月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第8回 日本政府の財政(1)

月刊「まなぶ」(労働大学出版センター)2023年8月号所収

膨大な政府債務

 2023年3月末での日本の政府債務は1270兆4990億円にまで膨らみました。これはGDPの2倍を超過し、たいへん深刻な問題だと言われています。次世代にツケを残し、世代間不公平を生むと批判する見方もあります。では、政府の債務問題がどのような意味で深刻なのでしょうか。
 そのことを考える上で、留意しなければいけないことがいくつかあります。第1は、「財政赤字」という言葉の持つ意味です。赤字というと、企業の赤字や家計の赤字をイメージしてしまいますが、政府財政の場合には、損益計算をして黒字、赤字としているわけではありません。財政赤字というのは資金の不足をさしています。企業の場合には、黒字であってもビジネスを拡大している時は資金不足になり、増資したり借入金を増やしたりするわけです。政府財政の場合は、損益ではなく、資金不足を赤字と表現しているのです。

 

政府のバランスシートは黒字

 第2は、政府には債務だけでなく資産もあるという点です。国だけでなく、地方自治体や社会保障基金も併せてみた一般政府という範囲でみると、資産から債務を差し引いた正味資産は、2021年末119兆円(国民経済計算年次推計)とされています。90年代に比べればはるかに少ない額ですが、債務超過に陥っているわけではありません。
 政府部門は民間企業と違って、主に収益を産むために資産を保有しているわけではありません。資産の構成(国民経済計算、21年末)を見ると、非金融資産811兆円、金融資産729兆円となっています。非金融資産では、ほとんどが固定資産(685兆円)と土地(115兆円)で、金融資産では、その他に分類されるものが342兆円あり、現金・預金96兆円、持分・投資信託受益証券188兆円(うち、株式73兆円)などとなっています。固定資産というのは公共インフラがほとんどです。一方、負債側は債務証券(国債や地方債)1183兆円、借入145兆円などで、これらの負債には利払いが生じますので巨額の債務をずっと放置しておくべきではないと言えます。
 また、90年代には500兆円近くあった正味資産が100兆円程度に減少したということは、この間に資産を形成しない債務が増えつづけたことを意味します。言い換えれば、過去の資産を食いつぶしながら財政運営がされてきたとも言えるのです。

国外から借金しているわけではない

 第3は、政府の債務は国内で資金が調達されており、基本的に国外に対して債務を負っているわけではないことです。政府・財務省は政府の債務を「国の債務」と表現しているので、多くの人が日本国の借金という漠然としたイメージを持ってしまうようです。
 日本国全体の外国との債権・債務関係(※1)を見ると、日本は外国に対して資産1338兆円、負債919兆円(差引419兆円)の対外純資産を保有しています。また外貨準備(※2)も162兆円に達しています。過去、債務問題で通貨が暴落し、経済が混乱した国は、外国からの借入金が多く、対外債務の方が対外資産よりもかなり多く、債務が返済できなくなった国々でした。最終的に外貨準備が枯渇して通貨暴落にもつながったのです。1980年代のブラジルやアルゼンチンなどの経済問題が象徴的です。
 現在の日本のように対外資産が非常に大きく、外貨準備も十分な国の場合、国全体として対外債務の支払いができなくなる可能性は非常に小さいと言えます。

世代間不公平は本当か

 第4は、世代間不公平は本当か、という問題です。政府の負債はいずれ返済しなければならなくなるので、後の世代がツケを残すことになるという議論です。
 これまで働いてきた世代は次世代にツケを残しているのでしょうか。第2点で指摘したように、政府財政だけをみればこの30年弱で30年程度働いてきた世代は、それまでの世代が積み上げた500兆円程度の政府資産のうち400兆円程度を使ってしまったと言えるかもしれません。しかし、国民経済全体ではどうでしょうか。
 設備や建物、インフラなどの生産資産(国民経済計算統合勘定)は同一基準の統計がある1994年末(1620兆円)から21年末(2161兆円)までに541兆円も増加しました。この増加した生産資産は21年までの27年間に働いてきた人々が増やしたものです。1994年までに働いていた世代は1620兆円の資産を我々に残してくれています。次の世代は、この生産資産を利用して日本経済を運営していくことができます。また、前節で見たように巨額の対外純資産を積み上げ、外国からの投資収益をもたらしています。もちろん、これらの恩恵を主に受けることができるのは資本の側であって、一般労働者への恩恵は小さいでしょう。そうした不公平は世代間の問題ではなく、じつは階級間の問題なのです。

欄外注))

※1 財務省『本邦対外資産負債残高』

※2 各国の通貨当局の管理下にある、直ちに利用可能な対外資産のこと。 通貨当局が急激な為替相場の変動を抑制するとき(為替介入)や、他国に対する外貨建債務の返済が困難になったときなどに用いられる

第1回 経済ってどんな意味?
第2回 おカネの正体(1)
第3回 おカネの正体(2)
第4回 経済の測り方(1)
第5回  経済の測り方(2)
第6回 経済成長とはなんだろう(1)
第7回 経済成長とはなんだろう(2)




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