動物談義 ゾウとトラのはなし《夫婦世界一周紀18日目》

知ってる？ゾウの一番チャーミングなところは「鼻先」だ。

エレファントパークでゾウに乗って一周した。ゾウの背中は高くて、びっくりするぐらい揺れて、あんまり快適ではない。ゾウの背中の毛は30年洗っていない皮膚のようにざらりとしていて、ところどころに縮毛が生えている。愛嬌がないなあと思いながらそそくさと降りてもう終わりかなと思ったら、ゾウ使いが鼻と握手してごらんと言った。

ゾウの鼻がこちらに伸びてくる。大きくしたミミズのよう。硬いのか柔らかいのか、温かいのかぬるいのか。どきどきしながら触ってみると。

もにゃもにゃ、あたたかい、イモムシを大きくしたようなかんじ

とってもやさしい感触。とってもいい感じだと思ってもみもみしていると、突然突風に襲われた。ゾウの呼吸だ。工場にあるような業務用扇風機の最強モードを目の前でつけられたような感じ。干し草の匂いと、ミストサウナみたいな多湿が僕を襲う。思ったよりもくさくはなかった。フウロは私も浴びたかったと悔しそうに言っていた。ゾウ園で一番楽しかった出来事だ。

小学生の時の記憶だと思う。上野動物園にいるゾウは臭くて、とても怖かった。のそのそ歩いていると思ったら突然動くし、まっくろけでよごれていた。みんながゾウだゾウだと喜んでいるのをみて、なにがいいのだろうと思っていた。今ならわかる。ゾウはかわいい。

バナナを持って近づくとゾウは鼻を口に持っていく仕草をみせる。「それちょうだいよ」と催促しているのが手に取るようにわかる。ロシア人とのコミュニケーションよりも円滑だ。二つほどバナナをもぎって近づけると、鼻が近づいてくる。近くでみると鼻はピンセットのようにつまめるようになっている。

そうそう。ゾウはバナナばっかり食べるんだと思っていたけれど、アイスも好きらしい。飼育員が半分食べたアイスを欲しがっていて、口の中に直接放り込んでいた。美味しそうに咀嚼している。鼻先は冷たいものは苦手なのかな。

フウロは動物と触れれば触れるほど元気になる。少数民族ツアーの途中で見かけたタイガーキングダムが忘れられなくて、予算をちょっとオーバーするけど追加で行くことにした。トラに触れるなんて人生最後のことかもしれない。今日が人生最後にならなきゃいいけど…。

トラで一番驚いたのはなんだと思う？肉球だ。ピカピカと光っていて和菓子みたい。硬いのか、柔らかいのか…気になってしょうがなかったけれど、さすがに我慢した。虎穴に入らずんばとは言うけれど、肉球のために死にたくない。

「猫と獣の匂いがするね」フウロはトラにもたれかかってうっとりと言った。ご機嫌だ。トラはでかい猫のよう。喉をごろごろ鳴らして、眠くてたまらないという感じで横になっている。お腹に手を乗せてもへっちゃら。飼育員が「しっぽを掴んでごらん？」とか言うので驚いてしまった。尻尾を触られても全然気にしないそうだ。でも顔の前には近づかないようにと陽気な飼育員はその時だけは真面目な顔をして言った。ここで生まれ育った温厚なトラといえど、トラはトラ。襲われたらひとたまりもない。

そうっとお腹に手を乗せて体重をかけてみる。自分では気を許したつもりだったけれど、フウロに撮ってもらった写真を見返したらへっぴり腰だった。帰りの車で手の匂いを嗅ぐと、石鹸の匂いに混じってトラの獣っぽい匂いが残っていた。

動物とのふれあいは、世界一周の一つのテーマだった。僕もフウロも動物が大好きだ。とはいえ、動物と出会えるのはオーストラリアだけだと思っていた。ところが、蓋を開けてみるとロシアでは野生のリスに出会い、トゥヴァではおばけみたいな猫に出会い、タイではゾウとトラと戯れ、ずいぶん動物との出会いを堪能している。

タイの滞在は今日で終わりだけれど、この分なら同じ熱帯地域のスリランカではもっと面白い動物に会えるかもしれないなとワクワクしていた。

そう、この時はスリランカでどんな目に会うかなんて想像もしていなかった。

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「ものづくり夫婦世界一周旅行紀」は、一年前の今日世界を旅してきた僕たち夫婦の旅エッセイです。2018年8月19日から2019年12月9日までの114日間の記録をほぼ毎日連載します。一度購入して頂くと連載を全て読むことができます。マガジンに飛ぶ

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