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【small design】中銀カプセルタワービル|黒川紀章

中銀カプセルタワービル

東京は中央区銀座にあるビルだ
建築業界の人は知らない人はいないと言っていいほど有名なビルである

中銀は「なかぎん」と読む
地方銀行の名前ではない
中央区銀座にある不動産会社・中銀グループの名前からきていると言われている

竣工は1972年
ときは高度成長期である

設計は六本木の新国立美術館を設計した黒川紀章氏である

黒川氏は2007年に亡くなられた
晩年には都知事選に立候補したりと破天荒極まりない建築家であったが、実作は全国、また世界中にある世界的建築家だ
メディアと建築のあり方をハッキリと意識していた黒川氏はメディアモンスターとの異名も持つ

中銀カプセルタワービルはエレベーターや階段、給排水設備をまとめたタワー型のシャフトに140個のカプセルがまとわりついている
カプセルは幅2.5m・奥行4.0m・高さ2.5mで約6帖ほどのスペースにベッド、テレビ、机、収納、ユニットバスが詰め込まれている
大きな丸窓が特徴で近未来的なつくりになっている

このビルのコンセプトは、老朽化したカプセルは交換可能で、取り外して新しいものに取り替える事で永久に存続していく事
これは黒川氏が提唱していたメタボリズム(新陳代謝)という理論を形で表現したものだ

実際にカプセルは滋賀県でつくられてトラックで運ばれ、シャフトにはボルト4本で取り付けられている


結論から言うと、この黒川氏の目論見は失敗だった
カプセルの交換は可能だが、シャフト自体が老朽化しているのと、給排水などの設備関係の老朽化が著しいのとカプセルが複雑に巻き付いている為改修ができない事態に陥っている

もう数年前から取り壊しか保存かで議論がされているが今はどうなっているかは不明である


だが、黒川氏の思い描いた理想は共感を呼び今でも中銀カプセルタワービルを愛する人は世界中にいる

都会のど真ん中で、小さな寝ぐらのようなカプセルで暮らす
そのライフスタイルは多様で実に様々な人が住んでいるようだ

はじめはセカンドハウス的に平日だけ暮らしていた人が常に住み続けたり、事務所として利用している人も多い

6帖という極小の空間であるが、大都市のど真ん中に自分の城を築いたような感覚は都市に暮らす魅力だろう


現実的な問題はあるが、この中銀カプセルタワービルには『小さい(small)ことで生まれる豊かさ』が詰まっているように思う

小さいカプセルだから、それぞれを分けて交換することが可能になり、小さいから都会でも低家賃で住むことができる。小さいからカプセルが密集することができる。


働き方だけでなく、個人の生き方も変わってきている昨今、このカプセルはある意味個の時代を反映するような建築である

まるで未来を予知していたような黒川氏の建築には学ぶことが多い

メタボリズムという思想は高度経済成長期の経済至上主義に掻き消されるように消滅していったが、これらの思想には実現されずとも膨大な熱量の籠った夢が託されていた

あらゆる問題を孕んでいるが、このような昨今において見直される思想なのかもしれない

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