見出し画像

「この世の真理とははたして何なのか~絵本『満月の夜の伝説』~」【YA76】

『満月の夜の伝説』
ミヒャエル・エンデ 文 ビネッテ・シュレーダー 絵 佐藤 真理子 訳  (岩波書店)
                            2003.2読了

本日は満月の上に部分月食だそうで、すでに明け方の月は左側が欠けている状態の月食が早くも見られたそうです。
美しい満月の夜。
こんな曲をBGMにいかがでしょうか。

今回はそういう訳で、小説は一旦休憩して久しぶりのYA読書感想文です。
今回は、ちょっと不思議で幻想的な絵本を紹介します。
絵本と言っても、考えさせられる大人向けなのかなと思わせる内容ですが、ここはぜひともYA世代にも読んでもらいたいのでYAのジャンルに入れました。

恋人に裏切られたある男は、この世のすべてが信じられなくなったのか、誰とも会ったり会話したりすることを辞めて世捨て人となり家に閉じこもりひとり書物を読みあさります。
偉大な哲学者の研究をし尽くした結果、この世は無に等しいことがわかり、男は聖人のごとく何も持たず洞穴に移り住み、魂が永遠を探し続け神がそれをうけとめてくださるまで待ち続けました。
 
また、謂われなき罪を負わされた別のある男は、粗野で乱暴でこの世が信じられず、ありとあらゆる悪行を犯して、先の敬虔な男のいる洞穴へとたどりつきました。
 
長い間洞穴で仙人のように暮らしてきた男はもう老人になっており、この粗暴な男に尊い神の教えを説き、罪を悔い改めさせようとずっと語り続けました。
 
粗暴な男は賢くはなかったけれど、なぜだかこの高尚な老人のことが気に入り老人の話にじっと耳を傾け、理解した振りをしながらでも聞き続けました。
 
ある日老人は満月の夜にだけ自分のところに大天使ミカエルが舞い降りてきて、ついに主が自分を訪ねてきてくださるとおおせられたので、その晩はこの洞穴へ来るなと粗暴な男に言いました。
 
粗野で聖なる現象を目にするのにふさわしくないと自分でもわかっていた男は、なるほどと思いながらも、どうも何かがいつもとは違うことに気がついたのでした。
 
老人には黙ってこっそりと、満月の夜にあの洞穴の見えるところまで近づきました。
確かに銀色にかがやく不思議な空間が上空から静かに現れ、その中に強い光を放つ大きな翼をもつ者がいるのを見た男は、恍惚となるのをどうにかふりほどきその出現者めがけて、自分で作った矢をつがえて放ったのでした…!


老人は、崇高な世界への旅立ちを最終目標に学び続け、ある特別な聖人の域まで達したことを自ら信じ、この世のまやかしを思い知ったはずだったのに、粗野でいまだ神に対して、そしてこの世のすべてに対して畏怖の念も起こさない男に、真実のすべてを教えられるという驚愕のオチ
 
粗暴だけど素直に冷静に物事を見る目を持ち合わせていた男と、熱心なまでに学びついには聖人となりうると驕りがあったのであろう男の、ちょっと考えさせられる大人の絵本です。

作者は『モモ』『はてしない物語』で有名なミヒャエル・エンデ、絵はドイツ出身の少しシュールっぽい絵が独特な世界観をかもし出すビネッテ・シュレーダーです。
エンデの哲学的な展開と教え、そしてシュレーダーの独特で不思議な雰囲気がこのお話に非常にマッチしていて、とても心に残る読後感です。
 
静かに語られる大人の不思議世界へは、夜ひっそりと読んで訪れてください。
 
と紹介はしたのですが、大変残念ながら現在は絶版となっています。
かくいう私も実は当時市立図書館で借りて読みました。読んだ時点でも品切れになっていました(泣)

絵本など出版物は隠れた名作があっても、売り上げに貢献できないとなると有無を言わせず葬り去られてしまいます。とても興味深い絵本なんですけどね…。
公共図書館で所蔵しているところもありますし、もしなくても“相互貸借”というシステムで他の図書館から取り寄せてくれますので、一度問い合わせてみるのもいいですね。

↓のサイトでは中古品で恐ろしいほどの価格になっているものもあり、良心的なオーナーの元で手に入れたいものですね。
 


 


 

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?