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貴方軌跡ーアナタキセキー

episode2.動心


「ちゃんとしなさい!」

「あんた本当にこのままで高校行けると思ってるの!?」


うるさい。あんたになにがわかるの。人の気持ちも知らないで。ほっといてよ。








ハッ。


目を覚ますと視線の先には、大きな機械が置いてあった。


そうか、夢を見ていたんだ。

嫌な夢だった。


「お姉さん大丈夫?ずいぶんうなされていたようだけど。」


「う、うん大丈夫だよ」

うっかり寝てしまっていた。

今はカプセルで移動中、京都へ向かっていたんだった。


微妙な空気が流れた気がした。

これが気まずいという空気感だろうか…。

そしてふと疑問に思ったことを口にする。

「ぼ、僕はさ、何歳なの?名前は?」


ずっと気になっていたことだ。

元から外見は幼く見えたし、背も高い方じゃない。しかも名前も知らないなんて、何かあったときに困る気がした。

「俺は13歳だよ。名前は一樹って言う。」

思わず声をあげた。

「えっ13歳!?ってことは中学一年生!?本当に!?」

「本当だよ。後『僕』呼び、やめてくれるかな。」

「あ、ああごめんごめん。一樹くんね!分かった。」

到底中学生には見えなかった。背も私より低かったし、今の子はみんなそんなもんなのだろうか。

「お姉さんは何歳なの?」

「あら、レディに名前を聞くなんて失礼だね〜、まあピチピチの17歳ですけどね!」

「ふうん17歳か、名前は何ていうの?」

ふうんって、!興味なしかよ!そう思いつつも少しづつも空気感は和やかになっていったことが少し胸を温めた。

「私は遥、よろしくね一樹くん。」

「遥ね、じゃあ遥さんで!」

「了解しました!」

いつになくハイテンションになったけど、打ち解けた感じが私にはすごく嬉しかった。

学校に少しくらい友達入るけど、ありのままの自分を見せれる人は1人もいなかった。

だから、みんなに合わせて話題にも入れるようにスマホで調べたりしていたのが時々悲しくなった。

けど彼ならありのままの自分でいられるかもしれない。そう思うと少しホッとする。

「遥さん、もうすぐ着くよー!」

「はーい!」


プシューとなるブレーキ音の空気圧が聞こえ、それと同時にカプセルが止まった。

ウィーンとカプセルが開くと、そこはまるでお城のような景色が一面に広がっていた。

「す、すごい…」

圧巻だった。とてもじゃないけど言葉では言い表せれないくらいに。

「遥さん、こっちこっち。」

「あ、ちょっと待って」

そう言ったそのとき、段差に引っかかり体が転がった。
や、やばい、ぶつかる…。


バッ。


瞳を開くと、1人の男性が私を抱えていた。

「大丈夫ですか?お怪我は?」


「だ、大丈夫です。すいません、ありがとうございます…」


いきなり現れた男性に驚き、お礼を言いつつ、一樹くんの方へ向かう。すると一樹くんがこちらに向かってきた。

「おお、篠宮、きていたのか。」

「はいおぼっちゃま。お父様の命でやってまいりました。」

「おい篠宮、おぼっちゃまはやめてくれと何回も言っているじゃないか。」

「これはこれは、失礼しました。」


え?なに?おぼっちゃま?知り合い?え?どういうこと?
突然のことに頭がこんがらがり、狭い思考回路をぐんぐんと回した。しかしなにがどうなっているのかわからなかった。

「ああ遥さん紹介が遅れたね、この人は篠宮。俺の執事だよ。」

「し、執事!?一樹くん執事がいるの!?」

「うん、変かな?」

「いや、変ではないと思うんだけど…一樹くんって何者?笑」

全くわからない。中学一年生が執事…。わからない。


「ああ〜、篠宮、説明を頼む。」

「了解いたしました。では、一樹様に代わり、私が説明させていただきます。」


「は、はい。」

何か凄そうな予感はしていた。

しかし規模が段違いだった。私の想像を遥かに超えてきた。

「一樹様は大手株式会社Mコーポレーションの社長、森山哲也様の息子の位置におられる方です。私はその一樹様の専属執事兼ボディーガードとして属しております。」



「え、ちょっと、ちょっと待ってください。Mコーポレーションって、あのMコーポレーションの!?一樹くんが!?その社長の息子!?」

「はい。左様でございます。何かございましたでしょうか?」


「い、いや、そういうわけじゃないんですけれど…。」


胸の鼓動が早くなっているのがわかる。

今自分はとんでもない人と行動していたんじゃないかと動揺する。


Mコーポレーションは主に機械の開発、運用、そして政治への参加など、幅広い環境で動いている日本ナンバーワンの会社だ。いや、世界でも指の中に入るだろう。

あの国速1000もMコーポレーションが開発し、運用したのだ。通りで一樹くんはあんなカードを持っていたわけだ。

ついには、一樹くんと行動してたら私に何か責任を取らされるんじゃないかと心配になった。

私は篠宮さんに、一樹くんに聞こえないよう小さく呟く。

「あ、あのすいません、一樹くんと一緒に行動していて何かあったら、私、責任とか取らされたりするんでしょうか?」

「その心配はございません。一樹様に何かあったときの責任は、全て私が背負う手筈になっておりますので。」

「そ、そうですか…。」


でも私が何かしてしまって一樹くんに何かあっても、全部篠宮さんのせいにされてしまうのは、どうしても嫌だった。

これからの行動は、より注意を払って行動しないとと心に決めた瞬間だった。


「遥さん、目的地って京都の樹ってとこでよかったよね?」


「あ、うん、そこであってるよ。」

「じゃあ篠宮、車を用意してくれ。」

「かしこまりました。」


初めての光景だった。執事と執事を使える人を見るのは。

自分とはなんてかけ離れた空間なんだろうと、同時に苦しくなった。

数分後、車が来たらしく駐車場まで向かう。


「どうぞお乗りください。」


そう言われ乗ろうとした車は、あのリムジンだった。もちろんこれも見るのは初めて、驚きを超えてため息が出るほどだった。

「あ、ありがとうございます」と言いながら、ひかれたレットカーペットの上を歩き中へと入る。

そこはまるで遊園地のように明るく、ひろい空間だった。今ここにいる自分が嘘なんじゃないかと思えるほどに。

「では、出発いたします。」と発せられた篠宮さんの声とともに、リムジンが動き出した。


いよいよあの森の図書館に行けると思うと、胸が締め付けられるような興奮が湧き出てきた。

けど、それよりも今に自分に起こっていた規模の違いすぎる出会いと、今まで自分が過ごしてきた生活の小ささが身にしみた。


その気分は、自分の手が届かないことを知っておきながら足掻く、悔しさのようなものに似ていた。









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