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「越境学習」すると何が起きるの?なぜ注目されるのか、そのメリットを解説!


近年、注目を集めている「越境学習」をご存じでしょうか。越境学習は普段の勤務先から離れ、環境を変化させることによって学びを深める行為です。この記事では、越境学習が注目されている背景や、メリットについて解説します。

越境学習とは

越境学習とは、普段働いている会社や職場、または部署から離れて、一定期間違う環境で働くことです。他社留学や社外留学といった表現も存在します。

具体的には、ワークショップに参加したり、ビジネススクールや社会人大学院に通ったり、ボランティア活動に参加することが挙げられます。分かりやすく言えば、所属している企業や組織から一定期間離れ、越境先で得た新しい経験や体験を企業や業務に還元することです。もし、元々所属していた企業や組織に戻らなければ、それは転職となります。転職先で活躍できないという事は、過去に越境学習ができなかったとも言い換えられます。

いつもの居場所と新しい環境を比較することで、自分の知識やスキルへの評価が変わったり、物事を見る視点が変わって自分に足りない部分が見えてきたりします。越境学習を行うことで、同じ環境に留まるだけでは気づけない視点や見えてこない問題点が明確になり、新しい学びへとつながっていくでしょう。

いま越境学習が注目されている背景

環境を変えることで新しい学びを得ることに期待ができる越境学習ですが、なぜ現代社会における企業に必要視されているのでしょうか。ここでは、越境学習が昨今のビジネスシーンで注目されている背景について解説します。

VUCA時代で活躍する社員の育成とイノベーション

現代社会では「VUCAの時代」と呼ばれ、世界は急速に変化し、不確実な状況で満ちています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、ビジネスにおいて明日の予測が難しい状況を指しています。技術や能力だけでは対処できない課題が増えており、不安定な状況に置かれる企業も多くなっています。
 
そのような中で、外部の専門家やコンサルタントに助けを求めて問題を解決するケースが増えています。しかし、外部に依頼できるのは主に技術的な対処です。もしも組織の能力や視点を根本的に変えたい場合は、従業員の育成が不可欠な要素になってきます。自分の元々の特性を保ちながら、境界を越える"体験"だけではなく、境界を越えた先で一人で成果を上げることが境界学習です。
 
越境学習を行えば、在籍している企業の強みや弱みを客観的に実感できるようになります。他の組織で成果を上げることにより、双方の境界にある共通要素を身をもって体感できます。一定期間、別の場所に身を置くことで得られるのは体感的な学習です。越境学習によって得た経験や学びを自社に取り入れることで、イノベーションにも期待ができるでしょう。越境先で新たな学びを得た人材が増えることで、これまでになかったアイデアが生まれやすくなるのです。

従業員のキャリアを進め自律を保持するため

組織にとっても、従業員自身のキャリアにとっても、越境学習は重要です。普段と違う環境で経験を積むことにより、自身の強みや本当にやりたいことが見えてきます。ただ耳で聞くだけでなく、感性をフルに活かして実際の経験として学ぶことで、従来の感覚が変わることが実感できるでしょう。
一度転職してから元の企業に戻ることでも同様の効果が得られます。終身雇用制が崩れつつある今日、従業員は自らのキャリアを自己育成する必要があります。会社内で学べることや経験できることに限界がある場合、越境学習によって自身のスキルや価値観の範囲を広げることはキャリア自律のために有効です。
 
越境学習とは、異なる組織や部署から離れて、新しい環境で学びを得ることですが、その範囲は広く、広義では就労場所を変える場合や、異業界での転職のようなケースも越境に含まれます。つまり、小さな変化から始めることも行えるということです。文部科学省の取り組みでは、将来の就職促進のため、高校生が地域の企業でインターンシップに参加しています。また、年齢は越境学習に挑戦する際に関係ありません。現代社会では少子高齢化が進んでおり、人材採用が困難な状況もあります。そのため、中高年こそ学びを深めて一層活躍できるようサポートするべきなのです。

