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【architect】コンペ④|磯崎新

前回東京都庁舎におけるコンペに纏わる話を書いたが、その設計競技に纏わるもうひとつのストーリーをご紹介

(↑前回の記事)

このコンペであらかじめ指名された設計事務所は下記の9社である

・日建設計東京本社
・日本設計事務所
・山下設計
・坂倉建築研究所東京事務所
・松田平田坂本設計事務所
・安井建築設計事務所東京事務所
前川國男建築設計事務所
丹下健三都市建築設計研究所
磯崎新アトリエ

一番下の磯崎新アトリエを除けば所員を数百名は抱える組織事務所である

今回注目してもらいたいのは磯崎新という建築家である
磯崎新の建築は難しい
単純な言葉では言い表し難いコムズカシイ事を考えている建築家であるのだが、世界的な評価も高く2019年には建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞している

また先ほど記した9社のうち下から3社の事務所は師弟関係にある

前川國男(1905-1986)東京大学出身で、卒業後近代建築の巨匠ル・コルビュジエの元で修行をした建築家で、数々の公共建築を日本全国に設計した建築界の闘将と呼ばれていた

そしてその前川國男の事務所で修行を積んだのが丹下健三(1913-2005)である
丹下健三も東京大学出身でのちに同大学の教授となる

そしてそしてその丹下健三の右腕として働いていたのが磯崎新(1931-)である
磯崎新は今年90歳を迎えるが言わずと知れた建築界のフィクサー的存在と言える
同じく東京大学出身の磯崎新は丹下健三の研究室に所属し、丹下建築を支えた
1970年の大阪万博では岡本太郎の太陽の塔が建つお祭り広場の大屋根を丹下健三の元で設計した
そんな恩義もあり丹下健三の葬儀において弔辞を読んでいる


そんな東京大学師弟関係の3社が競い合うコンペであったが先にも書いたように勝ったのは丹下健三であり、その競技は『出来レース』であった

恐らくこの『出来レース』は参加者は皆承知していたとも言われている


現在の東京都庁舎は新宿副都心の中の3ブロックにまたがって計画されている
諸条件を検討していくと建築のプランは概ね3パターンに分かれることになる
①ツインタワー案
②低層1棟案
③超高層1棟案

超高層1棟案は庁舎の使い勝手を考えると可能性としてはかなり低い
低層1棟案は庁舎の使い勝手からすると理にかなった案ではあるが3つのブロックにまたがっていることを考えると超法規的措置でなければ採用されることはない
とするとツインタワー案は無難かつ、これが正解のプランなのは皆分かっていたのだ

当然丹下健三がツインタワーを採用することは分かっていた

だがここで低層1棟案で勝負を挑んだのが磯崎新である
余程のことがない限り選ばれない案と知りながら都庁舎としての使い勝手、縦割り行政への疑問、そして師匠丹下健三への挑戦をこめた提案として今持ってこの提出案は磯崎新の一作品として評価されている

この磯崎新の都庁はアート作品としても有名である

四角、三角、丸といった幾何学的な形態をレゴのように積み重ねた形である
中でも球体やピラミッドが浮かんでいるのが不思議である


小さなアトリエに過ぎない磯崎新は、無謀とも言える案で戦いを挑んだがあっけなく丹下健三に席を譲ることとなった
磯崎新も勝てる見込みは無いと分かっていたからこその奇抜な提案だったのかもしれない
もちろん審査の経緯は非公表であった


無事に東京都庁舎は完成し現在でも行政の中枢としての役割を担っているわけであるが、その後丹下健三は日本での仕事からは遠ざかり主に海外での仕事がメインとなる


そんな中、丹下健三が久々に日本での大規模プロジェクトを手掛けた建築が1997年にお台場に完成した

その建築にはどこかで見かけた大きな球体が浮かんでいた

(おわり)

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