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土は地球だ!腐食と団粒構造


<土は地球だ!腐食と団粒構造>
以前、有機栽培農家から「堆肥と土が違うとはどういうことなのか?同じではないのか?」という質問を受けた。

土と言っても学問によって定義は様々なので、ここでは自然農の土つまり団粒構造の土を前提として説明したい。
まず左に握りこぶしを作り、その握りこぶしを右手で覆ってみる。それが土である。

左手が石(土の粒子)、右手が腐食(有機物)で、これが団粒構造の土の基本である「粘土腐食複合体」(※粘土以外の土の粒子でもできる)。
ちなみに「土」と呼ぶものの核は岩であり石であり、それがさまざまな風化作用によって細かく削られていき、砂(0.02mm以上2mm以下)となり、シルト(0.002mm以上0.02mm以上)となり、粘土(0.002mm以下)となったものだ。
この粘土腐食複合体が陰イオンを帯びており、植物にとって必要な陽イオンの栄養と結びつくことで保肥力の高い土となる。これは偶然だろうが「土」という字がプラスとマイナスからできているのは面白い。
そして、イラストのように細かい隙間である毛管孔隙(こうかんこうげき)が生まれ、保水力もありながら、排水性もある最高の土となる。
この土1gの中には細菌が10億個も存在しているから驚きだ。豊かな土には約1兆個にも及ぶという。

堆肥ではこの中で腐食と陽イオンの栄養しかないために、粘土腐食複合体ができない。だから、出来立てホヤホヤの堆肥ではうまく育つのだが、だんだん水はけが悪くなり、根張りが悪くなり、栄養が吸えなくなり、軟弱にしか育たない。自然農のように秋の終わりまで夏野菜が育つことは難しい。

有機栽培のプロたちはそれを理解しているから、土作りをするときは土の中に有機物を混ぜ込んでいく。一般的にこの土の粒子のことを「骨材」と呼ぶ。

おそらくこの骨材が植物にとって大きな力の源になっているのだろう。
なぜなら、山に行くと大きな岩に根を張り巡らせた樹木に出会うからだ。石の上に土ができ、それをまるごと抱え込むように育つ樹木にいつも感動させられる。

垂直仕立てで有名な道法さんは石がある方がよく育つと言っており、実際に畑に砂利を混ぜ込むことを推奨している。一般的な考え方ではせっせと取り除くというのに。

さて、私たち人間も石(無機物)を持っている。そう言うと驚く人も多いが、人間を高温で焼けばその答えが残る。そう、骨だ。

私たちの身体は、骨という石(無機物、鉱物)に有機物である細胞がまとわりついている。骨(歯も同じく)は血液中のカルシウムやリンが鉱物として結晶化する現象(アパタイトという燐灰石)だ。
面白いことに私たちの身体には鉱物を作る能力が備わっているのだ。
それは形が違えど、カタツムリやエビなどの甲殻類たちが持つ能力をほとんど同じである。

土の粒子を骨材と名付けた人はそんなことに、もちろん気がついていたのだろう。土の粒子は岩石が風化によって砕かれる必要がある。風や水、生物が担う。風化というと劣化というイメージが湧くかもしれないが、風化無くして土は生まれない。

土は地球そのものだ。
左手の握りこぶし(石)に、右手の有機物が覆うその形こそ地球なのだ。地球とは惑星という石(無機物)の塊の表面に有機物がまとわりついている星である。その有機物の中に我々人間を含めた多種多様な生物が存在している。(細かいことを言えば内部は液体のマグマだが)

土という漢字の次元は大地の横棒に、団子型の土を乗せた絵だという。平坦の地球の陸に、団粒構造の土が乗っている絵なのかもしれない。

4億2千年前、植物が初めて陸上に進出したとき、この地球という惑星を栄養分とし始めた生き物が地衣類とコケである。さぁ、家を出て地衣類とコケを探してみよう。間違いなく石(アスファルトなど)の上に生えている。彼らは自ら酸を出し、石を溶かして取り込んでいく。そして、石の上の自身の体に養水分を溜め込んでいく。

すると、その上にどこからともなくやってきた植物の種が芽吹くだろう。コケが溜め込んだ養水分を元に植物は育つ。植物自身もまた根から酸を出し、石を溶かしていく。さらに植物と共生関係を結ぶ微生物たちもまた酸を出し、石を溶かし植物に与えていく。その植物もまた寿命がきたらその場に倒れて土となる。それはやがて植生の遷移とともに、いずれは岩を抱え込む大樹が育つのだ。そして、全身でそれを体現する動物たちが森林を歩いていく。

さて、この団粒構造の土を作る役割を担っているのがアースワームと呼ばれる生き物である。そう、ミミズだ。アースは地球という意味の他に大地という意味がある。なんとも奥深い名前である。
実際には他のワーム類や昆虫類も団粒構造の土を作ってくれる。

作り方は体内に石(土の粒子)と有機物を取り込み、その石を使って有機物を擦り込んでいく。その過程で体内に住んでいる微生物が分解を手助けする。それによって、お尻の穴から最高の団粒構造の土が大地に還元されるのだ。

ミミズの糞内の微生物が体表を守るために分泌する粘り気のある多糖類と粘液である尿が団粒化した土と土を結びつける乗りの役目を果たし、団粒構造の土、つまり良い土を作り出す。すべての土が繋がっている状態であり、空気や水が入り込む余裕がある状態だ。にも関わらず水がいきなり大量に入ってきても簡単に崩れない丈夫な耐水性も兼ね備えている。水はけが良い上に、水もちが良い。さらには風に飛ばされることもない。中国から黄砂が多く飛んでくるのは団粒化していないからだ。
アースワームは名前の通り、糞でアースを作り続けている。

こうやって宇宙からの大きな視点から顕微鏡で覗く小さな視点でこの地球を観察してみると、地球の中に地球があり、地球が動き、地球が地球を食べている。地球から生まれるものは全て地球なのかもしれない。
なんとも不思議な惑星なことか!

