コンサルたるもの、常に予想を上回れ
社長、お嬢氏とともにカリフォルニアに向かうヒルズ氏。投資会社との打ち合わせに向け、機内でも休む間はない。(前回)
映画の一本も見ず、たまった仕事を片付け仮眠をとり、あっという間に目的地についてしまった。サンフランシスコ現地朝着ーー。誰だ、こんな便を飛ばした奴は?
◆いつでもブリーフィング
あぁ、ここから一日が始まってしまうなど。。。
信じたくないのだが、とテンション低めに飛行機を降りたところで、社長が待っていた。
「「お疲れ様です」」
同じくテンション撃沈状態のお嬢とシンクロ挨拶を済ませる。
チャーターしてあった車に乗り、すぐ目的地へ向かう。
車内で一息つけるかって?
まさか。
異常に時間を惜しむコンサルたるもの、社長と同乗する時間は全て仕事の打ち合わせ、つまりブリーフィング時間(*)だ。
「先日の飲料メーカーコンペの件ですが」
思い出すのもおぞましき朝まで資料修正&豚骨ラーメン事案すら、私の手にかかればスマートな報告に早変わり。これぞ罪深きコンサルマジックよ。
「私からは某部品メーカーの件ですが」
お嬢氏もご機嫌斜めながら、最近手掛けているプロジェクトを報告。
適当な返しを挟みつつ、ご満悦な社長。
◆いつでもオーパス・ワン
ブリーフィングがひと段落した。
社長が流れる景色に目をやり、話題をふる。
「ナパバレーって知っているかい?」
えぇ、存じ上げております。カリフォルニアワインの産地ですね。
「私はいつもオーパス・ワンを指定していてね」
あのワイナリーでは年代別に2つのオーパス・ワンが試飲できてね、あ、そうそう、〇〇不動産の社長と来たときかなぁあれは。
「「そうなんですねぇー」」
極めて興味のない話題だが、務めてニュートラルに相槌をうつ。
しかしそういうことか。どこのレストランで接待をしようと、社長がオーパス・ワンを頼んでいたのは。バカの一つ覚えなのか?と思っていたが、本当にバカの一つ覚えだったとは。
あ、そうそう、ロバート・モンダヴィも外せないよな、知ってるかい? あと少しマニアックだがスタッグス・リープもなかなか雰囲気があっていいワイナリーでね。
やめてくれ。
スタッグス・リープは私もお気に入りなんだ。
しかも先日のカリフォルニア火災で焼け落ちたんだぞ。どれだけ悲しんだことか!この似非ワイン好きがぁぁぁぁ!軽々しくぅぁぁぁ! !!
疲れのせいか、怒りがふつふつと湧き上がる。
必死で平穏を保とうとする私の横で、お嬢が動いた。
◆一撃必殺
「カリフォルニアワインは素晴らしいですよね」
ゆったりと上体をシートに預け、微笑むお嬢氏。
私も彼女と付き合いが長くなってきた。
これは来る、何かが来るぞ。
「ほぅ、君はワインが好きなのかい?」
恐れを知らぬ社長が言葉を投げかける。
好きじゃないはずないだろう、何せ通称が「お嬢氏」だぞ。彼女がどれだけワインに詳しいと思っているんだ。
呆れかえっていた時だ。
「私、ナパバレーに個人ワイナリーを持っていまして」
ゲッホォっ!
な、何!?
なんだ今の一撃は!?
はるかに予想を上回ったぞ? ナパバレーに個人ワイナリー? 衝撃で何も飲んでいないのにむせ返ったではないか。。。
「あ、、そうなんだ」
「それは、凄いね」
急に口数が少なくなる社長。
お嬢氏のお嬢っぷりを知らなかったのだろうか?
この残酷な世の中、上には上がいる。 成金オーナー社長には届かない世界があるのだよ。などと何故か私まで勝ち誇った気分になったところで、車が駐車場に吸い込まれる。
目的地の某投資会社に到着した。
(続く)
(*)短い時間での打ち合わせ、特に状況報告を行うことをコンサル会社では「ブリーフィング」と呼ぶ。報告と呼べば、打ち合わせと呼べば、、、というつっこみは無しだ。なにせ全ては雰囲気だからな。
Twitter: @soremajide
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