ヘドロの創作 2024/7/7
(承前)
キジ太郎たちはいったん王都に戻ることにした。ただ魔族を倒すだけではこの戦いは終わらない。魔族を倒せば魔族は猫の子を捕まえて魔族にし、それを倒せば別の魔族がまた猫の子を攫う。それでは結局同胞を殺し続けることになるのではないか、と王に直訴するためだ。
だいいち、この大陸にいる魔族を、キジ太郎たちだけで倒すのは全くもって現実的でない。もしかしたらこの大陸の外にも魔族はいるかもしれない。そうなったとき王は遠征手段を与えてくれるのか。
それを直訴するために王都に戻ってきたのだ。
しかしなんせキジ太郎以外は隠棲していた面々なので、なんとなく人目、猫目? が気になる。とにかく急いで王宮にいこう、と一同は王都の街を歩き始めた。
王都では新しい石畳を敷く職人の姿がある。わだちがついて歩きにくくなったと報告されたのだろう。王都はビックリするほど栄えていた。
(すごいところだ。気分が悪い)
シャム蔵がそうぼやいた。
さて、王宮に着いた。門番が槍を交差させて道を塞ぐので、キジ太郎は勇者の剣を見せた。通してもらえたので全員ゾロゾロ中に入る。
王はでっぷり肥えた体を玉座に預けていた。きっと1日2回の食事に満足できなくて、脂っこい間食をたくさん食べているのだろう。
「どうした勇者よ。それがそなたの仲間か? なかなかいろいろと面白そうな仲間たちではないか」
「あの。陛下、提案したいことがあります」
キジ太郎は魔族と和解すべきでないか、ということを王に伝えた。王はしばらく静かに聞いていたが、全身の毛を逆立てて怒鳴った。
「そのようなことがまかり通ると思うのか! 魔族には心がないのだぞ!」
キジ太郎はさすがにカチンときた。チャチビには間違いなく心があったからだ。
「陛下! おそれながら!」
キジ太郎がチャチビのことを語ろうとしたとき、きれいななりをしたサバトラの王子が現れた。サバ郎王子だ。キジ太郎の引き抜いた勇者の剣を引き抜けなかった王子である。
「父上。怒りをお収めください。勇者の言うことも案外真理かもしれません」
「……サバ郎か。なにを根拠に」
「この者たちの言うとおり、魔界見聞録という書物に、全ての魔族を倒さねば魔王を倒せないと書かれているのは本当のことです。なれば魔王を倒すなど不可能でしょう。ましてや猫の子を攫って魔族にしているなら、倒すのは猫の子を殺すのと同じことです」
「……むう……」
「私は勇者の言うとおり、和解するのがいちばんいい策だと思っております」
「そうか……老いては子に従えという言葉もある。信じてもいいやもしれぬ」
よかった、話が通じた。キジ太郎はそう思った。一同は、サバ郎王子の執務室に通されることになったが、廊下を歩いているとなにやら司祭服を着て手に棍棒を持った武装司祭に取り囲まれた。
「勇者とあろうものが魔族に日和ったそうだな。そのような勇者は勇者ではない」
武器を構えて司祭たちがやんのかステップでにじり寄ってくる。ピンチと言えた。
(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
きのう聡太くんと夜のルーティーンをしようと思ったが聡太くんが見つからない。ボールを物置側からホイと台所に放り投げてみたら聡太くんは台所で「ぼーるあそびですか? ぼーるあそびですね?」という顔をしていた。そこにいたんかい。
きょうはきょうでにんじんのサラダのマヨネーズをぺろりぺろりとなめていて、父氏は止めずに「マヨネーズなめてるけどいいのかい?」とのどかに言っていた。止めなさいよ、と思った。
なおいま聡太くんはグッスリ寝ている。なんだお前〜。
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