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年の瀬に振り返る、我がありよう〜 2000年を経て聞こえる、孤高の囁き

いかに佳い生き方ができるか、
どういう善人になり得るか、
常に自分を客観視すること。
そのためには頭で考えていること、
胸にしまってあることすべてを
書き連ね、内省すること。

このご時世だからこそ、紀元2世紀の第16代ローマ皇帝、マルクス・アウレーリウスが著した「自省録」(神谷美恵子訳、岩波文庫)について、少し触れさせてください。

全盛期を過ぎたローマ帝国にあって、その衰退や諸国との戦争など沢山の問題を抱え、悩み多き執務、様々な判断を担う孤独な皇帝。眠れぬ夜にひとり、一行ずつ書き連ねていた内省録。だからこそ、自身を鼓舞する彼の言葉には、経験から滲み出る説得力があり、現代に生きる僕らの心にも強く響きます。僕なんかとはスケールが違いますが、人間の悩みは2000年前も今も変わらないのだと。

僕が本書を得たのは、同世代の友人のおかげ。十数年前の師走の夜、彼と2人で飲みに行き、僕は仕事や家族のことなど、後で反省する程あけっぴろげに、打ち明けていました。熱燗も効いたのでしょう。

すると数日後、彼から宅配便が届きました。荷を解くと1冊の文庫本。ページの間に分厚い一枚の葉書が差し込まれており、こう書かれていました。

「我が愛読書、自省録です。
勝手に送りつける非礼をお許しください。」

万年筆のブルーブラックの文字、2行だけの達筆。僕はぐっと来て、直ちに読み始めました。以来、ボロボロになる程読み込んで、今では買い替えた2冊目を読み返しています。

本書には珠玉のような言葉が沢山綴られていますが、最も心に刻みたいのは「宇宙即変化、人生即主観」。その意味は次のように説明されています。

「事物は魂に触れることなく外側に静かに立っており、わずらわしいのはただ内心の主観からくるものにすぎないということ。」
「すべて君の見るところのものは瞬く間に変化して存在しなくなるであろうということ。そしてすでにどれだけ多くの変化を君自身見とどけたことか、日夜これに思いをひそめよ。」

今まさに読むべき古典。感染拡大が続く現在、先行きが不透明で不安な日々の中、著者が2000年の時を経て、囁いてくれています。

「未来のことで心を悩ますな。必要なら君は今現在のことに用いているのと同じ理性をたずさえて未来のことに立ち向かうであろう。」

また、神谷美恵子さんの訳文も実に素晴らしく、疲れた心を癒やし、気持ちを落ち着かせてくれます。

今年を振り返り、自分だけの自省録を記すのも有りですね。

静かに僕の話を聞いてくれた友の笑顔が、この師走の夜によぎります。

「年の瀬や寝床の供に「自省録」」弥七


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