因縁の対決 g
その日はいつもより早く目が覚めた。井上と決着をつける日が訪れた。夏本番の暑さが続いていた。いつも通り都賀駅で乗り換えモノレールに乗るとのジャージを着た多くの選手達がいた。
付き添いはいつも通り江戸っ子(宮本智・2年)だ。2年の春からずっと一緒だった。この頃になると何も言わなくても手を出せば欲しいものが渡された。たまに違うが、、、頼もしい相棒だ。
大堀聡
この日、大堀と一緒にウォーミングアップをする事はなかった。大堀は400mに出場していた。彼も国体を目指していた。
予選
この大会は準決勝がない。春と比べ参加人数が少ない為だ。その春から3ヶ月経過したがスタートダッシュは怖いままだった。どうしても『そぅっと』スタートしてしまう。予選をどれくらいで走ったのだろう。覚えていない。ただ、スタートの恐怖感だけは覚えている。
決戦
予選を通過してこの日はサブトラではなく、スタンド下の室内練習場で準備した。不安を払拭する為、何度も走ったのだろう。召集直前に右足が痙攣した。血の気がひいていくのを感じた。いつも決勝前にお願いしていた、けつ入れ(とっつぁんの必殺技みたいなもの)は断った。気持ちの整理がつかないままスタートラインにたった。
決着
その景色は春とまったく違っていた。誰の視線も感じない。あの日あった『圧勝』という気持ちもなく足の不安を悟られないよう必死だった。スタートはいつも通り出遅れた。
半分を過ぎても井上は前にいた。差はなかなか縮まらない。
80mを過ぎて、85mを過ぎても井上は前にいた。
残り10m、内腿が吊った。
少しガニ股気味になりながら、脚が動くがまま必死に追いかけた。
〝捕らえた〟
ゴールした瞬間、勝った事はわかった。ただ、あの日イメージしていた圧勝ではなく、泥くさい僅差での勝利だった。井上も必死だったに違いない。インターハイのファイナリストとして彼らと走りたかったに決まっている。江戸っ子が駆け寄ってきた「やったじゃーん」
全身の力が抜けた。
そして、とっつぁんと握手をした。
国体だ。
ー 続 ー