茶湯式タイムカプセル
茶の湯の醍醐味といえば、ずっと客人を待ち続けることが第一と言えます。
いつか、あの人を招いて、これを出そうかなあ、と妄想に妄想を重ねるときが、本当に楽しいのです。そして、絶えず、そのときのために、タイムカプセルの準備をしております。
今回は、いつか来る客人のために用意している、いくつかの秘密を載せたいと思います。
①ジンジャービアー
ジンジャービアーは、生姜と糖分を発酵させて作るイギリスの飲み物です。ジンジャエールの原型とされています。 ビアーと名がつきますが、ノンアルコールです。
飲むと、生姜の香りと、発酵による炭酸で、口の中がサッパリし、身体がポカポカと温まります。砂糖、生姜、イースト、そしてぬるま湯を入れたボトルを、まる1日ほっとくと出来上がります。発酵が始まったのときの炭酸の勢いがすごいです。
この蒸し暑い梅雨の時季であれば、4時間のもてなしである茶事の寄付などでお楽しみ頂ければと思っています。ちなみに、鎮痛効果と免疫力が向上します。
②柚餅子
柚餅子といえば、冬に作っておくもの。柚子と味噌、くるみ、白ごま、砂糖、上新粉を入れ、蒸し、和紙に包んで干すと出来上がります。長期保存ができ、いつでも出せる常住の料理となります。削ったり合えたり、調味料的に使えるとても便利なものです。そのままでも、十分、口取りになります。
季節を思い出させる贅沢なたべもの。
③干飯
戦国時代の常備食料として有名な干飯(ほしいい)。些末な料理、ということで、さっと食べてさっと茶を飲むときには、茶席でも干飯を用いたエピソードがあります。
炊いたご飯を洗い、3日〜5日ほど干します。弥生時代からあるそうで、20年もつとされています。
これにお湯をかけて蒸らすと、炊いたご飯のように戻り、美味しく頂けます。不時の茶の湯で出したいものです。
④梅シリーズ
梅ジュース、梅味噌、梅酒、茶梅などです。
茶梅は、台湾茶の茶菓子とされていて、中国茶の茶葉を、氷砂糖と梅の果汁の中に入れるとできます。お茶の香りが梅に移り、口取りとして頂きます。
また、梅醤(うめひしお)も計画中です。こちらは沢庵宗彭が好んでいたことでも知られています。
⑤ドクダミ茶、ドクダミチンキ
ドクダミ茶については、以前こちらでまとめました。
ドクダミチンキは、ドクダミの花や葉をアルコールに漬けています。虫に刺されたあとに塗るとよく効くそうです。茶事をする際に、大いに役立ちそうですね。
ちなみに、この時期茶事があって庭番を任されると、一切物音を立ててはいけないため、蚊を振り払うこともできず、じっと刺されるままになります。耳元を刺された時は地獄でした。
⑥桑実丸薬
桑の実はこちらでまとめております。やっと乾いてきました。
この中で、乾かし粉末にして蜂蜜と混ぜて丸薬にするとありますが、まさにこれを作っています。イメージ的には、美味しい味を予想しているのですが、どうなるか楽しみです。
携帯用の口取として、いつでも使用することを考えています。これで、どこでもお茶が飲めますね。
⑦干し柿
そして最も贅沢な口取のひとつ。干し柿。岐阜の柿を干しています。これは、口切や歳暮の茶事など、厳かなときに出したいと思っています。
●まとめ 「四里四方」
このように、家でもできる工夫や準備はたくさんあります。特に、発酵の世界に入ると、戻れなくなりそうですが、長期保存できることで、突然誰かがいらしても、茶席を整えることができます。
「四里四方」という言葉があります。これは字の通り見れば半径約16キロ四方ということですが、その意味は、昔の人が一生のうちで行動する範囲のことです。身の回りにあるものを見つめ、その中にある大切なものを出せば、自然とそれが自己表現になったのです。
今では電車や飛行機に乗ったり、ウェブ上で買い物をしたりすれば、半径16キロどころか、ほぼ無限に範囲を広げることができますが、では自分の四里四方には一体何があるでしょうか。この範囲を見極めることで、自分を見つめ直すことができるため、現代の人こそ必要な行為であると思います。
ぜひ、自分の四里四方を見出し、それを共有できる茶友と、茶を楽しみましょう。
武井 宗道
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