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ヘドロの創作

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フィクションの創作です。
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#小説

ヘドロの創作 2024/8/4

ヘドロの創作 2024/8/4

 (承前)
 猫に近い姿をした魔族は、キジ太郎一行をなにやら薄暗い森のなかに案内した。魔族は、チャチビと同じく、しっぽの先だけが蛇のような形をしていて、どうやらこの形質を持った魔族はエリート魔族であるようだった。
 ミケ子がしきりにキョロキョロして怯えている。キジ太郎は「大丈夫だよ」と言って手を握ろうとしたが、鋭い爪で反撃されてしまった。
 さきほどからミケ子は鼻筋にシワをよせて、ずっと「フゥー…

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ヘドロの創作 2024/9/8

ヘドロの創作 2024/9/8

 【猫の喫茶店】

 きょうはマタタビ中央通りにある「十二支入らなくてよかった神社」の秋祭りの日である。
 この神社は、猫が十二支に所属せずに済み、12年に1回の当番をやらないで済んだことを記念する神社である。猫的にはそれはすごくすごくめでたいことだ。
 まあそのかわり猫族は招き猫なるキャラクターにされ、金運だ千客万来だときわめて世俗的なご利益を求められているのだが。

 お祭りでは大きな山車が何

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ヘドロの創作 2024/9/1

ヘドロの創作 2024/9/1

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」の建物を覆っているツタが、実をつけ始めた。次第に、季節は秋へと傾いている。
 マスターは「そろそろアップルパイの季節だな」とつぶやき、店のドアを開けた。まだ強い日差しを感じるが、それでももう真夏の太陽ではない。
 となりにある大きな出版社のビルの影になりがちな喫茶「灰猫」であるが、朝だけは太陽が当たる。マスターはきょうも、スーツの上からエプロンをしめて、コーヒーを

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ヘドロの創作 2024/8/25

ヘドロの創作 2024/8/25

 【猫の喫茶店】

 きょうも「喫茶 灰猫」のマスターはいつも通り店を開けた。一歩店の外に出ると容赦ない日差しがじりじりと照り付けて、マスターはあわてて「喫茶 灰猫」の建物に逃げ込む。
 こんな天気じゃろくにお客さんがこないことを想定したほうがいい。来たならアイスコーヒーが売れるだろう。冷凍庫に、凍らせたコーヒー(これならアイスコーヒーに入れたあと、溶けてしまってもコーヒーが薄まらない)が入ってい

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ヘドロの創作 2024/8/18

ヘドロの創作 2024/8/18

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」は、大きなビルのふもとにある。大きなビルには出版社が入っていて、出版社は毎日たくさんの本を作っており、コーヒーを飲んで一休みしよう、とか、お昼においしいパンケーキを食べよう、といった出版社で働く猫たちや、出版社で編集者と話し合ってきた作家猫たちがぞろぞろと「灰猫」にやってくる。
 喫茶「灰猫」は大きな出版社のビルができるずっと前からそこにあって、いまではビルのせい

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ヘドロの創作 2024/8/11

ヘドロの創作 2024/8/11

 (承前)
 勇者キジ太郎一行は、猫の王の城にいた。何回も何回も取り次いでもらってどうにか王の謁見が叶った。そこで、魔族は知識がほしいのだ、と説明する。

「合同で大学を建てたらよいのではないだろうか。いま、余は貴族でなくても入れる大学の創設を考えていて、それを知恵を求める魔族――違う民族とともに設立できるなら、心強い」

 王は魔族のことを、「違う民族」と呼んだ。
 もう魔族は、敵でないのだ。

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ヘドロの創作 2024/7/28

ヘドロの創作 2024/7/28

 (承前)
 ミケ子を魔族から預けられたキジ太郎一行は、魔族との対話を求めて旅をしていた。魔族と出会うたびに、「敵ではない!」と言ったものの、問答無用で襲いかかってくる魔族も少なくなかった。
 ミケ子は猫として暮らし始めても、ちょっとしたことで毛を逆立て「フーッ!」と怒ることが多かった。それでも、ふつうの食べ物を与えられて食べるうちに、次第に猫の記憶を取り戻しはじめた。
 ミケ子は小さなころに魔族

