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「ファンタジーの権威が描く未来の世界~『精霊の木』~」【ヤングアダルト①】ネタバレあり

みなさん、“ヤングアダルト”という言葉を知っていますか?
ちょっとドキッとする人もいるかもしれませんが( *´艸`)、これはれっきとした出版業界・図書館界・書店業界・作家業界等で使用される専門用語です。
主に12歳くらいから19歳までを対象にした本や人を指します。

児童書からいきなり大人向けの本に移行できる子どもたちも中にはいますが、年齢に応じた内容の本で子どもたちの心の成長を促す役目もありますので、児童書をある程度楽しんだら“ヤングアダルト”の本を手に取るのもスムーズな読書環境を整えられるかもしれません。
 
私も『ハリー・ポッター』を読む前はよく理解していませんでした。
「ハリポタ」の後、国内外の様々なファンタジー本が勢いよく出版され、一時期子どもたちの読書意欲が一気に高まりました。多くのファンタジー本は高学年の児童から中高生向けに書かれている内容がほとんどですので、ほぼ“ヤングアダルト”に当てはまると思います。
今はファンタジー本の出版は落ち着きを取り戻しましたが、かつては人気のファンタジー本が図書館の貸し出しランキングで上位を占めたり、書店には平積みの本が店頭で幅を利かせていたものです。
 
「ハリポタ」以前から、もちろん日本にもファンタジー本はたくさんありました。その中でも上橋菜穂子さんはこのジャンルの第一人者のひとりとして有名です。
 


 

今回ご紹介する上橋さんの『精霊の木』もファンタジーものです。
(ちなみにこちらは「ハリポタ」よりも後に出版されています。)

追記:実は上橋菜穂子さんが1989年、偕成社に直に持ち込みをされた作品がこの『精霊の木』だったそうです。デビューとなったきっかけの作品ではありますが、単行本として刊行されたのは2004年でした。
「ハリポタ」よりもずいぶん前のファンタジーでしたね。

      『精霊の木』上橋 菜穂子 作 二木真希子 絵 (偕成社)   
                          2004.5.22読了
 
遠くて近い未来、人類は環境破壊によりついに地球を滅ぼしてしまいまいた。
危険にさらされていた地球にはもう住めなくなると考えていた地球人は、いよいよ宇宙へとその居住地を求めるため、まずスペースコロニーを作りそこに住み始めました。
 
その後、やはり地に根を下ろした暮らしが人間には重要なのだと悟った人類は、他の太陽系に地球と似たような条件の星を探し出します。それがナイラ星でした。
しかしそこにはロシュナールと呼ばれる先住民が住んでおり、人類はこれまでの最も汚いやり方で、その星を占領することにします。
繊細で穏やかで、科学力はないけど特殊な能力をもった先住民ロシュナールを次第に滅ぼす計画を企てるのです。
 
精霊とともに魂を通わす目を持つロシュナールは、その不思議な能力のために、人類の科学者の格好の研究材料となり、極秘で人類との混血を生み出す計画の餌食になってしまうのです。

その混血の先祖からの血を引く少年シンとその従妹のリシアは、自分たちがロシュナールの血を引いているなどとは全く知らされていませんでしたが、ある日急にリシアがロシュナールの中でも数少ない、「時の夢見師」という能力に目覚め、その時から伝説だけの話と統治者たちから信じ込まされていたロシュナールの、滅亡計画を知ることになります。
 
ロシュナールが人類と初めて接触した時から、無抵抗の彼らを無情に殺してきた人類と戦い、ロシュナールの命綱である精霊を生む精霊の木を守ろうとするシンとリシアの、時をさかのぼる冒険。
 


これまで人類が新しい土地を求めては、そこに最初から住まっていた先住民へ繰り広げられてきた非道な扱い。ネイティブアメリカン、アボリジニ、アイヌ民族等々…。
少しばかりの文明を武器に、罪もない先住民を追放し虐げてきた先人たち。
歴史を封じ込めて一般市民にうそを突き通すやりかたは、いつもどこでも同じです。
そんな歴史の裏側に目をそむけないで、真実を知ることが真の全地球人の平和な共存につながるのではないでしょうか。そんなことを考えさせる一冊です。
 
※単行本は偕成社から出ていますが、現在文庫本が新潮社からも出ています。
 


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