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SDGs史#16 拝啓「サステイナブル」殿

近頃はずいぶんと君の名を見かけてうれしいよ。

小林武史さんが『PEN』でここ数年、君を特集テーマにしているね。僕はコンビニで雑誌を買ったりしないけど、思わず眺めてみたりしたのさ。暮らしとのつながりをいつも気にしていたから、きっと喜んでいるだろうね。

AKB48が、君の名のタイトルにした歌を見たときは、時代の波にのっているなって感じたのを覚えている。「見た」と書いたのは、歌はそれほど耳に残んなかったってことだけど。

リサイクルが普及したころ、Perfumeのポリリズム(2007)のオマージュだったかな。そうは、うまくはいかなかったけどさ。ともあれ、身近になったに違いないし、これも喜んでいたんじゃないかな。

「サステイナブル」

見違えるように洗練された佇まいで、立派になったね。

だから、君は思い出したくないかもしれない。かつて「持続可能な」という野暮で、無味乾燥な言葉だった時代をさ。

でもね、生い立ちを語らないと君の本質にはたどり着けないこと、よくわかるんだ。

誰も見向きもしなかったころから見守ってきたから、なおさらね。

君が、このところ「S(エス)」と略されていることをいいことに、八方美人に振舞うものだから、少し気にかかっているんだよ。

君はそんなに優しいやつじゃないだろう?

皆が、君のストイックな一面に気づいたときに、見放されることを懸念しているんだ。

流行りですまされていては、君の本領が発揮できないだろう?

希望をつなぎとめるのは、言葉だけでは足りないし、行動だけでも足りない。もっと具体的な成果がないとイメージができないといけない。

その点、モダンなんて君の先輩はうまくやっていたじゃない。近代なんてわかりづらい訳語だったけど、いまだに「モダンな街だね」って誉め言葉は嫌味なく使えるしさ。

でもさ、モダンの裏の顔を暴いたのは君だし、そのあとの社会をイメージさせるのが、君の役目だったと思うのだけど、違うのかい?

そう、そして、それはそんなたやすいことではないこと、これまで散々、議論してきたこと思い出すよ。でも、その先に希望があると、いつも話していたよね。

それでも、最近の自信ありげな様子をみると、僕が思っている以上に君は力をつけたのかもしれない。そう願っているし、そうであることを僕自身、確認したいのさ。

じゃぁ、少しずつ話を始めていこうか。

君が世界の表舞台に立ったのは、1980年だったよね。僕がこの世に生を授かった時期だから、君を朋友だと思っているよ。

「世界保全戦略」に載ったのが世界デビューだ。国際自然保護連合 (IUCN)、国際自然保護連合(WWF)と国連環境計画 (UNEP)の共著で話題になったようだね。

僕が1972年にこだわったのもうなずけるだろう。ストックホルムが国連環境計画 (UNEP)の生みの親なんだから。

そのときに強調されたのは、次の3点だったと僕のメモに残っている。

1.エコロジー・プロセスと生命維持システムの保全
2.遺伝子学的多様性の保護
3.生物種と生態学の持続的な利用

そう、君を理解するには「保全」が大事かもしれない。Sustainableの言葉の訳が「持続可能な」って訳されるわけを知るには、「保全」ってのはひとつ、よい手がかりになると思う。嫌がらずに確認させてくれるかい。

Sustain・維持するは、もともと、この文脈で使われるようになったのは、漁業とか、林業で乱獲から「保全」する意味だったね。

とてもシンプルに君の本質を表している。

君には迷惑かもしれないけど、少し説明を試みてみるよ。

例えば、今の時代でもマグロを取りすぎて、漁獲規制とかニュースになるだろう。人は放っておくと好きなものを好きなだけ商品にしちゃうから、規制なんて仰々しいことしないとマグロをsustainしておけないんだよ。

そして、ableってのは、能力のことを指すよね。だから、マグロの漁獲規制をしている間に、海をはじめとした素晴らしい仕組みがまたマグロを増やしてくれる。

大いなる自然の力をsustain-ableな状態にしておくことが賢明だ。君は、そんな自然の回復力なり、その結果としての水産資源を確保する、って目的で使われた用語だった。

今でもその使われ方もしているけど、もっと多くの意味を含むようになっていったね。もともとの英語には、違ったニュアンスもあったわけだけど、日本語ではどうしても横文字になってしまうのは、残念だな。

ともかく、自然の回復力の範囲で暮らす、ことがもともとの意味といって差し支えないかな。

もちろん、養殖をするってのも手だよ。テクノロジーの力は自然に頼らずにマグロの美味しさを味あわせてくれる。

でも、海を泳ぐマグロにとっては、どうってことないことかもしれないね。人に捕られようが、サメに食べられようが自然の範囲で種をつないでいくだけの話だから。

少し話がそれたかな。

こうやって文字に書いてみると、今の君、そう「サステイナブル」とは、少し趣きが違って見えてくるな。

このころは、自然から見て、人が利用できる範囲ならsustain-ableって話だから、シンプルだったのかもしれないな。

ドラ息子たちの散財をどこまで許すか、って頭を悩ますお金持ちの親の心持だね。このときは、そうだったろうな。まさか、親である自然が健康をむしばむまで、散財をやめないなんてさすがに気付かなかった。

自然と人との親子関係なんて、いつの時代だって、移ろってきたものさ。

一部の人は気づき、声を上げ始めていた。そろそろ親である自然の能力sustain-ableにも限界があるよとね。

「地球白書」で有名になったレスター・ブラウンさんは、この頃、すでに「sustaible society」を本のタイトルの一部に用いていたしね。

今、当時の本を読み返してみると、今とほとんど同じような論点が示されていることに驚くよ。けれど、君がそれを吸収していったんだから、大したものさ。嫌味ではなくて、敬意をもっている。

君の誕生の当初は、科学者の出番だったわけだな。これも何度か手紙に書いたよね。結局は、政治が法律を変えるか、具体的な代替案がでるまで、人は納得しない。

科学者の警鐘は、良い意味でも、悪い意味でも政治の道具にされ、その間にエンジニアが解決策を練るって構図は、やっぱり世の中をよく表している気がするよ。

そして、

君も例外なく、政治の渦中に放り込まれたわけだ。

Developmentという政治的イシューとの出会いが君の未来を運命づけた。当時のことを思うと「開発」と訳するのが、ふさわしいと改めて思う。気持ちとしては「発展」のほうがよいけど、経緯は避けられないから。

SDGsのゴール1を「貧困をなくそう」にしたのはその名残だろうし、君らしい判断だった。ゴール1が「海の豊かさを守ろう」だったら、人は納得しないってよく理解していたんだね。

Developmentという相反する言葉と結びついたのは、お互いにとっては幸運だったと信じたい。だから、次の手紙では、その葛藤を僕なりに言葉にしようと考えている。

僕がこうして君の生い立ちをしつこく書くのは、君にはもっと活躍してもらいたいと願っているからさ。その気にさせたのは君の方なんだから、少しぐらい付き合ってくれよな。

またね。

追伸;

君からの知らせは、毎日、目にしているから返信はしなくていいよ。


3,000字近い長文をお読みくださり、ありがとうございます!!!!!!


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