社内で越境学習を推進するメリット

越境学習の重要性が注目される中、会社単位で越境学習を進めている企業も増えています。越境学習を促進するためには一定のコストがかかりますが、それでも企業が越境学習を進め、どのようなメリットを享受しようとしているのでしょうか。考えられる利点を3つ紹介します。

イノベーションとコラボレーションの創出

まずは、イノベーションの創出です。多くの企業では、長い間続いてきた慣習や既存の考え方が存在しますが、越境学習を導入することで社員たちは新しい視点を得ることができます。これによって、新しいアイデアや製品の創出がしやすくなり、イノベーション促進の可能性が高まります。越境学習によって新しいサービスやこれまでにない商品のアイデアが生み出されるかもしれません。
 
また、越境学習は具体的な協力関係の構築にも役立ちます。越境学習を通じて、提携や資本提携などの可能性も考えられるでしょう。ただし、越境学習の際には、越境者が従業員の立場で学ぶことが重要です。そうでない場合、学習やイノベーション、協力の創出が難しくなることに留意しましょう。

従業員のキャリアの確立

次に挙げられるのは、従業員のキャリア自律です。越境学習によって、自分の長所が明確になることで将来のビジョンもはっきりしてきます。自分自身に責任を持ち、前向きな姿勢でスキルアップを目指すことができるようになるでしょう。このような人材は、企業にとって将来のリーダー候補となります。越境学習は、長期的に見て組織を強化しながら会社の可能性を広げることにつながります。
 
越境学習においては、通常の環境や組織から離れ、一時的に頼ることができない状況に直面することも多々あります。そこから、自己を見つめ直すチャンスが生まれます。自分のスキルや興味、過去の経験などを振り返り、考えることが求められるのです。同じ組織に所属し続けると、こういった自己評価や自分について考える機会が得られない場合があります。

組織や集団の枠が広がる

最後は組織や集団の枠の拡大です。境界を越える人々の増加によって、転職者の多い組織と似たような状態になります。多様なバックボーンを持った従業員が集まることで新しいアイデアが増え、問題解決の選択肢も増えていくでしょう。
企業に所属し、熟練するプロセスは必要ですが、これはルールが一定という条件が満たされている場合にのみ成り立ちます。ルールや枠組みが変更されると、過去の経験は役に立たなくなります。さらに、ルール変更が頻繁に行われると、熟達のプロセスは中断され、最初の段階に戻ってしまいます。垂直的な熟達の学習が効果的な人材育成に結びつくには、長期間にわたって獲得した経験を持続的に活用できる安定した環境が求められます。
 
一方、越境学習は水平的で探索的な性質を持ちます。変化の激しい環境では、垂直的な学習に固執することはむしろ新たな状況への適応を妨げることになります。そのため、新たな枠組みを探っていくための動きとして、水平的な学習が重要な位置づけをされているのです。
組織という形態を取ることはそもそも安定を目的としているため、所属している社員は同質的になり、風土や文化に染まることは自明の理です。
また、企業が価値を生み出すためには多様性が必要ですが、これは計画的に実現できるものではありません。しかし、越境学習は計画的ではないにも関わらず、具体的でインパクトのあるアプローチであることは間違いありません。

まとめ

明日が不透明な現代のビジネス環境の中を舵取りするには、技術や能力だけでは対処できない課題を乗り越えなければなりません。そのために組織の能力や視点を根本的に変えなければならない場合もあるでしょう。そういったケースでは、従業員の育成が不可欠な要素になってきます。そこで効果的なのが越境学習というアプローチです。
 
越境学習は、普段勤務している会社や職場、または部署から離れて一定期間異なる環境で働くことです。組織にとっては、多様性を広げるきっかけとなり、イノベーションを促進する効果があります。また、従業員にとっては、自分自身を客観的に見つめ直し、キャリアを考え直す機会となるでしょう。
 
今回は越境学習の良い面を見てきましたが、Eラーニングなどと比べると一人当たりのコストがかかり、自社にとって安定的なパフォーマンスは約束されていないため、学習期間にはそのコストだけがかさんでしまう場合もあります。
次回は、越境学習を進める際のプロセスと効果を最大限に活かすポイント、そして越境者が抱える葛藤について整理し、具体的な手法についても解説します。

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