見出し画像

青空物語 第3話 旅立ち

前回のお話はこちらから




1話目に索引が載っています。1話目はこちら


ーーーーー
第3話 旅立ち


「生きる選択は人によりますからワタシでもわかりませんが、確率でいうと」
「いや、確率計算しないで。余計に気になってくるから」
蒼がクウの口を押さえた。

「わかりました」
「クウはすぐなんでも正確に出したがるからなあ」
「いけませんか」
「大事だけど、ない方がいいこともある。ま、計算苦手な俺にとってはいて欲しい存在だけどね」
「ありがとうございます」

「蒼はさ、おー爺ちゃんに会えるかどうかわからないのが不安なわけ?」
「それもだけれど、叔母さんとも連絡取れてないからナルに行って身元引き受けてくれる人いなかったらどうしようって。」
「なるほど」
「アオイ、それはないと思います。アオイの今回の合格の理由は、身元引受人が確認できたからだと思われます。」
「そうなの?」

蒼と隆はクウを見つめるとクウが
「データー、いりますか?」
と聞いたので二人は笑った。

「学習が早いよなあ」
「AIだからね」
二人は再びお茶を口にする。
水滴でグラスが汗をかいていた。


隆はグラスに目をやったまま話し始めた。
「蒼は学位取得の論文のためにもいきたいんだろ?」
「そうなんだけど、今のナルの状態がわからないし・・」
「ナルに資料請求しても、戻りがないのが心配ってこと?でも、おかしなことになってたらそもそも記念事業なんてしないだろう」
「うん、50年記念事業の時の渡航は天災で中止になったしね」
「国立図書館に資料請求しても戻ってこないのは見つけられないこともあるからって聞くぜ」
「まあ、資料がタイトルしかわかってないからそのせいかもしれないとは思ってるんだけど」
蒼もどうしたものかと視線を落としたまま話を続けた。


「蒼はさ、どうやってナルがあの状態から復活してきたかの資料があればもう少しナブンも変わるっていってたじゃん。自然な状態で共存していけるって。今のお前は学位に関係なく行きたいんじゃないの」
「ワタシたちが持っているデーターは100年以上前のものがほとんどです」
「そうね、私が集められた過去のデーターも全てじゃないのよね」
「・・最近のデーターが全て揃えば可能性は広がると思います」
そういってクウは蒼の集めた資料を開いた。それは2274年から2324年のものだった。

皮肉なことに人の往来が許されなくなった時期にようやく資料の共有システムが確立され、ナブンとナルの多くの資料がシステム上にあげられたことになる。
しかしシステムができても人の往来がなくなったことで、それ以降の資料をわざわざ共有しようということにはならなかった。ただ、請求をすればお互いの資料は共有されるようにはなっていた。

「それもなんだけど、それがまた問題だなあって」
「問題って」
「うーん、いろいろ」
蒼は議会でのことを思い出していた。


<お前はそれでもナブンの人間か!>
<ナルだけ苦しめるのか>


『どちらも選べない。私は誰なんだろう。』


蒼の心配そうな表情を読み取り、クウが反応する。
「それはこれですか」
クウがお腹にEOPのDMを表示した。いわゆるネット上の意見交換ができるところだった。

そこには<ナルの回し者!><ナブンの平和を乱すな!> と言ったものが散見された。多くは蒼がグリーンプロダクターの代表をすることになってからの批判的なものだったが、中には<ナルの未来を救って>というような応援するものも混じっていた。

「クウ!」
蒼がお腹のものを強制的に非表示にするボタンを押す。

「クウ、教えてくれてありがとう。俺は助かったよ。でも、蒼の情報は勝手に人には見せてはいけないよ」
「それはもちろんです。でもこれを解決するべき人はタカシさんだと思われます、タカシさんに責任はあります」
「クウ、そんな言い方しないで。私は自分で判断したんだよ」

「・・いや、クウの言う通りだよ、ごめん。蒼がそんなことをされているなんて知らなくて」
「ううん、いいの、私の判断で代表を引き受けたんだし」
「・・でも、そういった攻撃的なDMはナブン法務で本来排除されるだろう?どうして・・」
「さあ」
「ワタシはこれがヒントになると思いますが表示してもいいですか」
蒼はもう一つ表示しようとしているクウを見て諦めたかのように非表示のボタンを解除した。

クウが表示させたものには
<お前はナルに帰ればいい。秩序を守らない人間が簡単にナブン戻ってこれると思うな>
と記載があった。


隆はそれを読んだ瞬間、「なんだよこれ」といった。
「誰がこんなこと・・」
「わからない、私が活動することをよくないと思う人がいるだろうなっていうのは想像してはいたんだけれど」
「ごめんな、俺、明日ナブンの法務に行ってくるよ」
「あ、それは大丈夫。一応、父がその件で対応はしてくれているから。でも・・」

