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青春の後ろ姿#68 〜20代は、清志郎と、バイクと、文学以外に何もありませんでした〜火山列島の思想#2



 益田勝実先生『火山列島の思想』は、当時、読む論文読む論文の後注でやたら目にして、しかもおもしろそうなのでぜひ手に入れたいと思っていました。いくつかの論文を集めたものになります。
 ところがちょうど買おうとしていた時に絶版になり、元から本屋さんにそんなに置いていない本なので、あっという間に店頭から消えました。ちょっと前に、ある本屋さんでチェック済みだったものも残っておらず、とても悔しい思いをしました。いつもぎりぎりの経済状況の中、買う本の優先順位をつけていたので、「次、買えるぞ」というタイミングがうまく合わなかったのです。

 それから数ヶ月経って、古本屋さんで高騰した値札のついた『火山列島の思想』を何度も手に取っては買うのをためらうということを繰り返していました。
 ところが、西荻窪の駅から商店街を南に少し歩いて、一方通行の出口とぶつかる交差点を左に折れたところの道路の右手に、いつものぞいている小さな本屋さん(古本屋さんではありません)があったんですけど、いつものようにその本屋さんで人文哲学、文学の書籍が置いてある一角を眺めていると、ななななんと、その棚の一番上の段に『火山列島の思想』がひょっこりと顔を覗かせるように並んでいたのでした。
 身体が固まるという経験はこれが初めてのことでした。目を疑い、何度も目線を外しては背表紙を見直して、夢幻の類ではないことを確認しました。もう、身体が震えそうなのをこらえて、背伸びして手を伸ばしました。ギリギリ本の底に指が当たり、何度かつまみながら本を取りました。 
 函入りの『火山列島の思想』が、ストン、と掌に落ちました。こんなことってあるのか。今まで何度も舐めるようにチェックしている本屋さんなのになぜ今までノーチェックだったのか。この本に限ってはチェック漏れするはずがないはずなのに何で? と思いながら、ふわふわした感じのままレジに行っていつもの店主のおじいさんに差し出しました。おじいさんは、レジ台に置かれた『火山列島の思想』に少し目を留めて、それから『花とゆめ』だったかなんか印刷された袋に入れました。

 以来、私は、本気で求めている本は必ず巡り逢う、と信じるようになりました。人と同じように、本と人との間も縁なのだ、と思いました。あれから30年ぐらい経った今もそう思います。
 『火山列島の思想』は、結局その後、数年を経て復刊されました。その際にあらためて購入し直したのがその隣に並んでいます。今では筑摩書房から講談社に移って学術文庫版でも出版されています。


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