月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第6回 経済成長とはなんだろう(1) 

月刊「まなぶ」(労働大学出版センター)2023年6月号所収

 経済成長というとGDP(国内総生産)がどれだけ増えたか、という意味に解釈されることが多いようです。では、GDPの変化は、私たちの生活にとってどのような意味をもつのでしょう。
 
実質GDP
 労働者の生活にとって重要なのは、賃金が上がること、失業が減ること、公共サービスが充実することでしょう。このどれもがGDPやその成長率によって間接的には影響を受けると考えることができます。そのさいに重要なのは、名目上のGDPではなく、物価を調整した数量的な実質GDPです。これは、ある年を基準に、その時点からのモノやサービスの価格変化を調整して計算します。現在の基準は2015年です。
 個人消費や民間投資など各支出項目それぞれに価格指数=デフレーターを求め、名目ベースの各支出項目を割ることで、各支出項目が2015年の価格であれば、どれだけの額になるのかを評価します。同じ額でも価格が下がっていれば量は増加したと評価でき、価格が上がっていれば量が減ったと評価するわけです。この合計が実質GDPとなります。通常、経済成長率というと、この実質GDPの変化を指すことになります。ちなみに2022年の実質GDPは1.0%でした。
 また、変化だけでなく、水準を過去と比較することも可能です。コロナ前の2018年の実質GDP、すなわち15年の価格で評価したGDPは554.8兆円でしたが、22年のそれは545.8兆円でした(▲9兆円)。コロナ禍からの十分な経済の回復ができていない、ということになります。
 
労働需給
 市場原理の下では、商品の需給関係がタイトになれば価格は上がります。労働力という商品の価格、すなわち賃金も労働力の需給関係が上がれば上昇することになります。労働力の需給関係は失業の状況に端的に現れます。失業者は労働力の需要(求人)が供給(求職)より少ないことで生まれます。需給関係がタイトになれば失業者は減ると考えられますが、
一国の経済全体で考えると実質GDP、すなわち実質の国内生産が増加すれば、労働力の需要も増加する要因になります。ただし、資本は利益を増やすために、機械を導入・更新したりして不断に労働力を節約する努力=合理化を行いますから、その分は労働力への需要は減少します。
 労働力の供給の方は働ける人の人口ということになります。20歳前後から65歳前後の人口が核になりますが、個人差もあり、現在では女性の働く割合が上昇し、70歳代まで働く人が増えているのも現実です。仕事の種類によっても、働ける人の数というのは変わってくるということも考慮する必要があります。
 日本の場合、国内の生産活動を中心になって支える生産年齢人口は15~64歳としていますが、高校がほぼ全入となり大学進学率も5割を超えていることを考えると、現実に合わなくなっているのかもしれません。20~64歳の人口を国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計でみると、2023年の6837万人が10年後の33年には6402万人と435万人減少します。総人口比では54・9%から54・2%へといくらか低下します。女性や高齢者の労働参加が進む可能性はありますが、日本では今後も労働力の供給は減りつづけると考えられます。
この条件で考えれば、GDPが大きく増加しなくても労働力の需給関係がタイトになるわけですが、残念ながら資本主義の下では失業がなくなることはありません。賃金も労働需給にだけ頼っていたのでは上がらないのが現実です。
 
潜在GDP
 さて、失業がとても少なく、企業の設備もフル稼働しているような完全雇用状態を仮定したときに推定できる実質GDPを潜在GDPと呼びます。とすると、潜在GDPより大きなGDPを実現することはむずかしく、実質GDPの限界を示すものとも言えます。
 景気対策がうまくいけば潜在GDPを実現できるわけですが、潜在GDPを伸ばすには3つの要素が必要です。
 一つ目は労働力人口です。日本の場合は減っていくので、潜在GDPにはマイナスです。次に資本ストック(企業設備など)で、これは設備投資が盛んになれば伸びていきます。そして、広い意味での生産技術の進歩の要素がこれに加わります。この技術進歩の要素を全要素生産性という言葉で呼んでいます。
 日本銀行調査統計局の推計による全要素生産性の変化をみてみると、最近10年間の平均値は0.3%となっています(図)。その前の10年間は0.8%でしたから、2012年頃までと比べて、かなり落ちているというのが実態です。

 

第1回 経済ってどんな意味?
第2回 おカネの正体(1)
第3回 おカネの正体(2)
第4回 経済の測り方(1)
第5回  経済の測り方(2)
第7回 経済成長とはなんだろう(2)
第8回 日本政府の財政(1)


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