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ピアニシモ

今日は久しぶりに最近読んだ小説について書きたいと思う。

辻仁成さんの「ピアニシモ」。

この小説でデビューし、第13回すばる文学賞を受賞した小説家だ。ミュージシャンや映画監督、演出家としても知られている。

あらすじは以下の通り。

僕にはヒカルがいる。しかし、ヒカルは僕にしか見えない。伝言ダイヤルで知り合ったサキ。でも、知っているのは彼女の声だけ。あとは、冷たい視線と敵意にあふれた教室、崩壊寸前の家庭……。行き場を見失い、都会のコンクリートジャングルを彷徨する孤独な少年の心の荒廃と自立への闘い、そして成長——。ブランク・ジェネレーションに捧げる新しい時代の青春文学。

ピアニシモ/辻仁成/1992年05月/集英社文庫

父親の転勤により何度も転校を繰り返してきた主人公・氏家透。透の中にはヒカルという人物が存在していた。ヒカルは誰にも見えない。透の中だけに居てどんな時も一緒に過ごすという透にとって生活の一部である。

転校先の学校で透はいじめに遭う。その時の心理、状況における描写がかなり深刻で言葉に詰まるが、ヒカルという存在が彼を救う。読み進めると本文に下記のような描写がみられる。

自分にはないものがヒカルの中にはほとんど存在したし、僕がやれたらいいな、してみたいな、ということを全て彼がやってのけてくれたのだ。

p.34

まさに、ヒカルという存在がもつ意味は、透の中にある「真の透」なのである。

詩的というかリズミカルな文体なので読みやすかった。中学か高校時代に出会っていたら僕自身の当時の、ものの見方や考え方も少し変わっていたような気もするが、逆にこの19歳というタイミングだからこそ良かったのかもしれない。

読後感としては、「青春」って人それぞれなんだよなと改めて考えさせられた部分が大きかった。このストーリー全体として、「孤独」という1つの大きなテーマがあると思うので、学校生活だったり自分自身の思春期時代だったりを振り返りながら読むと深読みできて楽しめる作品だ。

人間は、誰かに認められたいという感覚を持つ。たまたまその地に生まれて、そこにあった学校に通い、クラスが決められ、集められた人々が必ずしも良質な人間関係を築けるとは限らない。だからこそ、透のような心情を持っていた人も少なくないのではないかと思った。

1月も後半に突入した。

大学もテスト期間に入る。追い込まなければ……。

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