マガジンのカバー画像

短編

21
思い付いたら書く奴
運営しているクリエイター

#掌編小説

『称賛』

 「働かざるもの食うべからず」とはよく聞くが「食って出すもんにも金は払わなならんのだから働け」という理論はどうかと思った。しかしながら良く考えれば、尻を拭く紙も流す水も只じゃない。なるほどと感心したが、職場の先輩としての自己紹介で言うのはどうなんだ。
 変わらんな。田中。

 シルバー人材派遣として駐輪場で働く事になり、なんだか途端に歳を取った気がして仕方がなかった。孫もいるのに何を今更、と半ば不

もっとみる

誰が駒鳥殺したの?

「ごめんね」

 寝ていたと思った彼女から、突然呟かれる。彼は驚いた様子もなく、ただ寝言かどうか確認する為スマホから彼女の背中に目を移した。

「どうした?」

 彼女が特に動いたわけでもないが、彼は確かに彼女が起きていると確信して話しを聞いた。彼からの優しい問いに、ようやく彼女は動きを見せる。薄い掛け布団を肩までかけ直す、拒否にも似た仕草。

「芝居……続けたかったよね」

 思いもよらない事だ

もっとみる

愛しの魔王様

小説家になろうからの逆輸入。noteバージョンです。と、いっても短くしただけw

 この世界には2種類の文明がある。持つ者と持たざる者の文明だ。則ちヒトとマモノだ。

 人間は何も持たずに生まれてくる。魔力も知力も体力も。立ち上がるのに1年かけ、親の教えを理解するのに10年かけ、魔法を使える様になるのにさらに10年。多くの者はそこで火を灯せるようになって学ぶのをやめる。なぜなら、もう寿命が半分過ぎ

もっとみる

弔いの木

 人が死ぬと木に生る。皆が同じ種類の木。

 遺族の思い出を栄養にして、悲しみの氷を溶かした水で、生い茂る。

 それが弔いの木。

 

 

 我が家の庭には2本の木が生えている。

 1本は母。1本は弟。 

 2本並んで立っているが両方発育が悪い。
 母の木は栄養はたっぷりあるが水不足気味。弟の木は水はまだ足りているようだけど栄養不足。

 2本は補いあって、普通よりも長い時間をかけて、花

もっとみる