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北へ(6)音威子府の静寂

日本海側の街を堪能した旅の前半。ならば、今度はオホーツク海を見に行こう。待ってろ、流氷。
留萌からさらに、はるか北に位置する枝幸町へと向かう。大移動もまた、旅の楽しみ。

雪に埋もれるようにたたずむ小駅にひとつひとつ停車しながら、留萌本線のディーゼルカーは走る。1時間ほどで、深川に到着。旭川行きの列車を待つ。

駅を出て正面に見える、雪をかぶった山並みが美しい。
名物という「ウロコダンゴ」を購入する。白、抹茶、あんこの3種類、ういろうに近い味の三角形のダンゴ。
ニシン漁で留萌港が栄えた時代、貨車に張り付くニシンの鱗がダンゴと同じ三角形だったので、ダンゴの名前にもなったとか。

この旅で初めて、青空が見えてきた。旭川で乗り換え、宗谷本線の列車で北上する。
お買い物帰りのマダムと旅人たちで混み合う、午後の車内。
軽快に走る新型車両。少しぼーっとしていたら、塩狩峠もあっさり通り過ぎてしまった。

雪原を 駆ける車内は暖かく みな気持ちよく うたた寝をして

だんだんと日が傾いてきたころ、名寄に到着する。待っていた音威子府行きの列車で、さらに北へと向かう。
名寄から先は、乗客もぐっと減る。いよいよ、最北の鉄路の雰囲気が極まってくる。

天塩川に時折寄り添いながら進む1両のディーゼルカー。銀世界に夕日が沈むのを、ただ眺めていた。
明日はきっと、いい天気。

いよいよあたりが暗くなり、何も見えなくなったころ、突然駅が現れる。終点・音威子府。ここで、枝幸行きのバスを待つ。

誰もいないホームが、電灯に照らされ暗闇に浮かび上がっている。
全ての音が雪に吸い込まれてしまったかのように、静かな夜のターミナル。

無人の待合室に座り、深川で買ったそばめし弁当を食べる。
一人旅の待ち時間。寂しい。でも、不思議とワクワクする時間。
いま、日常から遠く離れた場所にいる。

駅前に大きなバスがやってきたので思わず飛び乗ったが、なんと枝幸行きではなかった。
「これは鬼志別行きだよ。もう少ししたら、来ると思うよ」。

待合室から外を眺め、いまかいまかと待つ。
もし、もし万が一来なかったらどうしよう。そんな不安もよぎる。

ようやく、交差点を曲がってくるバスの明かりが見えた。今度こそ、枝幸行きのバスだった。

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