見出し画像

名探偵はオワコンか

さて、日頃、推理小説をよく読む皆さんに質問です。

あなたは「名探偵」は好きですか?

あ、まず少し前提の説明が必要かもしれません。
ここで言う「名探偵」とは、広く推理小説のシリーズ探偵のことを指します。

そのキャラクターが、実際に探偵業を生業としているかどうかは問いません。物語の最後に事件を解決する役割を担う、いわゆる「探偵役」ということです。

この質問への答えは結構割れる傾向があるように思います。
「私はどちらかと言うとあまり…」という人にその理由を尋ねると、以下のようなコメントをよく聞かされます。

「刑事とかならわかるんだけど、仮に、その探偵役が一般人である場合、そもそも頻繁に事件に巻き込まれる必然性が説明されていないと、なんだかリアリティが無くてさめてしまうんです…」

確かにそうですね。

今や、推理小説の世界には、数えられないほど様々な職業の「探偵役」が存在します。
ど真ん中ストレートの「刑事」だけでなく、そのキャラクターを警察に近い職業(医学や犯罪の専門家など)に就かせることで毎回事件に巻き込まれる理由を担保しているケースも見られます。

が、「でもそんなの関係ねぇ!」とばかりに清々しいほど毎回偶然にして探偵役が事件に巻き込まれるシリーズだってたくさんあります。

推理小説のなかでも、社会派と比べて、いわゆる本格ミステリなどがよくそう評されますが漫画っぽいと言われる所以ですね。

ビジネス的な観点で見ると、シリーズ探偵ものはいったん人気になるともちろん固定客を見込めるメリットもありますが、反対に、その人気が中途半端だと、新規読者の参入障壁を高めてしまうデメリット≒リスクもあるそうです。
(あ、シリーズものかぁ、途中から読むのもなぁ…と敬遠されるということですね)

私が本格的に推理小説を愛読し始めたのは90年代前半頃からですが、この頃と比べて最近はシリーズ探偵ものって数が減っているような感覚があります。

この感覚が仮に正しいとして、その理由は、先述したビジネス的なところから来る要請なのかもしれませんし、根っこは同じですが、冒頭に紹介したコメントに代表されるように敬遠する読者が増えたから(つまりニーズが無いから)なのかもしれません。

推理小説の中身に踏み込んでも、実は、シリーズ探偵ものには大きなデメリットがあります。これはメタ的な見方になりますが、シリーズ探偵を登場させるということは、つまり「登場人物のなかで誰が犯人かわからない」という、推理小説で最も大事な読者の興味関心に穴をひとつ作ることに他ならないからです。とりあえずシリーズ探偵とその縁者(ワトスン役といったレギュラーキャラクター)は犯人ではない、という推測だけは成り立ちますからね。
あ、ネタバレになるので詳細は避けますが、その推測をとある仕掛けで華麗にかいくぐるシリーズ探偵ものの作品も多数ありますよ!
(ちょっと何言ってるかわかんない、と思われたら、ごめんなさい)

ともかく実作者としても、一般的にシリーズ探偵ものは、このように一定程度、読者の関心を削ぎかねないデメリットをあらかじめ抱えてしまうということも事実なのです。

さて…、いま一度、
あなたは「名探偵」は好きですか?

はい、私は、好きなんです。

何故なのか。

自分の好みの話なのですが、にも関わらず、なかなか説明が難しいです。

愛着?
憧憬?

安心感もあるかもしれません。

本格ミステリファンとしては外道なのかもしれませんが、読書体験中、どこかで安心感も求めている気がします。

・このキャラクターだけは信用して良い!
・どんな不穏な展開になってもこのキャラクターが私の命綱だ!
・状況は陰惨だが、いつもの探偵役が登場した!さぁ、ここから反転だ!

みたいな。

キャラ読みというやつですね。

青春時代、そもそも私が本格ミステリにハマったきっかけのひとつが、今、思うと探偵役のキャラクターだったからかもしれません。

推理小説というか、とりわけ本格ミステリですが、シリーズものの探偵役は何故かちょっと奇人変人設定が多かったと思います。
フリーターやニートみたいだったり、社会不適合者だったり。

世界観が現実に則していて、かつ、端正な文章でそれが描かれると、珍妙な展開やキャラクターがしれっと配置されても、物語に適度なリアリティが生まれるのですよね。最近は、特殊設定ミステリ(異世界舞台とか)が全盛なのでそうでない作品も多いのですが。

将来への不安を抱えている時期、そんなヘンテコなキャラクターが架空の現実社会で曲がりなりにも「探偵役」としていっぱしの役割を果たしている姿から(間違った?)安心や勇気を得ていたのかもしれません。

そう考えると、名探偵は、本編の事件を解決するだけでなく、若者の将来不安(センチメンタル)をも期せずして解きほぐしていたとも言えそうです。

さて、すっかり大人になってしまった私はさておき、現在の若者に対し、その役割はもう不要なのでしょうか?

名探偵はオワコンか。

いやいや、そんなこときっとありません。
少なくとも私はそう思いたいです。

読書が好き、推理小説が好き、そんな人は是非、改めて「探偵役」のキャラクターにも少し目を向けてみてください。

フィクションだからこそ、漫画っぽい小説だからこそ得られる、新しい素敵な出会いがあるかもしれません。


あ!ちなみに私はシリーズ探偵の出てこない推理小説も普通にたくさん読んでいますし大好きですよ!
(というエクスキューズで締めます)


#本格ミステリ
#本格ミステリー
#ミステリー
#ミステリ
#推理小説
#名探偵
#読書
#読書感想文









この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?