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荻窪シェアハウス小助川

今日から2月。そして春休み。

大学生にとって夏休みよりも冬休みよりも長いのが春休み。予定はあるけれど、いつもよりも余裕ができるので有意義な休暇にしたいと思う。

今回は最近読んだ小説を紹介したいと思う。

小路幸也さんの「荻窪シェアハウス小助川」。

小路さんの小説は以前、「東京ピーターパン」という作品を紹介する際に取り上げたことがある。マガジン掲載の「僕の読書記録」をご参照ください。

あらすじは以下の通り。

十九歳春、佳人のシェアハウス生活が始まった。地元の人々を診てきた医院を閉院し、リノベーションした「シェアハウス小助川」で一つ屋根の下に暮らすことになるのは、年齢も職業も様々な男女六人。自室を持ちながらリビングや台所や風呂を共有する生活だから価値観の違いも見えてきて……。そして家主のタカ先生をはじめ皆が抱える人生に触れながら、佳人は夢に辿り着けるのか。

「荻窪シェアハウス小助川」/小路幸也/2014年08月/新潮文庫

僕自身、荻窪はまだ訪れたことがないが、荻窪駅がある中央本線上でいえば、高校時代にその先の吉祥寺には訪れたことがある。新宿駅始発からそのまま電車に乗っていれば、立川、八王子にも行くことが可能な路線の中に荻窪駅はある。東京メトロ丸ノ内線とも繋がっている。

物語の主人公は、沢方佳人(さわかたよしと/19歳)。中学時代に事故で父親を亡くし、母子家庭で育った。3つ下に双子の弟・勝人、妹・笑美がいる。そして「カメオ」という名前のカメを飼っている。佳人は忙しい母親に代わり、掃除、洗濯、料理と家事全般を担ってきた。

これまで家庭のことを1番に考えてきた佳人を想い、母親は実家から巣立って自分の夢に向かってほしいと思っていた。そんなある日、佳人自身も幼い頃からお世話になっていた「小助川医院」が「シェアハウス小助川」に生まれ変わると知り、そこで暮らし始めることを決める。

他の登場人物としてはまず、小助川医院で診察をしていた小助川鷹彦先生。「タカ先生」の愛称で親しまれていた先生だ。このタカ先生がシェアハウスの管理人である。

レストランでウエイターをしている大場大吉(37) 、幼稚園で働く三浦亜由(22) 、ルミネ荻窪の本屋で働く細川今日子(19) 、歯科衛生士の柳田茉莉子(40) 、大学生の橋本恵美里(18) が共に住む住人だ。

佳人にとって大吉さんと茉莉子さんは年齢も世代も異なる存在である。2人とは色々と相談に乗り、人生の先輩として様々なことを教えてもらうという場面が描かれていた。一方で、今日子や恵美里は同級生ということもあり、親しい間柄になっている。亜由さんは最初、口数の少ない人物だったけれど、時が流れていくと少しずつ会話も増えていく。

物語の中で、とある問題が発生する。それは、「ゴミ問題」だ。大量のマッチの束がゴミ袋に入れられて捨てられているのを大吉さんが発見する。

ただこの問題。それほど深刻すぎるものではなかった。ここでは詳細を省くが、問題解決までのストーリーのもっていき方が美しい。タカ先生の住人に対する接し方、寄り添い方が丁寧で印象深いし、佳人が住人たちの中心的な存在として繋ぎ目になっている点が良かった。

起承転結というのが物語の典型ではあるが、その山場となる部分で、前述したゴミ問題とは別に、放火事件が起こる。「シェアハウス小助川」の物置小屋が火事になってしまう。放火犯は捕まったけれど、この火事の影響で臭いが残り、窓も割れ、修理のために一度住人全員が出て行かなければならなくなった。

この火事がきっかけとなり、住人たちが将来について考え、自分自身と向き合おうとする。最も成長、変化が大きかったのは主人公・佳人だ。彼は、これまで培ってきた料理の腕前をさらに伸ばして磨くべく、フランスに旅立つことを決意する。というのもタカ先生が「シェアハウス小助川」の横にある母屋(=タカ先生が現在住んでいる場所)を改装し、食事が出来るお店を開きたいという話を持ち出したのだ。そこでタカ先生は、シェフとして大吉さんと佳人に働いてもらうことを提案した。フランスを訪れることになった理由は、母親の知り合いであり、佳人のアルバイト先である店の店主の紹介で、日本人でフランスに店を構える料理人のもとで働きながら料理について学ぶことを勧められたからであった。

佳人のその後は描かれていないが、きっと「シェアハウス小助川」に戻り、料理人として働くのだと思う。大吉さん、タカ先生とともに。

最後に佳人が物語の中で口にしたセリフを引用したいと思う。この気持ち凄くわかるなあと共感できた。家族でも良い、友人でも良い、誰かに話せるって大切なことだ。きっとこれはみんなそうなんじゃないかと……。

父さんが死んでどう思ったかを、誰かに聞いてほしかったことがある。きっと人間はそういう動物なんだ。自分の心の中にある何かを、大抵は自分の心の弱いところを吐き出したくてしょうがない動物なんだ。吐き出すことで、生きていく力を得るんじゃないのか。違うか。力を得るんじゃなくて、荷物を下ろして軽くなるんだ。軽くなるから、動けるようになるんだ。心の重荷っていうのは、巧い表現なんだきっと。

pp.264-265

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