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青空物語 第2話 期待と不安

前回のお話はこちらから


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第2話 期待と不安


「隆のところ、今年のトマトの収穫はどうだった?」
「んーじぃさんがいうにはさ、ちょっと実が小さかったって」
「去年と変わらずかあ」
「暑いからだっていってたな。俺もそう思うわ。この暑さの中で作業をやるのまじ、やだもん」
「作業もだけど、作物が可哀想」

「俺もかわいそう」
「・・そうね」
蒼は隆の気楽さに笑いながら続けた。

「これ以上はドームの管理温度は対応できないのよね」
「去年よりは外は暑くないみたいだけどね」
「タカシさんのいう通りです。ここ5年ドーム外気温の温度は下がっています」

クウがお腹の白い部分にグラフを映し出す。

「ありがたいよなあ」
「理由がわからないからありがたいけど心配」
「理由はいろいろ考えられます」

グラフに続いてデーターを映し出そうとしたクウに蒼は
「ありがとう、データーはいいよ、クウ」と言った。


そんな話をしながら2人が長いこと歩くと、<自然保護・生産区域>という看板が出てきた。

「居住区域から出るまで何も乗れないっていうのがキツイよなあ」
「区域までは乗り捨てシェアバイクかシェアタクシーがあるけどね」
「区域から出る方向にもそういうものを用意してくれないかなあ」
「タカシさん、不便なら車の申請を出せますよ。プロダクター以上方には権利があります。特権の申請は」

クウのお腹が再び光る。
クウが申請の方法について説明しようとするので隆は慌てて止めた。

「クウ、大丈夫だよ、いいんだ。権利のことは知ってるけど、そこまででもないし、特権ってやつは嫌いなんだよ」
「タカシさんは立派ですね」
「どうも」
「なんだかんだめんどくさいだけだと思うけどね」
と蒼は笑う。

「ま、それもあるな」
「しっかりしてください」

クウのあげたり下げたりの回答に二人で笑いながら、蒼と隆は区域証明書と書かれたゲートにカードをかざす。
蒼に続いてクウが通ろうとするとゲートがピーピーとなり閉じた。

「あ、ごめん、忘れてた」
蒼は慌ててクウを抱きかかえた。
クウは荷物として抱えて通らないとゲートを通れないのだ。

「アオイ、ありがとう。ワタシは覚えていたのですが、もう通れるのかと思いました。まだ、荷物扱いなのですか」
「そうね」
「あのゲートより頭脳は発達しています。なのにワタシは荷物ですか?」
「そうだね」

「クウは納得いかないかもしれないけど蒼のところだけだからね、子守AIなんかいるの」
「子守AIなんかとはなんですか?」
「失礼。子守でなくても今時連れて歩けるAIなんて化石」
「カセキ!!!」

クウが体と足の部分をコロコロさせるので蒼がクウを落としそうになる。
「クウ!やめて。動かないで。隆もクウを刺激しないで」


隆とクウを抱えた蒼がゲートを抜けるとそこは銀色の穂がなる畑が続き、周りは果物などの木々が生い茂っていた。
蒼と隆は止めておいたトラクターに乗り込み帰路についた。

蒼の家の前を通った時だった。ちょうど郵便屋が来ていた。
「隆止まって!」
蒼は慌ててトラクターを降りた。
「久しぶりだねー郵便屋」
「私も久しぶりです、郵便物届けるの自体」

蒼は鞄からペンを取り出し、受け取りサインを書き封筒を受け取った。
「郵便屋ってことは公的書類?」
「・・隆、お茶、あとで行く」
「え、蒼?」

隆が蒼に声をかけるまもなく、蒼は家の中に入っていった。
蒼は書類を持って自分の部屋まで駆け込む。あまりの早さに後からクウがそっと入ってくる。

封筒を両手で持ち見つめる蒼にクウが声をかける。
「開けてみては?」
「うん」
そう返事をしたものの動かない蒼にまたクウが声をかける。
「開けなければなんだかわかりません」
「うん」
「危険物は入ってないです」
クウが中身をスキャンして確認をする。

「わかってる」
「おそらく・・」
クウが続けようとする前に蒼が封に手をかけた。

中から書面を取り出すと書面の一番上には<渡航再開50年記念事業における渡航許可のお知らせ>という文字があった。
彼女が3年に渡って申請を出していたナルへの渡航許可が降りた知らせだった。


