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【超短編小説】恋をしている話。2

チョコレートの味は、普通だった。
2粒で1180円だから高級だと思う。
ショコラティエのサインも入っていた。
サイン入ってる、と笑いながら、好きな人に食べて欲しかった。

好きな人には、まだ会えていない。
彼は他に抱いてる子がいるのだろうか。
ストレスをためてないだろうか。
疲れていないだろうか。
寒くないだろうか。
悲しくないだろうか。

…そんなことばかり考えて、アプリをスワイプして、何度も彼をみつける。
彼の自己紹介欄には「彼女募集中」と書かれている。
彼女になるには、どうしたらいいのだろうか。
応募要綱を、提示してほしい。

やっぱり年齢20代、おしゃれで、可愛くて、声も可愛くて連れて歩きたくなるような子、なのだろう。
困ったな、応募もできやしない。

私はどうしたいのか、私に問うが、
答えなど出るはずもない。
友達は「彼女にしてって言えば?手料理をふるまえば?」など的外れな意見しか言ってこない。
やれるスキがありゃやってるよ。

虚しい日々だ、何もかも。
君がいない日々は本当に虚しい。
大口の契約も
優しいお客様も
ときめくドラマも
面白い漫画も
興奮する映画も
おちゃらけた先輩も
当たり前に振り込まれる給料も
ダメ恋愛を笑ってくれる友達も
異国からわざわざ連絡してくる幼馴染も
心配してくる両親も親族も
全部、君の笑顔の前には霞んで、
君がいないことで、私の心は空虚になる。

「また、私じゃダメなんだ」

そんな思考に呑まれていく。
また、私じゃない、
若くてかわいい子と結婚していくんだ。
良かったね、お幸せに。
そんなお見送りをもう何度しただろう。

「私以外の何かにならなければ」と、
スカートを履いて髪を伸ばし、髪を巻き、ヒールを履いた。

なんだかずっと辛かった。似合っていないし、落ち着かない。
そういう恰好をしていることで、職場の飲み会では
おじさんたちにたくさん触られた。
酔っぱらって悪気のない、セクハラって言われると腫物に触るように面倒くさそうな対応をしてくる、おじさん。
知らないうちに腰に手を回してくる、同業他社。

ずっと、こんな会社にいる。
年を取って、もう飲み会に行くのも拒否して、
コロナになって付き合い飲みも減り、
本当に良い社会にさえなってきた気がする。

そんな中、君と出会った。
タバコも吸わない、お酒もそんなに飲めない。
笑顔が可愛くて
「会社の人に○○って言われた」というと
「そんなこと言われるの!?ひどいね」と
真っ当な感性を見せてくれる君。
犬が好きな君。
優しく抱いてくれる君。
命令しない君。
一緒にベッドにいる時は天井ばかりを見てる君。

もう会えないのだろうか。

君と約束をしても
きっと当日にドタキャンされるだろうとか
きっと当日LINEをブロックされるだろうとか
きっと当日ずっとLINEが未読だろうとか

そういう事象を懸念して、頭が重いんだけど。

「あの子といても、精神的に疲れてるだけだね」
って、幼馴染がいう。

そうなの、疲れる。 虚しい。

だけど、やはり、恋をしている。

愛してるつもりで。


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