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僕と妹。親友との物語/ S&S OPEN TALK #66

SLOW&STEADY ではオープン直後から、お客様からの相談窓口として、LINE@を利用しています。
その内容は、商品の在庫状況の確認から始まり、商品ご購入後のアフターケアに至るまで多種多様ですが、そんな中「これは多くの方も同じようなお悩みをお持ちのはず」と感じるようなご質問も少なくありません。さらに、そういったご質問ほど短文では返しづらいのが正直なところで、そこでこの度、そんな魅力的なご質問の数々をピックアップさせていただき、ここnoteにてマガジンという形で回答させていただく、という試みを開始いたします。

名付けて『OPEN TALK』今回はこんなメッセージからです。

「素晴らしき洋服人生」

自分は今年50歳になります。子供がいないというのもありますが、若い頃に比べると随分生活にも余裕が出てきましたが、歳を重ねるごとに洋服への興味が薄くなり、正直、今では「なんでもいいんじゃないか」ということまで頭をよぎります。現状なんとか踏みとどまっているような状態です。
仕事なのは承知のうえで店長さんに聞きたいのですが、長年洋服にそこまで熱意を注げるのはなぜですか?この連載然りブログやインスタグラム(過去の作文企画)などをみても、少し他店とは違った熱量があるように感じます。店長さんのご意見を聞くことで自分の下がっている洋服に対するモチベーションも上がるのではないかと思い質問してみました。

神奈川県 ポロック様

S&S OPEN TALKを始めて1年半以上が過ぎ、こういった私的なご質問も多数いただけていることが嬉しいです。

実は今回の文章ですが、数年前に僕の気持ちを整理するために書いていた個人的な文章をベースに今回いただいたご質問に対して修正や追記を加えたものです。公的な場所で出すことは決してないだろうと思っていましたし 迷いはありましたが、今回この文章を公表するにあたり 事前に関係する方達に相談すると、

「ぜひ公表してください。きっと誰かの力になるはずですから。」

との温かいお言葉をいただいたので思い切ってアップします。

・・・

僕が洋服を好きになった理由や、助けられたと思う場面は、
正直20年以上やっていますので、大小様々なことが頭をよぎります。

これは洋服好きなら誰しもが経験していることかもしれませんが、例えば、学生時代、自慢の洋服を着ることで自分には高嶺の花だと思っていた女性に堂々と気持ちを伝えられたり、洋服好きな年上の友人ができたり、自分が好きなものを堂々と周りに伝えられるようになったり。

中学時代に好きになって以降、洋服というのは僕にとって 自分が自分らしくいられる道具であり、苦しい時や辛い時に自分を支えてくれる いわば「添え木」のような存在であることは確かです。
数えきれない洋服との思い出の中でも、今回は僕が洋服の素晴らしさや "力" みたいなものを 最も強く感じたエピソードを紹介します。

・・・

僕は、自分の店を始める前 とあるセレクトショップで働いていました。
そこで一緒に働いていた後輩(女性)とのエピソードです。

記憶が曖昧になっていますが、彼女と一緒に働いていたのは 今から15年前ぐらいでしょうか。僕が22歳〜27歳までの5年間ぐらいだったと思います。

3つ年下の彼女。 同じフロアで働いていた際、お客さんが試着し自分が「似合っていない」と感じたものは、絶対に口が裂けても勧めないという正直者で頑固者。仕事は真面目にこなすうえ持ち前の明るさで、お店のムードメーカー的な存在でした。
さらに、他にはないセンスの持ち主で、当時のスタッフ全員が彼女の持ち物には強い刺激を受けました。かくいう僕も彼女の嘘のないアドバイスにどれだけ助けられたでしょう。

その反面、何か困ったことがあるたび、泣きながら相談を持ちかけてくるという 不安定で繊細な部分も同時に持ち合わせていました。

変わり者どうしだからかなぜか彼女とは波長が合い、僕が参加する飲み会、それが合コンだろうが なんだろうがどこに行くにもついてくるほど 仲良くなっていきます。友人というより僕にとってまるで妹のような存在に。
事実、彼女もまた僕のことを冗談まじりに "兄ちゃん" と呼ぶこともしばしばありました。

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その後、彼女がお店を辞めた後も、親友であり兄妹としての付き合いは変わらず続いていきます。当店のオープンを誰より楽しみにしてくれており、開店日には赤ワインの入ったアニバーサリーボトルをプレゼントしてくれました。

あまりに僕が喜んだからなのか、最初からそのつもりだったのか 定かではないですが それから毎年、店の周年が来るたびに持ってきてくれました。
今も毎年一本づつ増えるこのボトルは僕のとって何より大切な宝物です。

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彼女が僕の親友でもある男性と婚約をしたのが2016年。

ただその年、彼女は長年苦しめられてきた難病が悪化します。そして移植を直前に控え、希望に燃えていた矢先に天国へ行ってしまいました。

僕は彼女の闘病期間中、メッセージを書いた紙を折り鶴にして 彼女にほぼ毎日LINEを送り続けました。返信はいつも冗談まじり。たまに愚痴をこぼす程度で至っていつもどうりの彼女らしい返信でした。

いつもと変わらないLINEの返事に加えてこれまでも体調が不安定な時はたびたびあったことも重なり、心配ではあるものの いつも通り元気になってくれることに少しの疑念も抱いていませんでした。

そう。彼女の状態を理解してると勘違いしていたのは僕だけでした。

LINEのやりとりが100日を過ぎた頃です。数日待ってもLINEの返信が来なくなりました。彼女が息を引き取ったのはそれから数日後のことです。
看病にあたっていた彼女の母親がほんの少し病室を出るその時を見計らったように...