私は土を愛することができるものは地球を愛し、生物多様性を愛し、人類も愛することができると本気で思っている。土作りは畑においても地球人としても、まず初めに身につける技術だろう。

土壌の生態系は植物が必要とする養分を利用可能でありながら水に溶けない形で蓄えておくように進化してきた。温暖な気候ではもっとも重要な栄養素の貯蔵庫。腐食はおそらく自然の最も偉大な発明であり、土の無機栄養素の貯蔵能力を高める働きをする。

一方で、酸化と溶脱の速度が非常に早い湿潤な熱帯でもっとも頼りになる栄養素の貯蔵庫は生きた植物。どちらの環境においても樹木は重要な栄養貯蓄庫であり、落ち葉、昆虫や草食動物による摂取、あるいは山火事をとおして、栄養素が土壌に返される。

腐食は数百年、いや数千年も安定して炭素を貯蔵する。フミン酸やフルボ酸などのより安定した複合化合物は土壌の栄養素、水、酸素の保持能力を高める。
腐食によって畑の土も保水能力、保肥能力、炭素貯蔵能力を森林レベルまで上げられる。これが将来の生存に向けて人間ができる唯一最大の貢献だろう。農業の持続性を脅かす最大の脅威は耕土からの有機物の喪失である。

自然農において土作りで大切なのは温度や水分、有機物の種類ではない。その土地にいる昆虫たちに任せることだ。昆虫たちは植物が地上に進出したあと2千年経った後に誕生する。そう、それから4億年もの間ずっと土を作り続けているプロの中のプロなのだ。土1cmを作るのに200~300年かかり、30cmを作ろうとすれば6000~9000年必要なのだ。土は1日にしてならず。

その地球の歴史が作ってきた土がいま、世界の農地では約40%で土壌侵食が起き、1年間に500~600ha分の農地が砂漠化している。
これは化成肥料の多施肥、定期的な耕起、灌漑設備によって失われた大量の地下水、乾燥地帯での大規模な焼畑など明らかに大型農業の弊害である。日本でこれが問題にならないのは水田が防いでくれているためだ。しかし、日本では水田も畑も、耕作放棄地も現在失われてきている。

話を土作りに戻そう。
講座では堆肥を作るときに必ず畑の土を入れることを教えている。(骨材の投入)そして、温度をできるだけ上げずに時間をかけて作る方法を教えている。(昆虫の住処にする)それは人間の手間を減らすだけではなく、昆虫の多様性を生むことにつながるからだ。

さまざまな形の土壌有機物をどう表し、測り、評価するかの方法はいまだに確立されていない。なんと土壌学者の間では地球最後のフロンティア、つまり最後の謎はこの土だというのだ。それほど分かってないことが多い。もちろん、いまだに人間には土は作れないから、工場では水耕栽培が行われている。

土のない植物工場(水耕栽培)と野外の露地栽培では圧倒的に植物工場の方が早く大きく育つ。ミネラル分も調整できるため味をコントロールできるし、農薬を使う必要もない。
しかし、肥料もエネルギーもたくさん消費する。もし、植物工場でコメなどの穀物を清算したら大赤字になるか、とても高いお米として販売するしかない。だから、火星や月で植物工場を作っても食糧問題は解決しない。

土は栄養分を蓄える性質を持っているために、露地栽培の方が肥料は少なくて済む。与えなくても土の中に栄養分が眠っているという言い方もできる。しかし、植物工場では常に肥料分を与え続けなくてはいけない、しかも微量元素もだ。露地栽培では数ヶ月に一度の肥料でも育つ。

人間に地球は作れないように、土も作れない。早くそれに気がつかなければ無駄な時間とお金が、無駄な研究と労働に使われるだけだ。

自然農法を提唱し、多くの後継者を生み出してきた岡田茂吉は「日当たりをよくし、水分を豊富にし、土をより清くすることによって、作物は人間の必要以上余る程生産されるものである」と述べ、「土の偉力を発揮する」ことの重要性を強調した。

古代文明は肥沃な土の上で生まれ、栄えてきた。そして現代文明はその土を忘れて、離れて、閉じ込めてしまった。土こそ生物多様性の要であり、土こそ人類の命の要であることを忘れてはいけない。

陸上生物は皆、土を作り、土の上で死に、土に還り、また土から生まれる。土は作品であり、墓であり、姿であり、胎盤である。土にどう接するかによって、土は様々な表情を持って応えてくれる。
~今後のスケジュール~

<自然農とパーマカルチャーデザイン 連続講座>
・沖縄県本部町 2月11日~12月1日
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・沖縄県豊見城市 2月10日~11月30日
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・京都府南丹市 3月16日~11月16日
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・京都会場 無料説明会 2月17日
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<自然農とパーマカルチャー1日講座>
・岐阜県岐阜市 4月21日

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