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男と女の呪縛『Red』by島本理生

映画化される「ファーストラヴ」を昨年読んで、大ファンになった島本理生先生。

私は映画も好きなので、ファーストラヴも映像化されるんだけどそれ以前に映画化された「Red」も気になっていたので、とりあえず小説を読んでみることに。

一度読み始めたら止まらなくなってしまい、気が付いたら読み終えると朝4時になってしまっていた。

そのくらい引き込まれた作品「Red」をぜひ読んでほしくて、noteに書き綴る次第。

※多少のネタバレを含みます

1.ただの不倫恋愛ストーリーではなかった件

元バリキャリで今は専業主婦で1児の母の塔子が、友人の結婚式で偶然出会った実業家鞍田と禁断の恋に溺れていくストーリー。

こう書くと安っぽい昼ドラにしか見えない、ただの主婦の願望を詰めた陳腐な恋愛小説に思えてしまう。

私も最初は渡辺淳一の愛の流刑地の女性バージョンかなぁ?くらいな気持ちで手に取った。

いや、渡辺淳一の愛の流刑地もあれはあれで耽美小説で素晴らしいんだけどね!

実際読んでみると、思った不倫恋愛小説とは違うな?という事が解る。

そこには、社会の中でこうあるべきものだ!と決めつける、男女の呪縛のストーリーが書かれていた。

一度は言われたことがあるであろう、呪縛の言葉。

「普通は」

「女なんだから」

「男なんだから」

社会の負の呪縛が、これでもかというほど散りばめられているストーリーだった。

年始最初に読む本としては、とても明るい気分で読める本ではなかったけれど、誰しも経験した事がある共感できるストーリーである。

そりゃ売れるし映画化されるわこれは…と同意せざるを得ない。

私にとっては、とても心に響く小説だったのである。

2.ネガティブヒロイン塔子

まず小説にとって、ヒロインのキャラクター設定はとても大事なものである。

どれくらい共感できるか、読者に愛されるかっていうのがヒロインにとって大事な要素。

よく少女漫画などの主人公にありがちなのは、ちょっと天然ででも前向きで優しくてみたいなタイプが多い。

または容姿は大した事なくて、モブキャラなのになぜか乙女ゲーの様に周囲のイケメンに愛されるタイプとかだったりする。

しかし今回のヒロインの塔子に関しては、ひたすら暗い。

以下、箇条書きにしてみよう。

・自己肯定感がとにかく低く自分に自信がない

・片親で母親ともうまく付き合う事ができない

・容姿がよく明るい友人と自分を常に比べて嫉妬してしまう

・いつも自分さえ我慢すればと自分の気持ちを押し込める

など、ネガティブ要素を書き始めたらキリがないほどの、陰キャ寄りのヒロインだ。

しかし、この女実はとんでもない悪女である。

全てを飲み込んで男性に従い、甲斐甲斐しく尽くすが突如興味を失い男性に別れを突き付けるという事を繰り返していた模様。

地味で派手じゃない容姿とは裏腹に、男性経験は豊富な隠れ清楚系ビッチ。

そういうのを含めて、塔子かわいい塔子…と最後まで塔子の幸せを読者は願ってしまうというスーパーヒロインだった。

美人や容姿に恵まれてる人って自信にあふれてて明るいっていうイメージが強いけど、実際に出会った人で生い立ちが複雑だったり結構過酷な経験をしていたりする人は、塔子の様な女性になる場合も多いのはとても共感してしまう。

ちなみに映画版は夏帆さんが演じてる、うんピッタリすぎる。

3.スパダリ系おじさん鞍田

え、どこにこんなスパダリ落ちてる?っていう塔子の不倫相手というか運命の人?の鞍田さん。

若い頃にベンチャーで会社の立ち上げ、金も持ってて別荘も持ってるまさにスパダリ系おじさんだ。

当時バイトで来ていた、高校生の塔子に手を出すくらいのクズではあるのだけれど…いや、犯罪者じゃん。

当時は妻がいて、いわば塔子は愛人で妻と別れる事がない鞍田を塔子が見切って別れた過去がある。

でも鞍田はどうしても塔子が忘れられなくて、塔子との友人の結婚式に紛れ込む。

そこで塔子の結婚する友人とは別の友人に気のあるそぶりを見せ、塔子と飲むきっかけを作らせる計算高さを発揮する。

鞍田さん、策士またはストーカーかな?って思うほどに狡猾だ。

手慣れた手段で塔子をバーにおびき出し、トイレにいく塔子を尾行しトイレで塔子と事に及ぶというもはやデートレ●プですか?と突っ込みたくなるんだけど、いかんせん強引なスパダリ系おじさん嫌いじゃない。

それ以降は塔子の為を思って仕事を紹介したり、傷ついた塔子を心配してデートしたり、めっちゃ床上手だったりするという、いや…本当にこんなスパダリいますか?どこに???

