月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第7回 経済成長とはなんだろう(2)

月刊「まなぶ」(労働大学出版センター)2023年7月号所収

「くたばれGNP」

 日本の高度成長期の終わり頃、GNP(国民総生産、GDPに外国からの純所得を加えたもの)以外に豊かさを測る指標はないのかとの疑問から、1970年に朝日新聞が「くたばれGNP」という連載を組みました。当時は経済成長を背景に労働組合も大幅な賃上げ要求を勝ち取り、一般的には労働者の生活も改善していましたが、一方で、公害問題など経済成長優先から生じてくる問題が深刻化していました。そこで、当時のGNPを増やして所得倍増を図るという政府の経済政策に対する批判が出てきたのです。
 たとえば、有害なガスの排出や河川や海の汚染といった公害が起きれば、多くの人たちの生活、とくに健康が損なわれます。しかし、GNPやGDPの計算には、これらの事象はマイナスの要素として入りません。温暖化による気候変動も人類には大きなマイナスなのに、計算には入りません。GNPやGDPが増えたからといって、こうしたマイナス要素が大きく増加して人々の生活に支障になったら元も子もありません。これらのマイナス要素を貨幣換算してGDPのマイナス要素としてGDPから差し引くという考え方もありますが、気候変動など地球環境問題の深刻化を貨幣換算するというのは無理があるでしょう。

中古市場

 インターネットの発達によって中古市場が広がっています。住宅や自動車などの中古市場は古くからありましたが、近年はインターネットのオークションサイトなどで中古品の個人売買が手軽にできるようになり、利用者も増えています。消費者から消費者へ、モノやサービスを販売する電子取引は2兆2121億円(※1)に増加しているとされます。
 中古品が売買されるだけならGDPは増加しません。住宅や自動車の場合、新しいものを買うために、これまで所有していたものを売るというケースがほとんどなので、GDPにはマイナスにならないと考えられます。一方で、不要で捨てる代わりに中古品を売却するという場合、買い手の方は必要なものを中古で買え、新品は買わないということになりますから、GDPにはマイナスになるかもしれません。そうであっても、必要なものが必要な人に渡るので、全体として人々の生活にはプラスだということができます。

シェアリングエコノミー

 カーシェアリングや民泊、家事代行、子守り、民家の空きスペースの駐車場の貸し出しなど、既存の施設や機器をフル活用するように、シェアして使うということを指してシェアリングエコノミーと呼ばれるようになりました。
 もともとそうした行動というのは小さなコミュニティーの中で自発的に行われるということはあったのですが、貨幣経済の中での金銭(対価)をともなう貸し借りとして発達しつつあります。また、駐車場運営会社のカーシェアのように、会員制で自社所有の乗用車を短時間から貸し出すというものもあります。この場合、これまで週に1~2回しか車を使わない人が、車は持たずにカーシェアを利用するようになると、車の販売は減ってGDPにはマイナスになります。しかし、必要な時に車が使える、無駄に車を所有しないで済むという観点に立てば、人々の生活にはマイナスにはならないのです。
民泊の場合は、空き家を活用するというだけでなく投資として保有されている家屋やアパートが貸し出されているケースが多いようです。これも従来の宿泊業にとってはマイナスですが、この場合、民泊の規模が把握できていれば、民泊もサービスの生産なのでGDPにはマイナスとはなりません。シェアリングエコノミー協会は2022年度の日本のシェアリングエコノミーの規模を2兆6158億円と推定しています。個人消費の規模からするとまだかなり小さい存在ですが、まだ発達の余地はあるでしょう。
 こうしたシェアリングエコノミーが成立できるようになったのはインターネットの発達によるマッチングの手法が発達、洗練されてきたからです。また、エネルギーなど資源の節約になる場合が多いという点で、環境保護の観点からもプラスの効果があると思われます。

循環型経済

 地球環境保護の観点から、循環型経済への移行という主張がされています。環境省は「循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、従来の3R(※2)の取組みに加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動」としています。前述の中古市場、シェアリングエコノミーも循環型経済の一部だと言えますが、環境省のいう循環型経済とは、付加価値を生み出す経済活動です。つまり、資本主義経済の中で、雇用を増やし、付加価値の増大させる=経済成長を目的とするものとして構想されているのです。彼らのいう循環型経済は、資本の利潤につながるものでなければならないと考えられているわけです。
 しかし、省資源的でかつ生産性の高い経済をめざしていけば、労働時間を短縮していくことが可能になり、これは資本主義の根本的な利害と衝突することになります。循環型経済ということについても、労働者の立場に立った政策の押し出しが必要でしょう。

欄外注)
※1 経済産業省「2021年度 電子商取引に関する市場調査」
※2 リデュース、リユース)、リサイクル)の3つの頭文字Rの総称

第1回 経済ってどんな意味?
第2回 おカネの正体(1)
第3回 おカネの正体(2)
第4回 経済の測り方(1)
第5回  経済の測り方(2)
第6回 経済成長とはなんだろう(1)
第8回 日本政府の財政(1)


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