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銭湯と刺青(1):日本の公衆浴場の立場の違い

長年温浴事業の仕事をしてきました。

刺青を入れた方の人格が困ったという訳ではないのですが、施設側として入館をお断りしてきました。

スーパー銭湯の玄関には、決まって「刺青お断り」の看板が掲示されています。

健康ランドや、スーパー銭湯には刺青を入れた人は本当に来店していないのでしょうか。或いは入店をされた場合はどう対処するのでしょうか?

逆に街中の銭湯は、なぜ刺青の入った人は入浴可能なれのでしょうか?

温浴施設の刺青事情を検証してみたいと思います。


「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」の違い

 
いわゆる昔ながらの「銭湯」は一般公衆浴場に属します。公衆浴場法概要には、一般公衆浴場の定義として「地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設….」と記されています。

現在のように、自宅風呂の普及が不十分な時代に、誰もが公平に清潔な暮らしを行うために、入浴料金の上限を定め(物価統制令)差別なく利用できる施設として存在しています。

ですから、められた価格以上の入浴料金は設定できません。

そのかわり、固定資産税や、上下水道の減免や、各種補助金などの経営に於いては様々な優遇があります。

このため、一般公衆浴場の定義に従い大半の銭湯は刺青を入れた方も入浴を拒むことなく運営されているのです。

※反社会勢力排除の観点からポリシーを設定されている施設もあります。

一方、その他の公衆浴場は定義として「保養・休養を目的とした……施設」と記されており、レジャー要素が強く、価格制限のない自由競争の中で運営が行われています。

施設としてのポリシーでターゲットとなる顧客を決めて商売を行なっているのです。

従って、減免措置や特別な補助金を受けることはできません

なぜ、刺青の方をお断りするのか


一言で言えば怖いですし、威圧感を感じるからです。

入れ墨、刺青、タトウー、呼び名も、目的も、種類も違いますが、いわゆる極道系の方がいれている和彫の入れ墨は迫力があります。

個人的には、朱色の入った、牡丹とか、金太郎とか、鯉とか、般若とかは、血を想起してしまい、気持ちが落ち着かなくなります。

そもそも、切った張ったの世界で命をかけて生きる、渡世人の方の入れ墨は、目的そのものが威圧を示すものです、保養、休養、で心和やかに庶民が過ごす場所には適していないのです。

立派な彫り物に囲まれたサウナの発汗力


仕事柄、街中銭湯にもよくいきます。行きつけの店には背中や全身にびっしりと立派な彫り物をした方が利用されています。

彼らの大半は、サウナ好きです。

都市伝説かもしれませんが、墨の入った身体は発汗作用のコントロールが上手くいかず、サウナに入ることで調整をしていると聞いたことがあります。

真相はわかりません。

街中銭湯のサウナは大抵小さく、3人から6人くらいが定員というものが多いのですが、行きつけの銭湯は頑張って、上下段で6人、肌が触れ合う距離感です。

そのサウナの上段の真ん中に座っていると、次々に任侠らしき人が入室してきて、左右に二人と前三人が立派な彫り物をした人たちという痺れるシチュエーションとなったことがあます。


何かの罰ゲームかと思いましたが、これみよがしに退出するのも不自然と思い留まりました(汗)

緊張しました、全く寛げませんね!

カンガルーで懲役?

業界のことはわかりません、彼らは意外に陽気で世間話(情報交換)を始めます。

どうやら、同じ組ではないようです。少しの異変も逃さないよう全神経は張り詰め、快調に発汗が進みます!

 ”●●最近めえへんなあ!”

 ”あれは、今別荘やで”

 ”なんや”

 ”ああ、カンガルーや”

   "ほんまかいな、ほな、そうなごないな”

冷静を装いながらも、耳はダンボです!

別荘はわかるが。カンガルーとはなんだ?、打つと飛び跳ねる薬物か?それとも破壊力抜群のピストルか?

妄想は広がるばかり、流れぬ汗は冷や汗です

その後も軽快に、時折業界用語をおりませながら、僕の存在に気づかないかのようにそぞれの近況報告は続きます。

限界です、10分で3セットくらい入っていたような発汗を感じます

僕は銭湯で、見慣れていますし、当時は運営に関わっていたスーパー銭湯で、時折やってくる確信犯に対応もしていたので、免疫はある方です。

こちらから関わらない限り、危害がないのはわかっていますが、やはり威圧感を感じますし、とても寛げる気分にはなれないですよね。

タトゥを断る理由

今は、ファッションでタトゥを入れている人も増えました。コロナ以前はインバウンドの来日客の入浴客の拒否が問題にもなりました。

和彫りの威圧のある入れ墨と、ファッションで入れた花の入れ墨を一緒にする必要はないのではないか?という意見は多くあります。

 私的には、私もそう思います。

ですから、その基準は各施設が決めればいいのです。

しかし、威圧感のある彫りものも、彼らのファッションと言われればそうかもしれません、その判断は非常に難しく、誰が判断するかでその基準は変わるのです。

その他の公衆浴場は、対象とするお客様に対して癒しというサービスを提供しなければばりません。

そのためにはどこかで一線を引く必要があり、それが使命です。守らなけらばならないラインを守る、その為の判断が、タトウーは全てお断りするというのが、今のところの多くの施設の答えだと思います。






 






 



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