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「心理的契約」エドガー・H・シャイン

 「心理的契約」については、キャリアコンサルタントの教科書にも載っているほど重要な概念ですが、組織開発、HRマネジメントやコンサルティングにおいてしっかりと踏まえて実践されているかというと、そうでもない面があります。

 現在の日本企業の大きな課題である「若年層の定着率の向上」や「やる気のないおじさん問題」に代表される中高年の処遇の問題などの対応については、公式的組織アプローチだけではなく、それぞれの「心理的契約」を読み解いていく必要があるように感じます。

 心理的契約は、組織加入時に強い相互体験を経験することを経て、個人と組織のニーズが調和し、両者の間に出来た暗黙の合意を指します。組織と従業員の間で交わされる見えざる契約と言えます。その後も継続的に組織と従業員の間で、期待や気持ち、意思決定における心理的契約を両者が支持するかが否かが、組織に対する従業員のコミットメントの維持拡大の為には重要な鍵となります。
 一方で日本企業においては環境変化により、過去の「終身雇用・年功序列」を基礎としたこれまでの心理的契約が守られなくなっている現実があります。中高年の処遇を考える場合にその根底にある彼らの若年期からの社内の仕組みや当時の先輩達の処遇を基に形成された心理的契約を踏まえて対応することが大切になります。
 「年齢が上がるにつれて基本的には処遇が良くなり、50歳も過ぎれば地元(住居購入地)で勤務し、60歳には定年でその後は自分の時間をゴルフなどの趣味を中心にゆっくりと過ごす。」という心理契約がこれまで事実上交わされ、これらを最終目標として企業の転勤や無理な業務指示等を受け入れる形でこれまで企業にコミットメントしてきたという事実があります。そして少し前の現在70歳前後の先輩達はそれらが確実に履行されてきたにも関わらず、自らの順番になるとこれらの心理的契約が一方的に破棄され、逆に70歳位までの労働を強いられるかもしれないという現実が発生しているところに「働かないおじさん」問題の原点があるようにも感じます。

 一方で若手についても、現在の定年手前のこれまでの企業における功労者達が上記の様な状況であることを見たり感じ取ったりしてしてしまうと、企業と納得した心理的契約を結ぶことが出来ず、企業からの早期の離脱を選んでしまうことなります。これが、若年層の定着率の低さの一因であるように思います。

 このような問題点に対しては、
 「心理的契約が低減し、終身雇用・年功序列・企業内労働組合といった制度的な補完はないのであるから、内部組織化や定期昇進(人事異動やジョブローテーションを含む)に代わる何らかの新たな仕組み作りが必要である。」ということになります。
 「心理的契約」を巡るこのような日本の状況について、エドガー・H・シャイン先生による直接の講義が企画されています。
 この講座は、マネジメントの改善や組織開発・キャリア開発等に興味がある方に参考になるように思います。


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