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銭湯と刺青(3);アウトレイジな世界観は刺激がが強すぎる件

 北野武監督のアウトレイジ

銭湯の前に一台の黒塗りの車が止まっている、運転席に座る男が、撃たれる。

銭湯の中には石橋蓮司扮するヤクザの親分が、子分と談笑しながらサウナに入っている。そこをヒットマン(たけし)に襲われれる、壮絶なシーンがあります。

僕は、このシーンを観て「さもありなん」と戦慄を覚えました。

場を制する組長の入浴

運営する施設で、午前11時を回った頃、遅めの出社で駐車場に車をとめ、降りると、黒塗りの車が3台止まっていました。

その内の2台には黒いスーツの男が、エンジンをかけたまま、運転席に座っています。

 すでに嫌な予感が漂っています。

建屋に入り、フロントの女性に、来てるの?と自分の頬を斜めに指で撫でると、こくりと首を縦に振ります。

以前も書きましたが、入れ墨のある方はお願いモードで、お断りをお伝えします。

その日も、パートの女性がマニュアル通り浴室で伝えてくれてはいたのですが、一応浴室へ様子を見に行きました。

脱衣場に入ると、黒いスーツ姿の大柄の男性が、直立姿勢で脱衣場の入り口を監視しています。

この威圧感は超不自然です。

完全に脱衣場を空間支配した存在。鋭い眼光で話しかけるなオーラがバチバチです。

制服のポロシャツを着ていたのでスタッフと分かります、そのまま浴室に巡回に入っていけました。

しかし、もし私服で浴室に入る不自然な行動をすると、咄嗟にはがい締めされそうな殺気を背中に感じます。

小春日和の爽やかな日差しが、露天風呂から差し込む浴室、のどかで、のんびりできるいいお風呂です。

そんなことを思いながら巡回をすると、背中に立派な彫り物をした3人が並んで、談笑しながら洗い場で体を洗っています。

背中だけでなく、まるでウェットスーツを着込ているかのように、手首、足首以外はぎっしりと模様が入っております。

ある意味、芸術です。

そして、その芸術が、のどかであるはずの浴室を緊迫感をもって空間支配しています。

洗面器の整理をするふりをしながら、近寄り、こちらを意識する一人に

”お願いしますね”と小声で告げると、解っているとばかりに”おおっ”と返ってきたので、浴室を後にしました。

脱衣場では、相変わらず護衛役の黒スーツの男が立っていて、視線を向けてきます、やはり、早く行けよとばかりに鋭い眼光でした。

やっぱり、穏やかならぬ雰囲気は、この施設には合いません。他のお客さんがビビってしまいますので困まります。

新入り組員を連れた一家の入浴

上記とは別の施設ですが、ある日この店に一家で入浴しにきた例があります。親分とその子分と思しき数名の男性(組員)と姐さんも一緒です。

男女ともに入れ墨警報が発令し、マニュアル通り、お願いモードで警告をさせてもらいました。

願いを聞いてくれたのか、早々と浴室から出てはくれたのですが、一家揃って飲食コーナーで食事を始めました。

暴対法的には、速やかにご退館願いたいのですが、警告もさせていただいていますので暫く様子を見ていました。

若い衆は、スーツではなく、ブルゾンにスラックスという出立なので、建設会社の社長と社員のようにも見えなくもありません。

そのうちの2人は、よく見ると、まだあどけなさの残る少年でした。

見習いなのでしょう、テーブル椅子に座り、ビールを飲みながら話す組長と思しき親分の話を、直立不動で、時折不自然なほどハキハキとした声で返事をしています。

この光景が、安穏としたスーパー銭湯としてはかなり不自然な構図です。

会社の煩わしさを忘れ、気晴らしにきたサラリーマンは、否応なく組織という現実に戻されます。

子連れの母親は、修羅の道に落ちた少年を不憫に思もったかもしれません。

目を輝かせ、組織に入り、手柄を夢見なから利用され、無残な最後を遂げる。そんな切ない任侠映画のシーンを思い起こします。


どちらにしても、飲食コーナーで他のお客さんは平然を装いながら、意識はこの一家に釘づけで、落ち着きません。

特殊な世界で生きる方々のオーラは、やはり平和なお風呂屋にとっては困りものなのです。






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