【国際女性デー2022】持続可能な明日に向けた、今日のジェンダー平等 -環境問題と女性-
〈はじめに〉
今年の国際女性デーのテーマは 「持続可能な明日に向けた、今日のジェンダー平等」。
これについて、国連は具体的に、「気候危機と防災においてジェンダー平等を推進することは、21世紀最大の世界的課題のひとつ」と述べています。
しかし、ジェンダーと環境問題は、別々の問題と捉えている方も多いのではないでしょうか。
今日はこれらの関係性について、Spica代表 みゆきが、上智大学看護学科准教授で、グローバルヘルスや開発途上国の母子保健などの分野を研究し、NPOの運営委員など多岐にわたって活躍していらっしゃる、吉野 八重 先生にお話を聞いていきたいと思います。
〈環境問題と女性〉
みゆき 「先生、なぜジェンダー平等や女性のエンパワメントが、環境問題の解決のために必要と言われているのですか?」
吉野先生 「この問題については、今後、さらに多くのデータを集積して検討する必要がありますが、2021年度に発表されたOECDの報告書(https://www.oecd.org/environment/gender-and-the-environment-3d32ca39-en.htm)では、ジェンダーと環境の関連性について、細かく検討されています。
深刻化する気候変動、森林破壊、水不足、劣悪な衛生環境の問題は、特に女性に大きな影響をもたらすことが明らかになっています。
特に開発途上国や遠隔地域の女の子たちは、教育機会が著しく不足しており、経済的自立や融資を受ける上での障壁となっています。また、女性は土地や資産の所有、利用が困難なこと、情報や技術の不足によって、正規労働者としての就労機会が得にくいこと、家事や雑務などの無賃労働の重荷を負わされることがあるため、貧困に陥りやすい状況にあるのです。女性の労働問題は、日本を含む先進工業国においても見られます。」
みゆき 「先進国である日本でも、男女の収入格差があったり、働く女性の多くが非正規雇用者というデータがあるように、女性というだけで貧困に陥りやすい現状は世界中にありますね。そして環境破壊の影響を最も受けるのは貧しい人々、つまり多くの女性たちだということですね。」
〈気候変動や環境破壊が女性にもたらす影響〉
みゆき「気候変動や環境破壊が女性にもたらす問題は、具体的にどのようなものがあるのでしょうか」
吉野先生 「特に開発途上国で多くみられることですが、性役割分業の固定化や文化的規範が、女性が気候変動の悪影響をより受けやすいという状況を生み出しています。
例えば、開発途上国では食料や水、燃料の確保は女児や女性の仕事である場合が多く、気候変動による干ばつで、女性や少女たちは今までよりもさらに遠くまで水汲みや、食料や燃料の確保にいかなければならない状況が起こっています。また、小規模農家を営む大半は女性であるため、気候変動による農作物の不作は彼女たちの生活をダイレクトに脅かします。」
みゆき「 なるほど。気候変動によって、女性の労働問題や貧困問題がさらに深刻化するんですね。」
吉野先生 「そして、環境問題は、女性の健康に大きな影響をもたらすことがわかってきました。それには、社会的な不平等に加えて、身体的な性差という要因も絡んできます。ここでは3つほど例を挙げます。
ひとつは、栄養不足です。女性には月経、妊娠・出産があり、通常時よりも多くの栄養が必要となるので、気候変動による食糧不安の影響を受けやすくなるからです。また文化的に、食糧の分配は男性、男児が優先され、女性や女児は十分な栄養を取れないという問題も起こります。その結果、女性は低栄養や貧血になりやすくなります。低栄養・貧血は注意力低下、労働パフォーマンスの低下、成績低下などの認知機能にも大きく影響します。
二つ目に、温暖化によって高気温が持続すると、もちろん熱中症のリスクは高まるのですが、実は生殖器への影響、つまり妊産婦とその子どもに大きなリスクがかかることが分かっています。早産、死産、先天性奇形、妊娠性高血圧症、子癇前症などは、高気温・高体温によってより起こりやすくなるのです。特に途上国の妊産婦は冷房のある場所にアクセスしにくいため、より危険な状況にあると言えます。
三つ目は、大気汚染による影響です。化石燃料の燃焼によって一酸化炭素や有害物質粒子が発生し、それらを吸引すると呼吸器や循環器の病気に罹りやすくなりますが、世界的には女性に多いことが指摘されています。この原因のひとつとして、性別役割分業によって、女性は屋内で調理をすることが多いことが考えられます。途上国では調理の際、有害な煙の出る伝統的なストーブ(薪や石炭、灯油など)を使用していることが多いからです。」
みゆき「日本で豊かな生活をしていると、栄養不足になったり、高温や有害物質に晒され続けたりすることを実感できないので、なかなか想像出来ていなかったです。環境問題は、女性にこんなにも多くのリスクをもたらすんですね。」
〈災害が女性にもたらす影響〉
みゆき 「気候変動による災害も世界中で増加していますよね。災害が女性にもたらす問題も何かあるのですか?」
吉野先生「災害時の女性たちは、より脆弱でハイリスクとなることがわかっています。静岡大学の池田恵子氏の論文には、以下のようなことが示されており、とてもわかりやすいのでここで引用させていただきます。
