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愛する北海道

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炭鉱の街・幾春別で

炭鉱の街・幾春別で

昨夜はジンギスカン。腹いっぱい、胸いっぱい。
早朝のすすきのを抜け出し、「札駅」から特急列車に乗り込んだ。

岩見沢でバスに乗り換え、たどり着いたのは、三笠市幾春別(いくしゅんべつ)。なんと良い響きの地名だろう。
アイヌ語「イクスンペッ」=あっちの方の川

石炭産業で隆盛を極めた三笠市。
その栄華も今は昔。幾春別の街で聞こえるのは、鳥の声、虫の声、川のせせらぎ。
しかし、ところどころに当時の歴史を

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札幌の人

札幌の人

初めて会ったその人は、本当は優しい目をしていた。

その人は、とても穏やかだった。まるで大切な何かを包み込むように、優しく話した。

札幌生まれのその人は、札幌のことはなんでも聞いて!と言った。

お酒が好きで、お寿司屋さんでも飲むけれど、家で一人で飲むのは苦手、と言った。

その人の寂しさが、ほんの少し見えた。

僕は、また来るね、と言った。
近くて遠い、札幌の人。
きっとまた、会いに来るんだ。

北へ(終)風景印の旅

北へ(終)風景印の旅

2023/2/19(日)
上野  638 はやぶさ1
新函館 1053
    1105 北斗9
長万部 1214
    1329 函館本線
倶知安 1502
    1517 
小樽  1627
    1638 
銭函  1656
→星置、手稲、発寒、琴似、札幌

2023/2/20(月)
札幌  635 ライラック1
深川  740
    759 留萌本線
恵比島 821 
    93

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北へ(10)新札幌のラーメン屋

北へ(10)新札幌のラーメン屋

最終日の朝。
昨夜のお酒が残っていたか、せっかく早く起きたのに時刻表を見間違え、1本後のバスに乗る。

バスは紋別の街を抜け、一面の銀世界を行く。牧草地帯だ。
雪原の中に、ぽつぽつと牛小屋が建っている。牛が顔を覗かせている。

この先に街があるのか、不思議に思っていると、やはり忽然と現れた湧別の街。雄大な景色の先に、人の暮らし。
北海道のバス旅で、一番ワクワクする瞬間。

湧別、中湧別と、かつて名

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北へ(9)紋別の酒場

北へ(9)紋別の酒場

紋別のシンボル、「カニの爪」。
いざ目の前に立つと、あまりに異様で、わらけてしまう。
高さ12m。

団体客に混じり、砕氷船「ガリンコ号」に乗り込む。
出港前、海外旅行が大好きというパワフルおばちゃんが、初対面と思われる周囲の人たちに様々な旅行の体験談を話している。

港を離れ、船はだんだんと氷に近づいていく。ワクワク。
いよいよ、氷の海へ。ガリンコ号の名にふさわしく、ガリガリ音を立てて氷を砕きな

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北へ(8)紋別の街

北へ(8)紋別の街

夜、暗くなってから着いた街。朝起きて、初めて明るい街を見る。
そんな旅の朝が好きだ。
昨夜一献傾けた枝幸の酒場も、朝の光に照らされている。

雪山をバックに、バスが近づいてくる。
バスを乗り継いでオホーツク沿岸を南下し、旅の最終目的地・紋別に向かおう。

ほどなくして、車窓にオホーツク海が現れる。流氷は少し沖へと離れているが、確かに見えている。はるばるシベリアからやってきた「氷」に、いよいよご対面

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北へ(7)枝幸の夜

北へ(7)枝幸の夜

枝幸に向かうバスは、暗闇の中を走っている。浮かび上がるのは、車線を示し点滅する赤矢印の看板のみ。

だんだん不安になってくる。本当にこの先に枝幸の街はあるのか。永遠に着かないのではないかという気さえしてくるような、暗闇。

天北峠を越えたころ、バスに放送が流れた。「ようこそ、中頓別町へ。ここはその昔、ゴールドラッシュに沸いた街ーーー」。どこの土地にも、想像もつかないような歴史があるものだ。

