴェル・ヴァーグに出会い、日本映画においてはATGと出会った。
ん?ATGってなんぞや?

ATGは日本アート・シアター・ギルドだっ!

ATGは日本アート・シアター・ギルドの略である。

1960年代に発足し、既存の日本映画とは一線を画した傑作の数々を世に送り出した伝説の映画会社「日本アート・シアター・ギルド(ATG)」。同社はフランスのヌーヴェルヴァーグ、イタリアのネオレアリズモ、アメリカのニューシネマなどの世界的な映画の潮流を背景に、他の映画会社とは一線を画す非商業主義的な芸術作品を製作・配給した。その作風は前衛的な芸術作品や野心的な青春映画を中心に、不穏さや陰鬱さに満ちたもの、そして性や愛を過激に描く作品も多く、若者たちから絶大な支持を受けた。また森田芳光や井筒和幸、大森一樹などの若手監督を起用し、日本映画史に多大な影響を与えた、まさに伝説的な映画会社だ。

http://kingmovies.jp/atglibrary/より

なんということだ。自分が知っている映画文化がすべて詰め込まれたのがATGだったのか。
という事実を知り、ATGについて調べると、
1961年の設立当初は、海外より優れた芸術作品を配給するという名目であったとのこと。海外作品の輸入価格の高騰により、ATGは配給するだけでは経営困難に至ってしまう。
考えた末、1960年代末にかけて独立した映画監督たちが鮮烈な作品を発表する場へと形を変えていく。

この時代背景の中で興味深いのは、1960年代からの学生運動のムーブメントである。社会が混沌とした中で、アートさやアンダーグラウンドな雰囲気を持ったATGは若者たちに支持を受けたのであろう。この傾向は漫画雑誌『ガロ』にも共通の感覚を覚える。

んで、ATGの従来日本映画との違いは何か?

じゃあここまで見てきて従来の日本映画たちと、ATGとの作品の何がどう違うのかというところである。

1.非商業的な芸術作品

前衛的な作風と言い換えることもできるが、映画にはストーリーがあり起承転結がそろっているものばかり。
その風潮を日本で変える流れはATGからではないかと思われる。
映画は芸術ではあるが、結局のところお金を稼げないと意味はないものであるから、非商業的な芸術作品は一部しか受け入れられず、この部分にATGが入り込むといった構図になる。

2.不穏さや陰鬱さに満ちたもの

暗いし破滅的。決して観終えた後の爽快感が待ち受けているわけではない。
上記の世界の映画ムーブメントを下地にしていることで、従来の日本映画の潮流に新しい流れを生んだ。(当時の邦画については勉強不足なので、従来作品との比較ができないが…。)
当時のベトナム戦争や公害問題など、日本および世界が直面した暗き世界に対する悲痛さが、映画という芸術の中で痛烈に表現されている。

3.低予算、若い映画監督たち

1とも関連するが、非商業的な芸術作品が多いため資金は心もとない。
その中でどのように作品を作り上げるかに監督の力量が込められている。
ATGは当時では若く無名な監督も数多く、内容も青春映画(ちょっと痛い)などが多く見受けられるようだ。
また、2のように若いがゆえに未来の明るさが見えない不安感から暗い作風も多く見受けられる。

以上の3点は従来とは異なるとして認識しているし、自分が何作か観ただけでも感じ取れた箇所である。
日本映画の黄金時代が1940~1960年と言われている中で、次いで日本映画産業を支えた(かはわからないが)ムーブメントなのかもしれない。
当時の扱いがどのようなものだったのかは、今ではわからないし語ることができないのが悲しい限りだ。
テレビの急速な普及とともに日本映画産業も陰りが見え始め、だんだんと勢いを失い始めていく。うーん、時代はつながっているなぁ。

そんなATGの作品と言えば

そんな日本や世界の社会情勢を感じられるATGの作品である。
どれも素晴らしい作品ばかりだが、観ておきたい作品を紹介したい。
※あくまでも自分の観たことがある中での紹介です。あしからず…。

『肉弾(1968)』 監督:岡本喜八

 「独立愚連隊」「日本のいちばん長い日」の岡本喜八監督による戦争ドラマの傑作。特攻隊員となった若者が作戦遂行直前に与えられた一日だけの休日に体験した瑞々しい出来事を通して戦争の愚かさとそれによって踏みにじられた幾多の青春への思いをコミカルなタッチで痛切に描く。

Yahoo映画より

「戦争批判」を掲げた岡本喜八による戦争ドラマ。
取り残された”あいつ”の戦時下の苦しみの中訪れた青春と戦争への非難。
決して深刻すぎず(深刻なんだが)、重苦しさとコミカルさが混ざり合った何とも不思議な感覚の作品。

『田園に死す(1974)』 監督:寺山修司

自身の同名歌集を映画化した自伝的作品。青森県・恐山のふもとの村。少年時代の“私”は父を亡くし、古い家屋で母と2人で暮らしていた。少年の唯一の楽しみは、イタコに父の霊を呼び出してもらい会話することだ。隣家に嫁いできた美しい女性や村にやって来たサーカス団が、少年を家出の誘惑へと駆り立てる。やがて上京した“私”は中年となり、1本の映画を撮る。そんな“私”の前に、少年時代の自分が現れ……。「十三人の刺客」などの菅貫太郎が主演を務め、隣家の妻を八千草薫が演じた。

映画.comより

画像からして異端さを感じるだろうが、歌人でもあった寺山修司が自身の歌集より映画化。自伝的作品であるがゆえに、かなりメタ的な構造がとられており、村に住む人々も異様。映像の自由さを感じられる本作はまさにATGっぽい。

『家族ゲーム(1983)』 監督:森田芳光

松田優作扮する三流大学の7年生という風変わりな家庭教師が、高校受験生を鍛え上げる様をコミカルに描く。音楽なしの誇張された効果音、テーブルに横一列に並び食事をするという演劇的な画面設計など、新しい表現が評判となった森田演出が冴えるホーム・コメディの傑作

映画.comより

おそらくATGで一番知名度が高いであろう本作。受験戦争やいじめ、核家族という形の家族形態による弊害など、当時の時代背景を絡めながら、松田優作の変人とも言うべき家庭教師が掻き回すといった作品。まさに絶妙なシュールさ。

ATGは時代が生んだ最高のムーブメント

結論としてATGは、当時から勢いを失った日本映画界の中で生まれ、映画配給コスト高騰によって生まれ、テレビが普及したおかげで生まれ、学生運動のムーブメントで若者から支持され、様々な要因から生まれ育ったものである。
そんな時代背景に心踊るし、映画を芸術として定義し続けた会社には愛を感じる。
その唯一無二な世界観にぜひ鑑賞して浸っていただきたい。
ポスターだけでもおしゃれだから見てみるのはありだと思う。

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