http://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2016/02/15-Ikeda.pdf
1)災害では、女性が男性より多く死亡している。1981年から2002年までに発生した4,605件の災害(141カ国で発生)を分析したエリック・ノイマイヤー(Eric Neumayer)らによれば、災害により女性が男性より多く死亡し、大災害ほど犠牲者数の男女差が大きく、女性の社会経済的地位が高い国ほど災害の犠牲者数の男女差は小さい(Neumayer and Plümper 2007)。
2)災害時には性別役割分担が強化されやすいため、飲料水・燃料の収集や家族の世話が困難になる中で女性の労働負担が増加し、住居や雇用など復興資源へのアクセスが女性に不利になりやすい
3)女性や女児への暴力・DVが増加する
4)女性たちは地域社会や家庭において災害の防止や復興に重要な役割を果たしているにもかかわらず、
公的な防災や復興の場から排除されがちである(Enarson and Morrow eds. 1998;Enarson and Chakrabarti eds. 2009ほか)
また、大規模な自然災害の後、特に開発途上国においては人身売買や女性が性的搾取被害となるケースが増加することが指摘されています。教育機会が乏しく、現金収入の少ない貧しい地域の女性たちが標的にされるからです。また、児童婚の上昇も、気候変動に起因する自然災害との関連が指摘されています。東南アジア、アフリカの貧しい国々では、家計負担を減らす手段として幼い娘を嫁がせる慣習があります。
日本においては阪神淡路大震災や東北大震災後の被災者やボランティアの女性たちが、少なくない数の性暴力の被害にあったことは記憶に新しいところです。
みゆき 「潜在的にあるジェンダー格差の問題は、災害で地域が大きなダメージを受けた時に、より顕著になるのですね。」
〈持続可能のためのジェンダー平等とは〉
みゆき「女性が環境危機に脅かされやすいのは分かりました。でも、環境問題は男女関係なくみんなで取り組むべきことだと思います。それならば、『世界の女性がこれだけ危機に晒されるから、皆で環境問題に取り組もう』というメッセージで良いのではないのですか?
要するに、『ジェンダー平等な明日に向けて、持続可能な今日を』なら分かるのですが、『持続可能な明日のための、今日のジェンダー平等』として、女性のエンパワメントが強調されていることに、まだピンと来ないです。」
吉野先生「多くの問題は当事者である女性たちの声が、重要な政策立案の場に届いていないことだと思います。男性にも分かりやすく女性たちの声なき声を届けることができる優秀な人材の選出、女児の教育機会の促進、女性の正規雇用労働者としての就労機会の拡大、無賃労働への社会的評価の改善など、女性たちのエンパワメントにより、リーダーシップを強化し、政治に参画できるよう能力を強化していくことが重要です。特に、以下のことが大切であると多くの報告書で指摘されています。
①女性特有の安全保障上の懸念の払しょくと、女性たちのための移動手段へのアクセス改善(医療施設や冷却施設へのアクセス、安全と交通手段の確保)
②社会的弱者の代弁者、女性のリーダーの育成と、ジェンダーの視点に立った政策提言・政治参画の強化
地域、国家、世界の政策立案者、意思決定者、医療従事者の「高熱への女性の脆弱性」に対する知識、
認識の向上のためのコミュニケーション機会の創設
③気候変動とジェンダーに関するデータの大規模な収集と集積、研究の推進
④文化的に女性に規定された衣服(例:ブルカ)や慣習と健康問題に関する意識化、当事者自身による改革の促進
⑤女児教育の推進、女性の就労機会拡大によるエンパワメントの強化
⑥男性たちからの理解、サポート体制の強化
そのほか、いろいろありますが…」
みゆき 「なるほど!ジェンダー平等を実現し、最も影響を受けている当事者の女性たちがリーダーシップを持って政治や社会に参加することが、持続可能な未来のための決定を促進する大きなカギとなるんですね。」
〈私たちにできること〉
みゆき 「最後に、私たち一人ひとりが今から取り組めることは何か、お伺いしたいです。」
吉野先生 「 私たちが日本に生まれたのは、偶然かもしれません。もし自分が開発途上国の極度の貧困状態にある家に生まれ、飢えに苦しみ、教育機会を与えられず、仕事を選べず、暴力におびえる日々を生きなければならないとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。社会的弱者となっている人の立場でその人々と同じ視点に立って、日本国内、世界の動きに関心を持ち続けることが最も大切なことだと思います。今すぐに行動を起こさなくても、関心を持ちつづけることが大切です。」
みゆき「日本にいても、ふとした時にジェンダーギャップを感じることがあります。『何かおかしい』と思ったとき、少し視点を広げて、世界で起こっていることに関心を持つことが大切ですね。吉野先生、本日は貴重なお話ありがとうございました。」
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