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『例え話』ショートショート

地球に一機の宇宙船が降り立った。
人々は恐怖心と共に、それ以上の好奇心を持ちながら、宇宙船から出てくるであろう生物を今か今かと待っていた。


宇宙船の扉が上へと開き、見るからに宇宙人といった形状の生き物が二人出てきた。
地球人を代表して、大学で宇宙学を研究する教授が接触を試みた。


「どうも、遠路はるばるご足労いただきましてご苦労様です、私たちはあなた方を歓迎いたします」
何を考えているか分からない宇宙人を怒らせてはならぬと、教授は下手に出た。

「我々ハ、惑星ノ調査ノタメニ地球へ立チ寄ッタ、ツイデニ地球人ニ土産ヲ持ッテキタ、我々ノ高度ナ文明ノ利器デアル」


教授はそれを聞き、地球では考えられないような発明品が出てくると思うと、興奮した。
しかし、宇宙人は一向に土産品を出そうとしない。
何か慌てている様子だ。
「スマナイ、ソノ土産品ヲ忘レテシマッタ、星ニ取リニ戻ル、地球ニ戻ルマデハ100年グライシカカカラナイノデ、待ッテイテホシイ、デハ」
教授は耳を疑い、呆然とした。

「とここまでが私が最近読んだ話でね、先生」
短髪の男は白衣を着た男性にそう言った。
「つまり、何が言いたいんですか」
白衣の男性はあきれた顔で尋ねた。
「えっと、つまりね」
ばつが悪そうだ。
「つまり、息子を忘れてきてしまったんです」
白衣の男性は顔を左手で押さえ、ため息を漏らした。
白衣の男性の首から下げられたネームプレートには「小児科医」と書かれている。


園ひさや

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