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「ストック型」の仕事

今年の1月。ガーデンプレイスシアターでゴッホの映画を観た。

単純に彼の絵が好きで観に行ったのだが、大きな衝撃を受けることになる。

ゴッホ、司馬遼太郎、PIXARが教えてくれたこと

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ウィレム・デフォー演じるゴッホは、当時まだ新しかった印象派の中でも異端とされ、なかば狂人扱いを受ける。まるで彫刻のように立体的で力強いタッチの絵は弟のテオにしか評価されない。

親友のポール・ゴーギャンはもっと皆に受け入れられる絵を描けと助言する。それでも彼は自分の作風を曲げることはせず、目で見たままに「光」を描写しつづける。

彼のセリフで、どうしても忘れられない一節がある。

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Maybe God made me a painter for people who aren't born yet. It is said, Life is for sowing. The harvest is not here.
(神は、まだ生まれていない人達のために私を画家にしたのかもしれない。人生は種まきとも言う。収穫のときはまだ訪れていないんだ。

まだ生まれていない人たち、つまり未来の人類にむけた仕事をする。

これを聞いたとき、自分の中でいくつかの「点」がつながった。本能的に、自分も同じことがやりたいのかもしれないと感じた。

例えば司馬遼太郎作の「二十一世紀に生きる君たちへ」という短い随筆。

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私の人生は、すでに持ち時間が少ない。例えば、二十一世紀というものを見ることができないにちがいない。
君たちは、ちがう。
二十一世紀をたっぷり見ることができるばかりか、そのかがやかしいにない手でもある。
もし、「未来」という街角で、私が君たちを呼び止めることができたら、どんなにいいだろう。

「田中くん、ちょっとうかがいますが、あなたが今歩いている、二十一世紀とは、どんな世の中でしょう。」
そのように質問して、君たちに教えてもらいたいのだが、ただ残念にも、その「未来」という街角には、私はもういない。
だから、君たちと話ができるのは、今のうちだということである。

司馬さんは、永遠に生きられないことに一抹の寂しさを覚えながらも、未来の子どもたちに向けて力いっぱいのエールを送る。

もちろん彼は生前から文豪として尊敬されていた。しかし「自分がいなくなった後、圧倒的に長い時間が流れていく」ことを意識していたのだと思う。

この二人には共通点がある。後世に残るフォーマットの仕事をした、ということだ。

絵画や小説は、保存さえされていれば時代を越えて多くの人が楽しむことができる。このような「ストック型」の仕事にはとてつもない可能性がある。

それを裏付けるPIXAR(ピクサー)の例をあげたい。

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「そこそこの興行成績だった映画も、ライブラリ ーで長年にわたって価値を持つ可能性がある、と。すぐ時代遅れになるテクノロジー製品とは真逆ですね」

これは、後にピクサーのCFOになるローレンス・レビーがスティーブ・ジョブズとのディスカッションで言った言葉。

実際、映画会社は興行収入をアテにしていない。黒字になる映画は少なく、グッズやDVD、そして各種ライセンスのような「ストック」が長期的に安定した収益や価値を生んでいる。

誤解を避けるために言っておくと、ストック的な側面を持つテクノロジーは沢山ある。

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例えば40年以上前にゼロックスの研究所で生まれたGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)は、僕らが使うパソコンやスマホの核となる技術の一つだ。

本当に良いものは、時間が経てば見出されるときがくる。一過性のトレンドだけを追いかけても、束の間の成功しか掴めないのではないか。

もちろんいま目の前にある人々に貢献することも大切だ。それでも人生は一瞬。いつ終わるかわからない。だから、死んでしまった後も誰かの役に立つ可能性を少しでも上げたい。

いまの自分にできること

「僕ができるストック型の仕事は何だろうか」と考えたとき、自然とブログにたどり着いた。

特別な機材がなくてもすぐに始めることができ、編集や更新も容易。文字情報は検索エンジンにも引っかかるし、日本にはnoteのような急成長中のプラットフォームもある。

もう一つ意識しているのは、誰もやっていないことをやるということだ。

現在書いているマガジン「YouTubeで学ぼう」は、依然この国ではメジャーになっていない学習系YouTubeチャンネルをテーマにしている。

素晴らしい価値があるのに、まだ誰も気づいていない。そういうコンテンツを紹介する。

果たして僕の記事が日の目を見ることはあるのか?

