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導く者。受け継がれていく物。


「カツカツ」と、黒板にチョークで板書を書いていく。

現在35歳、私、成川奏は教師として中学校で勤務し、日々国語を生徒たちに教えている。


国語なんてものは自分が中学校のときは大嫌いもいいとこだったが、ある先生の言葉で日本語、いや、言葉の面白さに気づかされたというか、興味を持ち始めたのだ。

その先生は授業もいい加減で、下ネタばかりを連発し女子からはあまり人気ではなかったが、やるときはやる先生だった。

先生が高校の時は学年一二を争うほどの成績だったらしく、案外、普段しゃんとしてない人が好成績をとるんだなあと、少し関心を抱いていた。

その先生は亡くなっているが、たまにお墓参りに行ったりする。


言葉ではうまく言い表せれないが、こう、尊敬というか憧れのような存在だったのだ。

先生になるならあんな先生になりたいなと思い始めたのは、そう、あの日からだろうか。


* * *

「は〜いテストを返却するぞー」


私の通っている学校には、定期テストが一つの学期ごとに2回あり、今日は学年最後の学年末テストが返される日だった。よりによって一時間目に返されるのは一番苦手な国語だ。


「はい成川〜、お前これだと高校やばいぞー」

そう言われながらテストを返されると、もちろん結果は低く100点満点中20点だった。

もうここまできたらいいや。馬鹿だし。

開き直り、周りの友達に点数の低さを自慢していると、先生が話しだした。


「はいー今回低かったやつはもうダメだね。どこの高校にもいけませーん。もうちょっと少しくらい勉強すれば50は最低でも取れる問題だったぞこれは。特に成川、お前が一番酷かった。」


「先生、別に俺馬鹿だしもう今やったとこでじゃん?」


「いいか成川、自分でバカバカ言ってる奴は本当のバカだぞ。これからいろいろなことが待ち受けているのに全部俺は馬鹿だからって言い訳つけるつもりか?甘ったれんなよ。そうやって言い続けてると馬鹿の壁がより分厚くなっていくだけだぞ。」

「は、はあ。」


びっくりした。

普段特にああいうことは言わない先生が、はっきりと言ったのだ。


それほど今の状況がやばいということを、私に伝えたかったのだろう。


そこから私の意識は変わった。


必死に残りの期間を勉強し、何とか高校には入ることができた。そこからもう勉強をし、大学へも入ることができた。

あそこで先生が喝を入れてくれなかったら、自分は一体どうなっていたのかが想像もできない。


そう、あの日から、私は生徒を正しい道へと導かせることのできる先生へとなりたいと思ったのだ。

普段はだらけて、ふざけていてもキチッとやるあの先生に憧れたのだ。

今でもその先生の言葉の数々は頭の中に残っている。


* * *


「はーいここまでが明日のテストの範囲です。ちゃんと勉強してきてねー。あれ、山口〜寝るなよ起きろー。」


「先生、俺が今勉強したとこで変わんないんですよ。馬鹿なんだから。ね?」




はあ。




「山口。いいか〜自分のことを馬鹿って言ってる奴が本当のバカなんだぞ。いつまでもバカってことを言い訳にしないで、ちゃんと意識変えてやれよー。」

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