「でも?」
「皮肉だなあと思ったりもして。自由を求めながら規制をしてくれっていうのも・・」
「・・色々悩んでたんだな。ごめんな、気がつかなくて。そういうことだったらもう、代表はいいよ。俺がなんとかする」
「ごめんね。人とうまくやるって難しいね。どうしたら人とうまくやっていけるのかなあっていつも思うの」
「まあなあ・・それにしても、気になるよな」
「うん・・私の祖先がナルから移住してきたことを知っている人は少ないし」
「そもそも、渡航希望を出していることを知っている人も少ない」
「・・そうなんだよね・・それにナルに行く許可がおりたことを知っているかのようで・・」

「渡航許可証が来たのは本日です。渡航許可証を出すまでに関わっている人は運営と郵便局です」
クウが渡航許可証を指差す。

「え・・ナブンの運営の人間が関わってるってこと?」
「かもって思って」
「うーん・・」
隆は両手で持ったグラスの中の氷を指先で触る。
氷の音が静かな部屋に響いた。

蒼の表情からクウが反応する。
「心配かもしれませんが運営者が関わっていたとしてもナルに行くことは問題ありません」
「そうかもしれないけど、人には感情があるから」
蒼は悲しそうにクウを撫でた。
「まあ、よく思わない奴もいるからな」

クウは蒼と隆が黙ったのを見て少し間をおいていった。
「人間は面倒ですね。感情は素敵ですが、無駄です」
「まあ、それが人だからね」隆がため息をつく。

重苦しい空気が暑さで一層重苦しく感じられるかのようだった。
蒼が思い切ったように話し出した。

「ナルも同じかもしれないって思うんだよね」
「歓迎されないってこと?」
「うん」
「でも蒼はナルの血が流れているだろう」
「それをいったらナブンの血だって流れているけれど、今だって・・」


蒼はその先を言ってしまったら、自分が本当に何者なのかわからなくなってしまいそうに思い言葉を呑みこんだ。
隆はそんな蒼を見つめて考えたあと、「俺はうまくいえないけれど・・」といって続けた。


「・・俺は蒼だからできることってあると思うんだ」
「私だからできること?」
「さっき、クウのことを子守くんでいいじゃないかって言ったのはさ、昔からまあ子守くんって言ったりしてるじゃない?俺」
「うん」

「それは、クウをつれてたお前が羨ましくてさ。ごめんな。今朝もさ、蒼は俺がお前のことを子供だって言いたいだけだっていってたけど。そうじゃなくて、子守AIといることでもっと深いものを持っているようで羨ましいと思ってるんだよ」
「クウが?深いもの?」
「いや、なんていうんだろう、いろんな文化を持ってるみたいでさ」
「文化?」

子守AIは元々ナルで子供を安全に育てるために開発され発達してきたもので、離れた土地で子育てをする蒼の曽祖母のことを思い、高祖父が送ってくれたのがクウだった。
ナブンでは多くの人が自宅にAIを備えており、また安全な地域でもあったので子守AIは発達しなかったためナブンで持っている人は珍しかった。

「クウはいろんなことを教えてくれるし、蒼とも共有できるだろ?」
「隆のところにもAIはあるじゃない」
「まあ、あるけどちょっと違うなあ。こんなに喋らないし、人間っぽくはないよ。それに、蒼には、クウのこともだけれど明らかに違うものがあってさ。なんと言うか、うまく言えないけれどそれは血なんだと思う」
「・・・」

血・・そんなややこしいものはいらないと思うが、それでも確かに蒼も時折思うことがあった。もう4世代も前に移住してきた曽祖母がナルの人間なだけで、自分では何も変わらないようにも思う。しかし人とどこか何かが違うのだと感じることもあった。


「お話中、申し訳ありませんがワタシと普通のAIは明らかに作りが違います。作られた目的も違います。ですが、ナブンとナルを分けて考える必要はあるのですか。元々一緒の人ですよね」

クウの言葉に蒼と隆は少しハッとした顔をした後、笑った。
「確かに人間より人っぽいかもね。人間がしっかりしないとなあ」
「蒼は十分しっかりしてるけどね」
夕方になり柔らかい空気が入り込んできていた。

「行くのか」
隆は優しい声で言った。
「一人で心配だけどね」
「一人じゃないだろう、クウも一緒だろう」
「そうです。ワタシも一緒です」

そう言いながらクウが渡航許可書と一緒に入っていた注意書きを持ってきた。
そして
「でも、ワタシはまた荷物として一緒に行くんですよね、AI扱いしてもらえないのはどうしてでしょうか」
といったので蒼と隆は笑いあった。

「荷物いろいろ持っていくんだろ、準備手伝うよ」

蒼と隆の話が終わる頃には、偽物の空はただの暗闇へと変わろうとしていた。


              第4話 視線  へ

ーーーーーーー
新作のカケラからできた長編になります。
6日まで毎日更新予定です。
よろしくお願いいたします。

よろしければ餌を与えてみませんか?(=サポートお願いします)喜びます(=がんばる活力にします)