明日?一年後?十年後?生きている間は報われないかもしれない。もちろん死後の世界は証明されていないから、未来の人々に貢献できているか知る術はないかもしれない。

けれど、自分が納得したものを、それが伝わる「誰か」に向かって残す。

そんな生き方もアリだろう。

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ぼくが認められたいのは、ジャック・ラカンのいう「大文字の他者」だ。

実際、反響は遅れてやってきた。
好きなデザイナー向けYouTubeチャンネルをまとめた記事は、公開から1ヶ月ほどしてnote公式の「#デザイン記事まとめ」に取り上げてもらった。

sawaさんをはじめとして、たくさんの方々に読んでいただいたおかげもあり、デザイナー界隈ではちょっとバズった。

本当に驚いたと同時に「YouTubeで学ぶことは楽しいし有意義だ」と多くの人々に感じてもらえて嬉しかった。

予想外の連鎖もある。バズをきっかけに、他の記事へのコメントがあった。

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初コメントはGovTech企業のCDO・富樫さんからのものだった。嬉しい。

やっぱり反応してもらうことは今後の糧になるし、新しいことも学べる。ほかにも色々な方たちから反響をいただき、感謝でいっぱいだ。

そして、とある法律職さんのような素晴らしい方々とつながれたのは嬉しい誤算。

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とあるさんは、法律を身近な視点から解説する面白い記事をたくさん書いている。

お互いに刺激やエールを送り会える関係は貴重だと思う。

いま書いているこの文章も誰かの役に立つかはわからないけれど、こうした先例にはとてつもない勇気をもらえる。

テスラとエジソン、そしてウェスティングハウス

ここまで書いて、この記事は終わりにするつもりだった。

しかし、またもや印象的な映画に出会ってしまう。

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「エジソンズ・ゲーム」という、今から100年以上前の電流戦争を題材にした作品。発明王エジソンと科学者で実業家のウェスティングハウスの戦いが多角的に表現されていて、めちゃくちゃ面白かった。

僕のアイドル、ニコラ・テスラは特にカッコよくて、終始目がハートになる。思わず買ったパンフレットには彼の名言が載っていた。

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The present is theirs; the future, for which I have really worked, is mine.
現在は彼らのもの。しかし、未来は私のものだ。

原文だと"the future, for which I have really worked" なので「私は未来に向けて仕事をした」というニュアンスがある。冒頭にあげたゴッホの考え方にそっくりだ。

でも同時に、アレンジの必要性を感じた。

確かにテスラは100年先を思い描き、実際に現在ではイノベーションの象徴として絶対的な名声を得た。世界で一番時価総額が高い車メーカーが彼の名を冠しているのは偶然ではない。

一方、エジソンやウェスティングハウスからも学べる点が沢山あった。

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左がウェスティングハウス。右がベネディクト・カンバーバッチ演じるエジソン。

目の前の人々に貢献する姿勢や、自分自身の幸せを追求したり、ビジネスを成功に導く手腕などだ。

そしてよくよく考えると、僕は2人に近い要素も持ってるかも…と考えるようになった。

エジソンのワンマン性:小さい頃、他の人に指示する癖があったらしい。目的のために手段を選ばない面も。

ウェスティングハウスの協調性:年齢が上がるにつれて、チームワークを楽しむことができるようになった。縁の下の力持ちになり、プロジェクトを前進させる感覚が好き。

このように、実際の人間はより多面的で複雑だ。
誰か一人をロールモデルにするのも良いが、様々な価値観を程よくブレンドするほうがスマートかもしれない。

まとめ

流行の先端。誰もが羨むステータスや暮らし。すごく魅力的だし、なにかを始めるモチベーションにはなるかも。

でも、そうしたものを追いかけ続ける人生には夢中になれない。代わりに、時間が経っても価値が色褪せないモノを作りたい。

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新渡戸稲造は侍の美学として「いかに退く(死ぬ)か」を挙げていた。僕は「いかに残すか」を考える。

自分の中に確かに存在するテスラやエジソン、そしてウェスティングハウスを活かせば、これまで誰もできなかったことができる気がする。(まだ何も成し遂げてないので頑張ります。笑)

そう思うと、今生きているこの時間が限りなく貴重に思える。

この文章を読んでくださっているみなさんは、どんな価値観や哲学を持っているだろう?その裏にはどんなストーリーがあるんだろう?

ぜひ聞いてみたい。

参考情報

この記事を書いた人

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Neil(ニール)
ecbo (荷物預かりプラットフォーム) とプログリット (英語コーチング) でUI/UXデザイナーとしてインターン。現在はIT企業でデザイナー。 ハワイの高校。大学では法学を専攻。もともとはminiruとしてnoteを運営。

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