僕は今日も、君に花を添える。
秋。
秋風。
紅葉。
「お待たせ。お盆はごめん、仕事が忙しくて来れなかった。調子はどう?元気にやってる?」
僕は今日も、君に花を添える。
* * *
2050年9月9日。
柔らかな手。
白い肌。
閉じた瞳。
君は交通事故で寝たきりになった。
原因は車の運転手の飲酒運転。
今となっても運転手が憎い。
運転手が生きている今日も、話している今日も、寝ている今日も、
君はピタリとも動かず、目を覚まさないというのに。
見舞いに来始めてから、いったい何日が経っただろう。
一向に目を覚まそうとしない。
手を握る。
冷たい。
目を覚ませ。
強く願う。
君との大切な記憶が、頭をめぐる。
君と出会った日。
初めて言葉を交わした日。
影を重ねた日。
そして、名字を重ねた日。
どれも決して忘れない、大切な記憶。
「ねえあなた、シオンって花知ってる?」
「いや、聞いたことないなあ。」
「強く生きる。っていう花言葉を持っているんだって。」
「へえ、そうなんだ。まあそんな簡単に僕たちは死なないさ。」
病室にはシオンが添えてある。
頼む、死なないでくれ。強く生きてくれ。
「もって2週間、2週間生き抜いたとしても目を覚ます可能性は限りなく低く、植物状態に近いでしょう。」
医者からは宣告されていた。
もう、助からないことを。
でも、少しだけ。
もう少しだけ。
神様。どうか、どうかもう少しだけ、そばに居させてください。
涙を流しながら、願う。
病室内に響くコール音。
逝かないでくれ。
* * *
「なあ同期、シオンって花知ってるか?」
「あ、ああ。嫁に教えてもらったよ、強く生きるって花言葉なんだろ?」
「違えよ、君を忘れないっていう意味なんだぜ。」
「え…?」
* * *
「昨日は上司に怒られちゃったよ、ちょっとボーッとしすぎたかな笑」
「…」
「同期に聞いたぞ、シオンって花、君を忘れないっていう花言葉なんだってな。お前嘘ついたろ、何で、何で…」
「…ごめん、もうそろそろ仕事だ。また今度くるから、またな、。」
手にとったシオンを墓跡に添え、前を向く。
僕は今日も、君に花を添える。