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困ってないと支援ができない?-「区切らない」から出会える若者がいる。貸切本屋プロジェクト活動報告

育て上げネットで広報を担当する山崎です。
12月24日、クリスマスイブに行われた「貸切本屋プロジェクト」が無事終了しました。多くの方に協力をいただき、本企画が実施できたこと御礼申し上げます。

本稿では、この企画を振り返り、形にするに至った経緯や得られた成果、これからのことについて書きたいと思います。

■貸切本屋プロジェクトができるまで

振り返ると、発端は新型コロナの流行前、2020年のことでした。私たちは長野県にあるバリューブックスと連携して東京・立川で本の配布企画をスタートしていました。

地域のなかで育て上げネットのことをもっと知ってもらいたい。
これまで15年も若者支援を行ってきたのに、地元であまりに知られていない・・・そんな反省もありながら、地域でできることを模索していました。

イベントや公園を借りて本を並べていると、子連れ家族やたまたま散歩していた方が立ち止まって本を手に取っていく。本にはそんな不思議な魔法があることを知りました。

若者支援には常につきいまとう課題があります。それは私たちのことを知ってもらい、信頼してもらうこと。団体内では「出会う」「つながる」と表現をします。

本を通した「出会い」と「つながり」には、普段、私たちが若者と出会う体験とはずいぶんと違う印象です。それはとても自然で、ハードルを感じないフラットなものでした。

「これは次につながるかもしれない」
そんなことを考えていた矢先、新型コロナが流行して人と人とが出会う機会そのものが失われてしまいました。ワクチンや個々の対策ができるようになって社会が動き出そうとしていた昨年7月、ありがたいことにお声がけいただいたのです。

7月訪問のとき撮影、温かく迎え入れてくださった

バリューブックスには、チャリボン(キフボン)であったり仕事体験の機会提供などさまざまな場面でサポートをしてもらっています。そんななかで、新しい形の連携提案が今回の貸切本屋プロジェクトにつながります。

■三方良しの新しい形のファンドレイズ

私たちは長野のバリューブックスに訪問することにしました。
「対面」をご提案することは、対人支援の現場ではリスクもあって難しかったのですが、感染状況も落ち着いた頃合いで、久しぶりにリアルでお会いしたいと思ったのです。

ご提案いただいたのは企業とNPOの新しい連携方法でした。
バリューブックスのチャリボンというプログラムは、書籍などの買取金額を指定団体の寄付にすることができる仕組みです。読み終わった本やゲームなどを整理しながらNPOをサポートできるもので、育て上げネットに限らず多様なジャンルの非営利団体が利用しています。

ただ、今回ご提案をいただいたのは、まったく別の手法でした。
テーマに挙がったのは「広告費」
バリューブックスはGoogleやYahooなど、オンライン上のさまざまな場で広告を掲出されていますが、この広告費を単にお客様とのつながりを作るためでなく、より社会のために利用することはできないかと考えておられたのです。

チャリボンでは買取金が寄付としてNPOに送金されますが、今回の企画では買取金をユーザー自身が受け取ることができます。代わりにNPOが受け取るのは「そのユーザーをつなぐためにかかる予定だった広告費」です。

ユーザーは買取をすることで整理ができて買取金額を受け取れる。
バリューブックスは新しくつながりができる。
育て上げネットも実現できていなかったサポートができる

私は誰も損をすることが無い素晴らしい仕組みだと思いました。

たくさんの方に買取体験をしていただくことが、私たちの活動につながる。そういう意味ではクラウドファンディングに近いスキームです。

ただ、一般的な寄付型のクラウドファンディングでは市場価値がつく返礼品がつくことはありません。ユーザー自身は通常の買取と同じく買取金を受け取ることができ、一方的に支出をする…ということもないのが大きく異なるのです。

11月、貸切本屋プロジェクトは目標を500件としてスタート。
結果的には572件の方からご支援をいただくことができました。

正直、500件というのはかなり頑張らないといけない・・・と覚悟していたのですが、SNSの反応をみていると取組そのものを評価してくださる声が毎日のように挙がってきてモチベーションは高まっていく一方でした。

これは推測の域を出ませんが「寄付」でなかったことも参加するハードルを下げた要因かもしれません。今まで通りの流れで社会に良いことができる、そんな気軽さも魅力に映ったのでしょうか。

■想定以上の結果に確信

目標件数も達成して、貸切本屋「ブックバス」プロジェクトは12月24日に無事実施できました。プレスリリースをみた東京新聞さんが記事にしてくださったこともあってたくさんの方にお越しいただきました。

当日朝・多くの方が来所

当日朝、まさかのブックバスのエンジンが動かないトラブルが発生。
開始時刻に間に合わなかったのですが、予定を変更して事務所の前に書籍を並べ、さながら露店のような状態でご利用いただきました。

なかには買取特典のトートバッグを持って遊びに来てくださった方もいらっしゃいました。ブックバスが到着しておらず申し訳ない気持ちもありましたが、こうして支援してくださった方とのつながりが見えるのは対面できるオフラインの活動ならではです。