歌登

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北へ(6)音威子府の静寂

北へ(6)音威子府の静寂

日本海側の街を堪能した旅の前半。ならば、今度はオホーツク海を見に行こう。待ってろ、流氷。
留萌からさらに、はるか北に位置する枝幸町へと向かう。大移動もまた、旅の楽しみ。

雪に埋もれるようにたたずむ小駅にひとつひとつ停車しながら、留萌本線のディーゼルカーは走る。1時間ほどで、深川に到着。旭川行きの列車を待つ。

駅を出て正面に見える、雪をかぶった山並みが美しい。
名物という「ウロコダンゴ」を購入す

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北へ(5)留萌の朝

北へ(5)留萌の朝

留萌の旅館で朝を迎えた。外は冷え込み、マイナス13℃。
仕事で宿泊する人が多い旅館らしく、宿泊客が、スーツや作業着で出かけていく。僕はといえば、暖かい食堂で、のんびりと朝ごはんをいただいている。旅人の特権。

朝ごはんには、「宿のおかみさんのお話」がもれなくついてくる。留萌の街を愛する、おかみさん。

昔の留萌は、今では想像もつかないほどの繁栄ぶりだったという。旅館の向かいには、大きなホテル。ボウ

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北へ(4)増毛の音

北へ(4)増毛の音

高倉健主演の映画「駅 STATION」。舞台は、日本海沿岸の街、増毛だ。
健さんは刑事役。愛する女性の、昔の男が指名手配犯ーーー。
エンディングは、冬の増毛に打ち寄せる波の音、風の音、そして、銃声。
桐子の店に流れる、八代亜紀「舟唄」。

「増毛の音」を、この耳で聞きたい。そう思った。

留萌からバスに乗り込むと、ほどなくして車窓に荒れ狂う日本海が現れる。海沿いの国道を進むと、やがて赤い灯台と増毛

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北へ(3)沼田の商店街

北へ(3)沼田の商店街

普段は目覚ましが鳴ってもしばらく起きないくせに、旅の朝は目覚ましが鳴る前に起きてしまう。まあ、そんなものだろう。
札幌から始発の特急に乗り込む。石狩平野の雪原を駆けていく。

留萌本線が分岐する深川で、列車を降りる。降りしきる雪。職場に向かう人や、学校に向かう高校生が、跨線橋を渡り深川の街へと出ていく。

やがてホームに現れたのは、雪まみれのディーゼルカー。誕生日にパイ投げをされたような状態。

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北へ(2)銭函の喫茶店

北へ(2)銭函の喫茶店

函館本線の1両のディーゼルカーは、ニセコへ向かう人々で満員。コロナ禍もようやく落ち着き、多くの外国人がまた日本へやってくるようになった。
始発の長万部でボックス席の窓側に座ると、すぐにスキーヤーたちに囲まれた。なんとか網棚に収まっている、アメリカン兄ちゃんの大きなキャリーバッグ。見上げていると、彼は「落ちるならオレの方だな!」と笑った。

ニセコと倶知安でスキーヤーたちが去る。雪山の風景が続き、列

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北へ(1)長万部の蕎麦屋

北へ(1)長万部の蕎麦屋

北へ向かおう。忘れたいことも、忘れたくないようなことも、とりあえず置いていこう。身ひとつで、北の大地へ。

はやぶさ1号、新函館北斗行。サンドイッチを頬張りながら、移りゆく車窓を眺める。一ノ関を過ぎ、北上川を渡るあたりから、一面雪景色。

列車は津軽海峡へ。青函トンネルに差し掛かる。
旅のおともは、宮本常一「辺境を歩いた人々」。松浦武四郎は、「船が何回となく、覆りそうになりながら」、この海を越えた

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