【architecture】表参道ヒルズ③|安藤忠雄

表参道ヒルズには住人がいることをご存知だろうか

建物の上層階は集合住宅となっている
近くの歩道橋や道路の反対側から眺めるとよくわかる


元々の地権者のための住居と賃貸が38戸ある
よく見ると表参道沿いにしっかり住人用のエントランスがあり郵便ポストもあるのだ
こんな一等地に住めるとは、なんて贅沢なことかと思ってしまう

しかし、それはかつてここが同潤会アパートであったことの名残りである


かくして2006年表参道ヒルズは完成した
当初から建築家安藤忠雄氏が貫き通した提案は3つ

①建物の高さを既存のケヤキ並木の高さ(約18メートル)以下に抑えること

② ファサードは可能な限り商業的な要素を排した、控え目な表現とすること

③ 端の2棟を旧アパートのまま残すこと

建物の高さを低く抑えたが為に、必要な容積を確保するために地下30メートルまで掘られることとなった
地上3階、地下3階、それ以下は駐車場になっているが、これほどまで深く掘るのは至難の業である
日本の建設技術の高さを感じずにはいられない
地下を掘るのは地上で階数を増やすよりうんとお金がかかるのである
土は持ってきて盛土をするより、掘って捨てる方がお金がかかる
安藤忠雄氏はとにかく地下を掘りたがる建築家で私はモグラなんじゃないかと思っているほどだ

とは言え経済的な非効率を知りながらも、表参道のケヤキ並木を超えないというコンセプトを貫く建築家の芯の強さを感じる

平面計画をかつてここにあった同潤会アパートにならって三角形平面の真ん中に空き地を設けるように計画された
この空き地は地下3階から地上3階まで貫く吹抜として姿は変われど残されている


この吹抜けに沿ってスロープでぐるぐる回るように降りたり登ったりするつくりとなっている
スロープは20分の1という勾配で緩くなっているが、一般的には商業施設の床がスロープというのは好ましいことではないとされている
安全面や店舗部分との段差が生じるためだ

しかし敢えてスロープにしたのには理由がある
実は表参道ヒルズの前の歩道は青山通りに向かって緩い登り坂になっているのだ
偶然ではあるがこの勾配と表参道ヒルズの勾配はほぼ等しくなっており、表参道の街並みをそのまま建築に取り込んだ路面店のような感覚を作り出したのだ
ちなみに表参道ヒルズの歩道との境には浅い溝がありそこに水が流れている
これはここが坂道であることを視覚的に表現しているのでいかと私は睨んでいる

表参道を歩く人々は自然と建築に引き込まれて街ブラの延長でショッピングを楽しめるような意図があるのだろう


ファサードというのは建築の外観である
基本的には商業色は控えめなガラスとLED照明、安藤建築の特徴であるコンクリート打ち放しであり落ち着いたデザインとなっている


最後に端の2棟を旧アパートのまま残す提案があったがこれは老朽化がひどく叶わなかった
しかし完全なレプリカとして1棟だけ再建築された
ここはギャラリーなどとして使われているが、このレプリカがあるだけで、かつてここに同潤会アパートが存在したことを思い出させてくれる

(上の写真のみHPより引用)

スクラップアンドビルドにより脈絡のない建築が経済性を伴って隙間なく建てられる東京はカオスな都市として海外からある意味評価されることがあるがお世辞にも計画通りに出来た都市ではない
震災や戦争で度々真っ白になった都市は無計画につくられ、都市の持ってきた歴史すらおざなりにしてきた
表参道ヒルズには、資本主義の波にもまれる東京にあって記憶という側面で過去を未来に繋げることを意図してつくられた建築だと思う

様々な方面からの圧力にも負けず、主張を貫き通すのは並大抵のことではない


地権者との話し合いの際

「安藤さんの建築に対する思いは分かるけど、お金はどうするのか」という話ばかりだったという

ですから、初めにそれは諦めて下さいと建築家は言った
これはパブリックな建築ですから、都市への影響を考えずに建築をつくることはできない、と

建築家には、単にデザインが上手とか絵が上手いとかといった才能だけでなく、

粘り強さや想いの強さ、人を惹きつける力が求められることを教えられた


さすが元ボクサー、闘う建築家安藤忠雄である

(おわり)

この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?