マガジンのカバー画像

ショートショート

16
運営しているクリエイター

#ショートショート

『夢の中の記憶』ショートショート

『夢の中の記憶』ショートショート

夢の中に公園が出てきた。

その公園は学生の頃、片思いだったクラスの女の子と、よく喋った思い出の地だ。

いつも女の子は、公園のベンチに座りながら読書をしていた。何十年も前の話だ。

久しぶりに行ってみようと、公園へ向かった。

すると、あの頃のようにベンチに座る買い物帰りの妻がいた。

学生の頃のように、妻に話しかけた。

園ひさや

『秘境』ショートショート

『秘境』ショートショート

私は秘境にやってきた。

なんでもそこには、外の世界とは完全に遮断されている原住民が暮らしているらしい。

どれどれ、いたいた。

彼らはなんとも不思議な様相だ。

言語も違うので、意思疎通は図れない。

彼らは独自の文化を形成している様だ。

何やら鉄の箱で運ばれるている。

そして、小さな箱に向かって何か手を動かしている。

そんな事を8時間あるいはそれ以上やっている。

しかも、彼らは週に5

もっとみる
『答えの先』ショートショート

『答えの先』ショートショート

「あそこのレストラン美味しいのかな?」

「ちょっとネットで評価見てみようよ」

---

「この映画って観る価値あんのかな、どれレビュー評価は」

---

「どうしたら、この事業は軌道にのりますか?」

「私の起業成功本を読めば、たちまち成功します」

---

「私は今後、どんな人生を生きればいいですか?」

「答えは自分で見つけるべきだよ」

園ひさや

『逃げ道』ショートショート

『逃げ道』ショートショート

俺は、”俺が創りたい物”を創るだけだ。

大衆に迎合した物なんか創らねぇ。

そうして俺は、今年も落選した。

園ひさや

『例え話』ショートショート

『例え話』ショートショート

地球に一機の宇宙船が降り立った。
人々は恐怖心と共に、それ以上の好奇心を持ちながら、宇宙船から出てくるであろう生物を今か今かと待っていた。

宇宙船の扉が上へと開き、見るからに宇宙人といった形状の生き物が二人出てきた。
地球人を代表して、大学で宇宙学を研究する教授が接触を試みた。

「どうも、遠路はるばるご足労いただきましてご苦労様です、私たちはあなた方を歓迎いたします」
何を考えているか分からな

もっとみる
『何年後?』ショートショート

『何年後?』ショートショート

「きゃー!」
女性の叫び声が聞こえ、A男は直ぐに聞こえた方を振り返った。

女性の前には露出した男が立っているではないか。
A男は露出魔に駆け寄り、すぐさま取り押さえた。

2年前から習っている護身術の成果が発揮できて、内心嬉しかった。
「お前、なにやってんだ!警察呼ぶからな!」
A男は押さえながら露出魔に言った。
露出魔は何も言わず、A男の力に抵抗した。

「すいません、そこの貴方」
A男は通り

もっとみる
『バランス』ショートショート

『バランス』ショートショート

私は常にバランスを保っている。

手提げかばんを右手で持ち、10分歩いたら、左手でも10分持ちながら歩く。
出勤にバスを使ったら、帰りは歩いて帰る。

足の右小指をタンスにぶつけたら、左小指もぶつける。
変わっているが、こうしないと気が済まない。

今日はバランスを保つために、自殺する。

逆上して妻を殺してしまった。

園ひさや

『違法の冷蔵庫』ショートショート

『違法の冷蔵庫』ショートショート

「この冷蔵庫は絶対にお売りする事はできません」
そう言われたら、理由を知りたくなるのが当たり前だ。

しかし、店員は一向に理由を教えてくれない。

「どうしてだ?」
僕は少し怒った声で聞いた。

すると店員は
「お教えする事はできません、しかしこの冷蔵庫を使ってみたら理由はご理解できると思います」
と言った。

そこから、店員はこの冷蔵庫を家で使ってみてくださいと1日だけウチに冷蔵庫を貸してくれる

もっとみる
『空飛ぶストレート』ショートショート

『空飛ぶストレート』ショートショート

僕の家の近くには、飛行場がある。
そのせいで、毎日飛行機が空の中をまっすぐ飛んでいる。

ある日、飛行機が誰かの家に落ちたんだ。

人が死んだって、ママが言ってた。

その次の日から落ちたはずの飛行機が空をまっすぐに飛んでいるのを沢山の人が見たって噂になってる。

僕もその飛行機を見かけるから、いつも手を合わせてる。

今日も空を飛んでいるのを見た。
だけど、何故か自分も空にいたんだ。

びっくり

もっとみる
『失恋数学』ショートショート

『失恋数学』ショートショート

今回のテストは赤点ばかりだ。

だけど、数学は98点を取れた。

でも駄目だ。

アイツとの約束は満点だから。

この約束も今回で5回目。

いつになったらアイツと付き合えるんだろう。

俺はいつもフラれっぱなし。

満点が取れないと、アイツはいつも俺の事をからかう。

そして、俺は今度こそと息を巻く。

アイツはそれを見て笑う。

それを見て、俺も笑う。

この時間が1番幸せだったと気付いたのは

もっとみる
『バナナに教えられたこと』ショートショート

『バナナに教えられたこと』ショートショート

「テレビを見た」
Bは興奮しながら言った。
「何言ってるんだ?テレビはもう違法になっただろ」
「A、本当なんだよ、そこのカフェにあったんだよ」

現実と幻想を混沌させるとして、テレビを見ることを禁じられてから20年。
テレビが世に出回る事はなくなり、放送局も解体した。

「じゃあ、どんな番組がやっていたんだよ」
「料理番組だ、それも古いやつだ」
「録画していたものか?」
「多分、そうだ」

話を聞

もっとみる
『君に贈る火星の』ショートショート

『君に贈る火星の』ショートショート

道端に一冊のノートが落ちていた。
S子はそのノートを拾い、なんとなくページをめくった。

真ん中辺りのページに
”君に贈る火星の”
と書かれていて、その後が黒く塗り潰されていた。

(火星の何?)
それが気になって仕方がない。
他のページを見てみるが、何も書かれていない。

(君に贈る火星の…石とか?それとも大気?)
色々と考えたが答えは分からない。

(あぁ!気になって気になって眠れない!)
S

もっとみる
『失恋ATM』ショートショート

『失恋ATM』ショートショート

藍色の通帳を手にATMへ向かった。
”御用件を選択してください”
預ける
”失恋の日にちを入力してください”
2021/11/3
”ご利用ありがとうございました”
(意外と簡単なんだな)

ATMを離れてから、気づいた。
「あれ、心が晴れている感じがする」
傷心が失くなっている。

これがこのATMのサービスだった。

あれから一年が経った。
私のもとにATMの会社から封筒が届いた。
中には書類が

もっとみる
『神様カフェ』ショートショート

『神様カフェ』ショートショート

A太は路地裏に一軒の古びた喫茶店を見かけた。

(なんだか、入らずにはいられない)
そう思い、すぐに扉に手をかけた。

中に入ると、白い長髪を後ろに束ねた老紳士が座っていた。
どうやら彼がマスターの様だ。

「いらっしゃいませ」
気品があり、柔らかい声だ。

「ホット一つ」
「かしこまりました」
自分の他に客はいない。

しばらくして、コーヒーが目の前に運ばれた。
一口啜った。
他の喫茶店とは比べ

もっとみる