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『神様カフェ』ショートショート

A太は路地裏に一軒の古びた喫茶店を見かけた。

(なんだか、入らずにはいられない)
そう思い、すぐに扉に手をかけた。

中に入ると、白い長髪を後ろに束ねた老紳士が座っていた。
どうやら彼がマスターの様だ。

「いらっしゃいませ」
気品があり、柔らかい声だ。

「ホット一つ」
「かしこまりました」
自分の他に客はいない。

しばらくして、コーヒーが目の前に運ばれた。
一口啜った。
他の喫茶店とは比べ物にならないぐらい美味しい。
「うまい」

「ありがとうございます」
「あの、いつからやっているんですか?」
「そうですね、かなり昔で忘れてしまいました」
(忘れるほど、古いのか)
「この辺だと、駅からも離れていて、お客さんとか来ないんじゃないですか?」
「昔は多くの方に来て頂いていたのですが、今ではすっかり」
その後も少し会話をして、喫茶店を後にした。

数日後、またあのコーヒーが飲みたくなり、路地裏に向かった。
しかし、そこに喫茶店はなく、小さい神社だけが建っていた。


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