とりあえず優しいし、大人の余裕があり…陰があるイケメン。

こんな男性と出会いたい人生だった…と読者が思ってしまう。

塔子の旦那にヘイトが向けば向くほど、このスパダリが神に見えてくるんだよなぁ…

映画版では妻夫木聡だけど、ちょっと若すぎた。

私の脳内では、安藤政信あたりがちょうどいいって思う。

4.軽薄だけど人間観察の鋭いチャラ男の小鷹さん

この物語の中での私の一番の推し、小鷹さん。

端正な顔立ちの割と王子っぽい外見で、仕事できるけど常に女が途切れず、キャバクラ大好きの遊び人。

同僚として働き始めた塔子に、いきなり飲みに誘ったりいきなりキスしたり、と思わせておいて冷たくして自己肯定力の低い塔子のメンタルをズタズタにするドSっぷり。

社内で塔子と鞍田の関係に気づくのは、人間観察が鋭く勘がいい彼だけである。

塔子に関係を迫っても、結局ヤレないかませ犬的な立場だけど、女心を熟知していて塔子のよき理解者でもある。

彼の一言一言のセリフが、グサグサと塔子と読者に突き刺さります。

塔子と旦那がクリスマスに一緒にいるところに居合わせて、塔子ちゃんと堂々と名前で呼んで旦那を激怒させたりと、こいつもなかなかの策士。

塔子をおまえって呼んだり、頭をなでたりと本当に危険な男臭がぷんぷんする。

Redここまでくると、これは乙女げーでは?と思えてきてしまうそんな小鷹さんです。

映画だと小鷹さんは柄本佑さん…うーん、ちょっとイメージが違うけど演技うまいしありのありかもしれない。

5.ボンクラ童貞旦那でヘイト役の真くん

そう、この物語の一番のヘイト役は彼…塔子の旦那である真。

地主の息子のおぼっちゃまで実家から出たこともないし、両親名義の家で塔子と一人娘の翠を育てている。

全て両親のいいなりでとてもマザコン、そして何よりもDVする父親を恐れて生活していて自立できていない。

よくTwitterとかのネットで見る、女性のイメージが凝り固まっている童貞にしか見えない彼。

育児は女のするものだ、仕事は男のするものだ、母親がこうあるべきだ…という一番男の呪縛に縛り付けられている可哀想な男である。

彼の一言一言がデリカシーがない、そして壊滅的に空気が読めない、相手の気持ちも解ろうとしないし、大切なはずの娘の面倒さえみれない。

彼が情けなければ情けないほどに、読者が彼に向けるヘイトは半端なくあがっていくのだ。

そして塔子に同情して、こんなクソ旦那捨ててしまえばいいのに、と心から思うのである。

でも金も持っててなんだかんだ塔子の事は大好きだけど、セックスが下手だし相手の気持ちよさとかより自分の気持ちよさ優先だしで、おまけにセックスレスの癖に子供ほしいよねーとのたまう無神経さったらない。

ただやっぱり心から塔子を大好きで大切に思っているけれど、それが親の呪縛と男の呪縛のせいで上手く伝わらない、不器用な可愛さがあるところが塔子が見放せないところなんだろうなぁ…

映画だと間宮祥太郎さん…間宮くん好きだからなさけない真くんやるの想像できないけど、確かにイケメン設定だしいいのかもしれない。

6.ありがちなストーリーなのに引き込まれる文章力

ファーストラヴも読んだんだけど、島本せんせいの読む人を引き込む文書力がすごい。

とても読みやすいし細かい人の心情とか情景とか、塔子が出張先でいく場所や塔子と鞍田がいく旅行先とか、読んでてその景色が目の前に浮かんでくる文章だった。

個人的にはベッドシーンとかそういうところは、ちょっとさらっとしすぎてる感はあるかなぁ?と感じたけれど、きっと私がBL小説とかTL小説とか官能小説とか読んでたせいかもしれないw

実際に島本先生が結婚していらしてお子さんもいらっしゃるので、塔子の母としての心情とか一人娘の翠のかわいい仕草とかは、島本先生の実体験なんだろうなぁって想像したりもする。

分厚い小説で躊躇するけれど本当にすらすらと読めてしまうので、一度このnoteで興味を持ったならぜひ手に取って欲しい小説です。

また本読んだら、感想を載せていこうと思います!

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