ATGってなんぞや?
映画が好きでずっと観ていると、カルチャーとしての映画史にぶつかる。
初めて体験したのはベトナム戦争においての”アメリカン・ニューシネマ”であった。
その後、ネオレアリズモやヌーヴェル・ヴァーグに出会い、日本映画においてはATGと出会った。
ん?ATGってなんぞや?
ATGは日本アート・シアター・ギルドだっ!
ATGは日本アート・シアター・ギルドの略である。
なんということだ。自分が知っている映画文化がすべて詰め込まれたのがATGだったのか。
という事実を知り、ATGについて調べると、
1961年の設立当初は、海外より優れた芸術作品を配給するという名目であったとのこと。海外作品の輸入価格の高騰により、ATGは配給するだけでは経営困難に至ってしまう。
考えた末、1960年代末にかけて独立した映画監督たちが鮮烈な作品を発表する場へと形を変えていく。
この時代背景の中で興味深いのは、1960年代からの学生運動のムーブメントである。社会が混沌とした中で、アートさやアンダーグラウンドな雰囲気を持ったATGは若者たちに支持を受けたのであろう。この傾向は漫画雑誌『ガロ』にも共通の感覚を覚える。
んで、ATGの従来日本映画との違いは何か?
じゃあここまで見てきて従来の日本映画たちと、ATGとの作品の何がどう違うのかというところである。
1.非商業的な芸術作品
前衛的な作風と言い換えることもできるが、映画にはストーリーがあり起承転結がそろっているものばかり。
その風潮を日本で変える流れはATGからではないかと思われる。
映画は芸術ではあるが、結局のところお金を稼げないと意味はないものであるから、非商業的な芸術作品は一部しか受け入れられず、この部分にATGが入り込むといった構図になる。
2.不穏さや陰鬱さに満ちたもの
暗いし破滅的。決して観終えた後の爽快感が待ち受けているわけではない。
上記の世界の映画ムーブメントを下地にしていることで、従来の日本映画の潮流に新しい流れを生んだ。(当時の邦画については勉強不足なので、従来作品との比較ができないが…。)
当時のベトナム戦争や公害問題など、日本および世界が直面した暗き世界に対する悲痛さが、映画という芸術の中で痛烈に表現されている。
3.低予算、若い映画監督たち
1とも関連するが、非商業的な芸術作品が多いため資金は心もとない。
その中でどのように作品を作り上げるかに監督の力量が込められている。
ATGは当時では若く無名な監督も数多く、内容も青春映画(ちょっと痛い)などが多く見受けられるようだ。
また、2のように若いがゆえに未来の明るさが見えない不安感から暗い作風も多く見受けられる。
以上の3点は従来とは異なるとして認識しているし、自分が何作か観ただけでも感じ取れた箇所である。
日本映画の黄金時代が1940~1960年と言われている中で、次いで日本映画産業を支えた(かはわからないが)ムーブメントなのかもしれない。
当時の扱いがどのようなものだったのかは、今ではわからないし語ることができないのが悲しい限りだ。
テレビの急速な普及とともに日本映画産業も陰りが見え始め、だんだんと勢いを失い始めていく。うーん、時代はつながっているなぁ。
そんなATGの作品と言えば
そんな日本や世界の社会情勢を感じられるATGの作品である。
どれも素晴らしい作品ばかりだが、観ておきたい作品を紹介したい。
※あくまでも自分の観たことがある中での紹介です。あしからず…。
『肉弾(1968)』 監督:岡本喜八
「戦争批判」を掲げた岡本喜八による戦争ドラマ。
取り残された”あいつ”の戦時下の苦しみの中訪れた青春と戦争への非難。
決して深刻すぎず(深刻なんだが)、重苦しさとコミカルさが混ざり合った何とも不思議な感覚の作品。
『田園に死す(1974)』 監督:寺山修司
画像からして異端さを感じるだろうが、歌人でもあった寺山修司が自身の歌集より映画化。自伝的作品であるがゆえに、かなりメタ的な構造がとられており、村に住む人々も異様。映像の自由さを感じられる本作はまさにATGっぽい。
『家族ゲーム(1983)』 監督:森田芳光
おそらくATGで一番知名度が高いであろう本作。受験戦争やいじめ、核家族という形の家族形態による弊害など、当時の時代背景を絡めながら、松田優作の変人とも言うべき家庭教師が掻き回すといった作品。まさに絶妙なシュールさ。
ATGは時代が生んだ最高のムーブメント
結論としてATGは、当時から勢いを失った日本映画界の中で生まれ、映画配給コスト高騰によって生まれ、テレビが普及したおかげで生まれ、学生運動のムーブメントで若者から支持され、様々な要因から生まれ育ったものである。
そんな時代背景に心踊るし、映画を芸術として定義し続けた会社には愛を感じる。
その唯一無二な世界観にぜひ鑑賞して浸っていただきたい。
ポスターだけでもおしゃれだから見てみるのはありだと思う。
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