本当にあった旨い話 <夫婦世界一周紀53日目>
とにかくすごい話なので聞いてほしい。まさに旅の醍醐味です。
マドリッドのパエリアで散財してしまってから、僕たちは一度も外食をしなかった。あのペースでお金を使っていたら終盤まで持たない。スーパーに行けば安い価格で美味しい物が食べられるけど、観光して帰ってきてから自炊するのって意外に大変なのだ。
airbnbで泊まれる宿はキッチン付きの場所を選んではいたが、外国人は「自炊」の概念がどうも違うらしい。包丁はまったく切れないし、どこを探してもまな板がなかった。現地人スザーナが食べてたのはパンと生ハムとチーズだけ。設備の整っていない場所で自炊するのは色んな意味で堪える。
昨日の話の続きだ。トーレスワインの試飲ですっかりご機嫌になった僕らは、帰りは最寄り駅までの道のりを歩いて帰ることにした。距離にして約7キロ。ほろ酔いの時は判断を間違えるものだ。木箱に入った重たいお酒を担ぎ、結局2時間近く歩く羽目になった。そのあとに電車で2時間。薄暗くなったセントアドリアに着いた時には僕もフウロもすっかり酔いは冷めてクタクタだ。ここから自炊をするのはちょっと億劫だからと、スーパーで珍味だけ買って帰ることにした。
家に着いて電気をつけると、目を疑う光景が広がっていた。
カルロスが僕たちの為に用意したご馳走たち。まさにカルロス砲と言うべきおもてなしだ。てっきりairbnbのレビューの話はチェックイン時のジュースと果物のことだと思っていたが、甘かった。あれは序の口で、これが本番だったのだ。
キッチンを見るとパティシエナイフが流しに干してあった。どうもこのケーキたちはここで作ったようなのだ。今日も仕事だったはずなのに、家に帰り秒速でお菓子をこさえるカルロスおそるべし…そして僕たちが部屋に入ると入り口の近くにあるカルロス専用の部屋でスヤスヤ寝ている。まるで絶(ゼツ)を使っているかのような気配の消し方。ホストレベルが高すぎる。
生ハムは原木削り出しの分厚いものだったし、パンも高級でもちもち、表面にはオリーブオイル・にんにく・トマトでこしらえたソースが染みていた。仕事が細いぞカルロス!
フウロと酒をがんがん飲みながら「一週間前まではあんなにひもじい思いをしていたのにね」と話し合う。甘口のワインに生ハムを流し込み、チョコ生地のケーキで口が甘くなったらエスプレッソで口直し。まるで貴族になったようだ。もうここを離れず永住したい。
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ものづくり夫婦世界一周紀
2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…
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