蒼はナルとナブンの渡航が一部で許されていた頃の最後の渡航者の子孫だった。
3年前の1回目の申請では申請内容の有無よりも未成年だということで却下され、2回目は自分の高祖父に会いたいということで申請書を出したが理由が私的すぎるとして却下された。
3回目で学位取得のための資料取得というのを加えてようやく降りた許可だった。

「アオイ、嬉しくないんですか?」
蒼が書面を持ったまま考え込んでいるのをみてクウが話しかける。
「嬉しくないわけではないけれど」
「けれど?」
「大丈夫かなあって」
「何が心配ですか?」
「100年ぶりよ」

50年前から渡航申請は受け付けていたが様々な理由で20年間許可が下りず、その後は誰も申請を出さなくなっていたのだ。
蒼が実に100年ぶりに許可が下りた渡航者だった。

「渡航については確かに100年ぶりですがものの流通はされていますし、ドームの入り口まではそのために人が来ていることもあります」
「知ってる。シップの心配ではなくて」
「アオイのお父さんとお母さんは賛成していました」

「うん、それも心配してないんだけど、100年も誰もいってなくて、ナルの状況ってどうなのかなって・・おー爺ちゃん、今どうなってるのかもよくわからないし」
「最後に話したのはアオイが10歳の頃ですね」
「そう。おー爺ちゃんの通信機器が壊れちゃったんだと思うんだよね」

「あちらで一緒に住んでいる人がいますよね」
「叔母さんでしょ?叔母さんもそういうの苦手だし、ナルは電気とかそういうものが貴重だから買い換えないんだと思う」
「手紙は時折来てます」
「でしょ?だから手紙なんだよ。まあナルからメールっていうのも相当だと思うけど」

「ソートー?」
「ナブンとは全く違うからね。おー爺ちゃんは自分で電気から通信機器まで作ってたからできるだけで、買って揃えて維持するのに相当かかるってこと」
「なるほど」
「手紙ももう5年も前だから」
蒼は書面を閉じながら言った。


「アヤさんはなんていっているんですか」
「お母さんは手紙が戻ってこないからわからないけど戻ってこないということはついていることだからって」
「アヤさんらしい回答です。カノさんは」
「おばあちゃんはあまり考えたくないみたい、お母さんよりは心配してるんだと思うけど考えてもどうにもならないからって」
「ならばアオイも考えなければいいのでは」
「簡単にいうなあ」

蒼がまた書面に目を戻そうとすると蒼の部屋のドアをノックする音がした。
隆だった。

「玄関開けっぱなしだったぞ。あぶねーよ」
「え、ほんと?やだ。・・で、隆、どうしたの」
「どうしたのってお茶は?」
隆は呆れてため息をついた。
「あ、そうだったごめん」
蒼は「すっかり忘れてた、うちでお茶しよ?」と言って隆をリビングに通した。


「待ってても全然こないからさー」
「うん、ごめんね」
冷蔵庫を開けて飲み物を用意しながらぼんやりしている蒼をみて、隆が笑顔でいった。

「おめでとう」
「え?」
「通ったんだろ?渡航申請。毎年この時期じゃん、蒼が郵便物気にしてるの、来たってことは通ったんだろうなって」
「うん」
「よかったな、おー爺ちゃんに会いたかったんだろ」
「・・よかったのかな。おー爺ちゃんどうなっているかわからないし」
「あー、ね。いくつだっけ?」

「120歳は過ぎていますので平均寿命ぎりぎりでしょうか。しかし、フェニックスを選択している可能性もあります」
蒼の代わりにクウが答えた。

確かにクウが指摘したように、フェニックスと呼ばれる医療を選択すれば脳を保存しながら意識を保ち、会話などをすることは可能だった。
さらに高度な医療であればそれらを機械につなぎ動くこともできる。

しかし、蒼には高祖父がそういったことを好むとは思えなかった。元々地球学と言われる生物から科学の学者をしていながらも、農地を耕していたことを知っていたからだ。


「脳だけ生きながらえるなんておー爺ちゃん選択しないんじゃないかなあ」

蒼は高祖父が自分の娘、蒼の曽祖母がなくなった時に「人は人の役割を全うしたら自然に帰る。順子も帰っただけだ」といっていたことも思い出していた。

蒼がグラスにお茶を注ぐ。
グラスの中でカランと氷が溶ける音がした。
夕方になっても少し暑い空気が窓から入り込み、蒼たちは喉を鳴らしながらお茶を口にした。

窓からは空虚な空が見えていた。


                       第3話 旅立ち へ

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新作のカケラからできた長編になります。
6日まで毎日更新予定です。
よろしくお願いいたします。

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