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ヘドロの創作 2024/7/21

ヘドロの創作 2024/7/21

 (承前)
 キジ太郎一行は、王都を出て魔族出没の噂のある、旧時代の遺跡を目指していた。
 旧時代の遺跡はいまの時代とは違い、生贄として動物を捧げたり、子供を修行の旅にいかせたりする時代だったらしいことが分かっている。
 いまはずいぶんいい時代になったんだなあ……と思いつつ、キジ太郎たちは遠くに石積みの遺跡が見えてきたことに気づいた。

「あれだ。急ごう」

 キジ太郎は早足になる。クロ美がキジ太

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ヘドロの創作 2024/7/14

ヘドロの創作 2024/7/14

 (承前)
 司祭たちはキジ太郎たちを包囲していた。ここは王の城だ、剣を抜くことは許されない。司祭たちは棍棒を持っているが、それは血の出ない武器だから許されていることだ。いや棍棒で殴られたらふつうに血が出ると思うのだが、なぜか猫の法律ではそういうことになっていた。

「落ち着いて。話し合いましょう」

「魔族と和平を結ぼうというものと話し合えと? それは僧会の意志に反する」

 どうやらキジ太郎た

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ヘドロの創作 2024/7/7

ヘドロの創作 2024/7/7

 (承前)
 キジ太郎たちはいったん王都に戻ることにした。ただ魔族を倒すだけではこの戦いは終わらない。魔族を倒せば魔族は猫の子を捕まえて魔族にし、それを倒せば別の魔族がまた猫の子を攫う。それでは結局同胞を殺し続けることになるのではないか、と王に直訴するためだ。
 だいいち、この大陸にいる魔族を、キジ太郎たちだけで倒すのは全くもって現実的でない。もしかしたらこの大陸の外にも魔族はいるかもしれない。そ

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ヘドロの創作 2024/6/30

ヘドロの創作 2024/6/30

 (承前)
 キジ太郎は落ち込んでいた。寝言でぴいぴいと夜泣きするほど落ち込んでいた。
 チャチビがいなかったのがショックだったのだ。猫族の男親が子猫にこうまで執着するのは珍しい。たいてい女親に子猫を全て任せて働いているからだ。そもそもチャチビはキジ太郎の子供ではないのだが。

「いつまで落ち込んでんだよ。落ち込む気持ちはわからんでもないが、なんでそんなに執着するんだ」

 シロベエに静かに諭され

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ヘドロの創作 2024/6/23

ヘドロの創作 2024/6/23

(承前)
 影の魔族にさらわれたチャチビを追いかけて、キジ太郎たちはなにやら不気味な渓谷にいた。空気がドンヨリと澱み、なにやら不穏な雰囲気で、血生臭い匂いが鼻を突く。
 風が吹いて、一瞬霧が薄れた。霧の向こうには、不気味な塔が建っていた。

「どうすんだ、いくのかあれに」

 シロベエが眉間に皺をよせた。

(ここでいかねば勇者ではない)

 シャム蔵が真剣な顔をする。

「でも魔族の子供をそこま

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ヘドロの創作 2024/6/16

ヘドロの創作 2024/6/16

 (承前)
 チャチビは、恐ろしいほどスクスクと育った。キジ太郎の感覚では、あきらかに猫の子供とは違う速度に感じられたが、仲間たちは子猫というものを間近で見る機会がなく、シャム蔵が子猫の成長速度を知識として知っていただけだったので、誰も気にしなかった。
 しかしそれにしても成長が著しすぎる。チャチビはあっという間に歩いて一同の旅についてこられるようになった。いつもふところに抱えていたキジ太郎として

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ヘドロの創作 2024/6/9

ヘドロの創作 2024/6/9

 魔族の子であるチャチビは、意外なことに猫であるキジ太郎一行と同じものを食べたがり、猫と同じように過ごそうとした。
 チャチビはなかなか賢くて、太陽の高さを見て「まんまー」と騒いだり、日が沈むと「ねむたいー」とぐずったりした。
 その育つ様子はふつうの猫の子と何ら変わるところはなかった。ただ、尻尾の先についた口にギザギザの歯が生えて、それだけがチャチビが猫でなく魔族であると示していた。
 チャチビ

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