実際にどれくらいの方が利用されたのかははっきりと記録できていません。トラブルがあってバタついたこともありましたが、それ以上に朝一番の盛況で現場をまとめるのに精いっぱいになっていました。
すくなくとも50組以上の方がご利用いただいたと認識しています。

特に人気だったのは絵本や児童書でした。小学校低学年くらいまでのお子さんを連れた方が多く、子ども向けの本はみるみる減っていきました。もちろん、文芸書や大人向けの本も順調に次の行き先を見つけていきます。
意外だったのは園芸など趣味の本が人気だったことでした。1台の机にまとめて置いてあったシリーズは、気付いたころにはスッキリとなくなっていました。

その他、事前の打ち合わせで伝えていた「往年の名作コミック」や「映画、ドラマ化した作品」はその場で話題にできてコミュニケーションのきっかけにもなっていました。

車内に並ぶと「貸切本屋」らしく映える
バスに落書き——そんなプレゼント

午後にはブックバスも到着。バスのなかでの営業を始めることができました。クリスマスイブということもあって日が経つほどお客さんの出入りは減っていきましたが、車内でじっくりと本を選ぶ方やチョークでバスに落書する子どもたちは楽しそうに時間を過ごしてくれたと思っています。

2000冊ほどあった書籍は最終的に70%程度が行き渡り、残った書籍は育て上げネットで管理しています。

■「困っている」で区切らない取り組み

今回の仕組みを通じて貸切本屋プロジェクトの実施を選んだのは、2つ理由があります。

ひとつは前述したように、これまで実施してきた本の配布企画で手ごたえを感じていたこと。コロナ禍で中断してしまった企画をもう一度復活させたい想いがありました。

自然と人が集う場所

もうひとつは今までにない「出会う」「つながる」を実現するためです。
今回のブックバス企画が成功だったと考えるひとつは、お越しいただいた方のなかに「はじめまして」の方が多かったということです。
もちろん、普段からプログラムを利用されている方も来ましたが、チラシや新聞をみてきたと答える方が大半でした。

若者支援を通じて出会う若者は、どうしても「困っている」ことが条件に含まれています。ひきこもり状態にある、不登校を経験した、ひとり親家庭だ・・・と挙げればきりがないですが、何かしらに「困っている」ことが出発点になります。

「困っている」でスタートすると課題がいくつかあります。まず本人が困っている意識が無ければ支援の枠組みに入ることはありません。
そして自覚的であったとしても「支援する/される」という上下関係がどうしても生まれます。自分から上下関係の下側を選ぶ人はそう多くないでしょう。

貸切本屋プロジェクトは大前提として利用される方を制限していません。メディアやチラシには「子ども・若者向けの本」と書きますが、それにあてはまらない方の利用を止めることはありません。

もしかすると、これを読んで「私は困っている人を支えたいのに、困ってない人に利益が出るじゃないか」と考える方もおられると思います。それはその通りです。厳密に「ひきこもり・不登校経験のある方」と対象者を絞れば、「困っている人」にだけ届けることもできます。

しかし、対象を絞るというのは、前に書いたように「困っている」ことを表明することに他なりません。

一般的なサービスなら有効活用できることもたくさんあります。「高所得である」「紹介制である」「一見さんお断り」のようなクローズであることが社会的地位の誇示や魅力につながるからでしょう。

ただ、私たちのような活動領域では「あそこにいるのはひきこもりだ」「学校に行けてない子が行く場所」と周りからみられます。
そんな場所に行きたいと思うでしょうか。ただでさえ今の自分に自信がないのに、さらに自身の評価を下げたいと考える方は少ないでしょう。

制限のない、誰であっても利用できるフラットな場であれば、そんなレッテルやスティグマは生まれません。「困っている」人がそれを表現しなくても利用できることが重要な舞台設定なのです。

■これからの貸切本屋プロジェクト

「困っている」と表明しなくてもいい。そんな場を提供することができれば、たくさんの人と出会い、つながることができる。私たち支援者にとって、この仮説がたったことは私たちにとって大きな進展でした。

専門用語でアウトリーチと言いますが、接点作りは支援において難しいもので、世界中が模索しています。「困っている」で区切らない貸切本屋プロジェクトが、これからのアウトリーチ施策が前進する萌芽だと私たちは捉えています。

嬉しい誤算ですが、インパクトのあるブックバスが無かったとしても、お客さんは来てくれて、好きなように利用してくれるということがわかりました。これからも継続して提供していくためにも、コスト面のことも踏まえた企画を実行してまいります。

お願い:貸切本屋を継続していくために・・・

本企画は書籍調達を中心に少なからず費用が発生しています。
今後の企画継続のためにも育て上げネットをご支援いただけましたら幸いです。

(1)チャリボンに参加する
買取金額が寄付になるチャリボンは常時利用いただけます。育て上げネットを支援先に指定していただき、ご活用ください。
お申し込みはこちら

(2)直接のご寄付
育て上げネットはみなさまからのご寄付を受け付けております。貸切本屋プロジェクトをはじめ、子ども・若者を支える事業に活用させていただきます。
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育て上げネットは認定NPO法人です。いただいたご寄付は税額控除の対象となり、確定申告を行っていただくことで所得税等の還付を受けることができます。

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