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気づいたら恵美子のおしゃべりクッキングみたいなお料理が出来ていた。


 鶏肉をチンしよう。えっと、今野菜何がある?冷凍のニンジンと、普通のえのきと、豆腐と、れんこんの水煮と。外。外、何がある?天然冷蔵庫を窺った。白菜、白いネギ、ん?長いネギ?なんでもいいや。とりあえず、ネギ。あとは、これ何や?玉ねぎか。多分。うん、しっかりは見ない。


うーん…うーん…(携帯?ナマーモード?ちがう。ちがう。)よし、本能の赴くままに、何となくで、なんか作ろう。


全部使わないくせに、とりあえず、その辺に置く。そういうやり方をするから作業台は狭し。分かっとる。家の中でまで私を責めないで。責めていない。それでは。ビバ・れっつ・エンジョイ・THE・クッキング。…おぉ。ほどよく ださい。まぁいいか。



 鶏肉は…あと、1分半ほどでチンが鳴る。れんこんの水煮の封を開けた。キッチンバサミ。ありがとう、キッチンバサミ。良い切れ味です。


ザルに引っくり返して、とりあえず水を切った。業務スーパーの方角に一礼をしたいくらい、安くて日持ちのするれんこんの水煮隊長。初めてあなたに、ご所望させて頂きます。


うん?ご所望させて頂きます?絶対、日本語間違ってんな。まぁ、いいや。


量を見た。こんなにいらんな。少しだけ。ピクルスにしよう。やったことないけれど。前々からやってみたかったピクルス。全部ピクルスにして、食べられへんのはいややから、ちょっとだけ。


タッパーに。れんこんを入れて。ピクルスの元 的な液体を入れて。蓋をして冷蔵庫。ちょっと、冷凍のニンジンもいれた。失敗しても、あの量なら、なんとかなるか。



うん?鶏、大丈夫?火ぃ、通ってない?電子レンジ残り10秒。扉を開けた。かろうじてセーフ。とりけしのボタンを押した。


白菜と、ネギは今日はいいや。天然冷蔵庫にカムバックさせた。うんと、れんこん。ニンジン。きんぴら…の、つもりでいたが、なんかいいや。却下。ニンジンは、サヨウナラと言って冷蔵庫に帰っていきましたとさ…ニンジンに足、生えて帰ってくれたら どれだけ便利やろ。


 食器もディズニーみたいに、自分の意思で(きれいになって)帰ってくれたら、どれだけええやろ。バスタオルとぉ~、シャンプーの補充とぉ~。言うてる間に、はよ仕舞おう。言うてへんけど。思っているだけやけど。…ニンジン仕舞った。よし。



えっと、未です。(※こういうことしか思えない…)

ご飯あるしぃ、生野菜。キャベツ細いやつ。切ったやつ。私が切った訳やあらへんけど。あれ、あるから~皿盛って、ラップして冷蔵庫。( ノ^ ^)ノ


鶏肉。とりあえず、一口サイズに切ろう。…なんしよ。火ぃ、さえ通っていればなんでも良いか。れんこんと一緒にしようかな。


…うん?あっ。


 その時、視界に白い粉が映った。これ、まぶそう。まぶしちゃう?普段、しない事、まぶしちゃう?合法の白い粉。そもそも何これ。片栗粉かなぁ、これ。確認はしないけれど。まぶすなら、お皿の上に粉をまぶして、何となくで切った鶏置いて。その上からまた、白い粉振りかけて。…雪化粧のできあがり。…じゃなくて、なんか揉んでみたりとかして。…お料理しているみたいやな。…お料理しているねん。ついでに、れんこんさんにも、白い粉まぶしておこう。知らんけど。



奥園流(袋に入れてふりふりするやつ)をする程、調理に計画性のないもんでして。自分のためにしか作らん料理は、例えどれだけシェフの気まぐれが過ぎたとしても、お客さまに害はない。ビバ・自作自演。いや、演じてはいないけれど。



よし。火ぃ、通そう。

いちばん、でかいフライパンに油を入れて、火を付けた。待つ。油の音がする。

 鶏肉を入れた。静か。早かった。でも待てない。イラチ。アワテでもある。 イラチとアワテて、分からはるのかな。…え、誰が?



(※この人はいま、ただお料理をしているだけで誰ともおしゃべりしておりません。)



イラチが、いらいらしぃ…せっかちさん?…で。アワテが、あわあわしちゃう…あわてんぼうさん?(多分。)


どちらも私。振り子のように。行ったりきたりする。


─どうやったら、出来るようになりますか?─

…ん?

─私は、あなたと会話がしたい。─

あぁ…

─そうやって、横着しようとするから。─

そう…。






 どうやったら出来るようになるのか、私がききたい。人の動きも盗み見た。でも出来ない。黙っているのは、真っ当なことしか言われないから。その通りだと思うからだ。すみませんは、聞きあきるだろうなと思うからだ。



─私は、あなたと会話がしたい。─


 あなたのそれは、会話じゃなくて詰問です。理詰めで正しい。非の打ち所もない正論です。




─そうやって、横着しようとするから。─


 …気付いた。これか。能力主義はステルス差別を生むって。私にも出来たから、あなたにも出来るというのは 必ずしも当てはまる訳ではない。でも、反論はしない。ステルス差別をしている本人には、自覚がないのだから。自覚がないのだから、わるぎも起こらないのだから。Mr.サンデル。活かし方の分からない知識やお話は、ただの浅知恵となり波が押し寄せてくるよ。その度にいつも思うのは学ぶのではなかったという事だ。

遠くの方を見つめることの出来る目は、足元を見ることが出来ない。


 一つの事をいっしょけんめいに積み上げてきた人に、なんて言えば良いか分からないよ。あなたと同じように、あなたの望むまま思いどおりに。あなたの思う最低限のレベルすら達成することができなくて。ごめんね。ごめんなさい。すみません、


「─すみません。─」

「─そうやって、すぐ黙っちゃう─」

「─ …。─」

「─ 一体、なになら出来るのですか。─」

 窮寇は迫るべからず。まだそんな言葉がよぎるのか。

 



 鶏肉が、フライパンに引っ付いた。油を上から足してやった。フライ返しで、ごしごし擦ってやった。火ぃさえ通れば大丈夫。粉をまぶしたれんこんを入れた。なんとなくで火を通した。


 大きいお茶碗に、家にある見たことあるような調味料をなんとなくで入れた。ケチャップ。マヨネーズ。砂糖。お酒。お醤油。出汁を少し。混ぜてやった。それを鶏肉とれんこんにかけて、あえてみた。


 気が付くと恵美子のおしゃべりクッキングに出てきそうな一品が出来ていた。何だろう、これ。分かんない。でも、美味しそう。


「センセ、今はれんこんがほんっま、旬ですね。」


似ているのか似ていないのか分からない心の上沼恵美子でモノマネをしてみた。声には出さない。心の中で。外から見れば、ただ、無言でお料理をしただけだ。外から見れば何もない。そう外から見れば。



 浴びせられた言葉の代わりに出来たお料理は、もう一度作ってほしいと言われる定番料理となった。それでいい。たくさんの人においしいと言ってもらえる。お料理となった。それでいいじゃないか。それで。作った本人よりも、作ったものが愛されればそれでいい。



活字コント【お料理エッセイ~おなか、すかない? 寝て、食べて。ととのえる。なんとなくも実力のうち~】


ライター:山本嘉ジ子 

(『暮らしにはさほどお役には立たないと思う手帖』にて編集者として活躍中。遠縁には、ナンデモカジロウこと映画監督の山本嘉次郎がいる。…らしい。)





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