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救いの御子は 御母の胸に #11

 小一時間ほど走ってネセブが近づいてきたころ、ラジオから「てぃんさぐぬ花」の三線の音色が流れてきた。

 てぃんさぐぬ花や
 ちみざち
 爪先(ちみざち)に染(す)みてぃ
 親(うや)ぬゆし事(ぐとぅ)や
 肝(ちむ)に染(す)みり

 ホウセンカの花は
 爪先に染めなさい。
 親の言うことは、
 心に染めなさい

「お父さん、亡くなられたの?」
不意にタクシーの運転手が僕に話しかけてきた。不躾な質問に少し戸惑いながら「はあ」と、答えた。
「でもね、あんたが一番お父さんの徳をもらっているからね。お父さんの愛情は全部あんたが持ってるからね」
 兄たちが話をやめた。次兄が少し身を乗り出した。怒っているのがわかった。失礼といえばあまりにも失礼な話ではあった。しかし、運転手は一向に気にする様子もなくにこにこしていた。僕だけ話に加わらなかったからそう言ったのだろうと思っていたら、
「顔」
と運転手が言った。
 唐突にそう言われて、何のことかわからなかった。
「人相でね。わかるよ。後ろの、あの、あなたのお兄さんたちかな、お兄さんたちには悪いけど、一番下のあんたが愛情を全部もらった顔をしているよ。いやごめんなさいね」
 客の話にいきなり入ってきて、しかも全く関係ない話をしてきたあまりの脈絡のなさに、みんな黙りこくってしまった。
「真実さあ。あんた、それが真実さあ」
 そう運転手が言ったきり、車内は静まり返った。
 僕は運転手の横顔越しに広がる奄美の海をぼんやり眺めた。


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