・・・

葬儀は彼女の強い希望により、彼女の家族と婚約者の親友と僕。
数人だけの密送という形でひっそりと行われました。

棺に入った彼女が着ていた白のドレスを目の当たりにして、僕は体が固まりました。それは彼女のセンスを物語るような まるで親友や僕に見せつけてやろうと言わんばかりの最高に素晴らしいものでした。ドレスを身に纏った彼女の姿はお葬式だとは思えないほどに美しく輝いていました。

彼女の母は、このドレスは彼女が「最後のわがまま」だと言い、彼女が大好きだった某ブランドのデザイナーに個人オーダーしたものだと説明してくれました。

「移植がうまくいけばこれが自分のウエディングドレスに。うまくいかなければこれを着せて棺に入れて欲しい。どっちにしてもダサい洋服着たくないから」

そう言っていた...と。

自分の生死をかけてなお、お気に入りの洋服を着たいと願う彼女らしい発言とその覚悟に僕は震えと涙が止まりませんでした。
これも後で聞いた話ですが、ベッドで転げまわるほどの苦しみのなかで、僕からのラインに返信をくれていたこと。
時には口頭で伝えた内容を彼女の母親が文字を打つこともあったそうです。

あれだけ人一倍 泣き虫だった彼女が、愚痴を吐き当然に泣きわめいてもいい場面で、僕には最後まで泣き言ひとついいませんでした。

どこか頼りなかった妹は、いつしか僕より何十倍も強くて素敵な大人になっていたことにその時やっと気づかされました。
100日以上に渡って毎日のように励まされていたのは僕の方だったんです。

彼女が亡くなり3年後、僕はそのラインのやり取りを本にし、彼女の家族と婚約者である親友に渡しました。

僕も最近になってその本を最後までゆっくり見えるようになりましたが、いつ読み返しても強気で前向きな文章のやり取りの数々に胸が締め付けられます。

彼女が返信してくれたLINEのなかで、

「今のまま好きなものだけを扱う洋服屋さんを続けて。早くお店に遊びに行きたい!好きな洋服を着てみんなで旅行に行きたい!」

この言葉は、仕事が嫌になりそうな時に必ずと言っていいほど頭をよぎり、その度に僕を奮い立たせ続けてくれています。

・・・

彼女が最後の最後まで頑張れたのは、家族の支え、婚約者の支え、さらにオーダーメイドしたドレスを着たい。自分の好きな洋服を着て元気に遊びに行きたいと願う強い思いでした。

彼女がドレスに想いを馳せ力をもらえたように、洋服というのは時に生きる力となり、思い出を蓄積するメモリーカードになり、人の希望となり、自分が本当に苦しい時にそっと助けてくれる。
そのことを彼女は身を持って僕に示してくれました。妹と話した数えきれないほどの洋服談義が今でもまるで昨日のことのように思い出されます。

僕自身も密葬という形を取っている以上、彼女が亡くなったことを一定期間誰にも口に出せず これ以上ない悲しみの中で いつもどうりお店に立ち続けられたのは 彼女の言う通り、信じた洋服たちに囲まれ お店に来てくれる多くのお客さんがいてくれたからです。

そんな経験をしたからこそ、彼女が僕に伝えてくれた洋服の力や素晴らしさを少しでも多くの人に伝えていきたいと人一倍強く思っています。それが外から見れば少し熱苦しく見えてしまう原因なのかもしれませんね。

店に来てくれる皆さんと洋服についてあーだこーだと馬鹿話ができる毎日がどれだけ幸せなのかを噛み締めながら、今日より明日。明日より明後日のほうが洋服が好きだと言える自分を目指して これからも試行錯誤を続けます。中途半端なことをしていたら天国の妹にドヤされますしね。

余談ですが妹が送り続けてくれていたアニバーサリーボトルは、婚約者である親友が妹に変わり現在も送り続けてくれています。早いもので彼女が送ってくれた5本と親友がくれているボトルが今年の2月に同じ数になりました。

彼女の家族とは現在も交流が続いており、お酒が大好きな家族たちとの「泣き笑い飲み会」は毎回、夜遅くまで繰り広げられます。
僕にとっては妹のことを共有できる大切な時間となっています。

・・・

こんな体験はできればもうしたくないですが、家族同様..
いや、それ以上の縁をくれた "洋服" には感謝の言葉しかありません。
良い人生かどうかを今の時点で判断することは難しいですが、
僕自身は洋服に出会えたおかげで、
最高に濃厚な毎日を過ごせている自負はあります。

最後に。皆さんにひとつだけ質問します。

「今日が人生最後の日だったらどうしますか?」

きっと、どんな人でも持っている洋服を一生懸命に吟味して外に出かけるはずです。それって誰しもが洋服が持つ力を無意識下で理解できているからだと思うんです。

洋服とは、日々を豊かにする素晴らしい道具です。だから「どうでもいい」なんて寂しいことは言わないでください。洋服の楽しさを知っているうえでそれを謳歌できるなら精一杯楽しみましょう!

いつか実際にお会いして熱い洋服談義ができることを心から願っています。

                                                             ✉️

今週は、以上です。
ここでは、あくまで僕の答えられる範囲内にはなりますが、このマガジンを使って、皆様からお寄せいただく「洋服に関するご質問やお悩み」を、ざっくばらんにご紹介しております。個別の商品に関するご質問ももちろん歓迎です。ご質問は、LINE@(http://slow-and-steady.com/news/lineat/)の他に、下記メッセージフォームより随時受けつけております。どうぞお気軽にご連絡ください。

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